グラント・グリーンの凄い演奏を聴くには、リーダー作だけではなく60年代半ばにブルー ノートで活躍したオルガニストのジョン・パットンのアルバムも聴く必要があるというこ とを昨年書いた。しかし「そうだ、そうだ!」と賛同する意見は、思ったよりもグーンと 少ない。あれぇー、どうしたんだろう。ということで、パットンのアルバムでのグリーン について、もう一度書くことにする。前回紹介したのは1966年のアルバム『ガッタ・グッ ド・シング・ゴーイン』だが、今回紹介するのはその前に録音されたアルバム『レッテム ・ロール』である。これが凄い。何が凄いって、あーた。グリーンとパットンのオルガン ・トリオに絡むのは、60年代の新主流派ジャズと言われたサウンドの立役者の一人ともい えるボビー・ハッチャーソンである。ソウル・ジャズと新主流派ってどんなサウンドにな るのだろうという杞憂もなんのその、このサウンドはぼくをぶちのめしたのである。 まずはアルバム冒頭を飾るタイトル曲《レッテム・ロール》。シャッフル風のリズムにの せて全員で奏でられるテーマがカッコイイ。ハッチャーソンを意識したパットンのアレン ジか、はたまたハッチャーソンの持つサウンドそのもののチカラによるものか。おそらく 両方だと思うが、ブルージーなテーマなのに”モーダル”で”知的な”新主流派っぽい雰 囲気が漂う。このR&Bなんだけども知的な香りのするサウンドに、ぼくはやられてしま った。数あるブルーノートのアルバムでも、こんなサウンドが聴けるのはこのアルバムだ けであろう。これがハッチャーソン効果である。そしてとびだすグリーン。グリーンは本 調子ではないようだ。普段のグリーンが120%の燃焼度だとすると、85%くらいのできであ る。しかし、そんなソロを帳消しにするように、他のメンバーをプッシュするグリーンの ブルージーなリフのカッコイイこと。これだけで、ぼくなんかグイグイのってしまう。 そして、このアルバムの最高傑作《ラトーナ》が続く。冒頭の左チャンネルから聴こえる グリーンと右チャンネルのハッチャーソンのリフが、これまたカッコイイ。そして、知的 な香りのするテーマがきて、サウンドのカッコよさは頂点に達する。先発ソロはハッチャ ーソンだが、ここでこのアルバム一番のグリーンの聴きどころが訪れる。このリフ!。バ ッキングのギターのリフのなんてカッコイイこと。オルガンのサウンドにバッチリと決ま った、見事すぎるフレージングである。このあまりにもカッコよいギターのバッキング・ リフによって、せっかくのハッチャーソンのソロがかすんでしまっている。バッキングの リフとリズムをよく聴くとわかるが、実はこの曲はラテンをベースに創られている。しか しこのグループの醸し出す斬新なサウンドゆえ、陽気なラテンぽさのようなものは微塵も 感じない。ラテン・ソウル・ジャズでも、見事に知的な香りのするサウンドなのである。 続いては、当時のヒット曲《ザ・シャドウ・オブ・ユア・スマイル》が取り上げられてい る。この曲は、この当時やたらとカヴァーされている。グリーンとパットンの演奏も、箸 休めというか、とりあえずヒット曲を1曲入れておきましたというレベルなので、とくに どーのということはない。しかしそれに続くハンク・モブレー作のジャズ・ロック《ザ・ ターンアラウンド》では、グリーンもパットンも得意技を次々と繰り出している。おそら くこの手の演奏が、グリーンとパットンのグループが最も得意とするところだったのだろ う。ずっしりと重たいオーティス・フィンチのドラムスもよく健闘している。こーなると もはやジャズのリズムとは言えない。あきらかにロックのリズムである。しかし次のパッ トン作《ジャーキー》で、「オレ達はR&Bだけではなく、ちゃんとジャズだってできる んだぜ」という感じで、演奏スタイルの幅が広いところを印象づけることも忘れない。 アルバムの最後を飾るのは、5/4拍子のパットン作の《ワン・ステップ・アヘッド》で ある。5/4拍子というと《テイク・ファイヴ》を思い出すが、さすがにグリーンとパッ トンがやると渋い。グリーンは割とまとまったソロをとるが、やはり最高なのは《ラトー ナ》の斬新なバッキング・リフだろう。このアルバムのグリーンは、つっかえたり、もた ったりして、明らかに本調子ではない。それでもリリースされたのは、ハッチャーソンの 参加によって化学変化を起こしたグループのサウンドと、《ラトーナ》におけるグリーン の斬新なバッキング・リフが捨てがたかったのだと思うのである。あれ、やっぱり今回も パットンのことを殆ど書いていないではないか。でも良いのである。当時大人気だったダ イアナ・ロスを思わせるようなブルーノートきってのカッコいいジャケットを眺めながら 、斬新なサウンドともの凄いグリーンのリフを大音量で浴びればそれで良いのである。