●グリーン聴くならパットンも聴け:その2

グラント・グリーンの凄い演奏を聴くには、リーダー作だけではなく60年代半ばにブルー
ノートで活躍したオルガニストのジョン・パットンのアルバムも聴く必要があるというこ
とを昨年書いた。しかし「そうだ、そうだ!」と賛同する意見は、思ったよりもグーンと
少ない。あれぇー、どうしたんだろう。ということで、パットンのアルバムでのグリーン
について、もう一度書くことにする。前回紹介したのは1966年のアルバム『ガッタ・グッ
ド・シング・ゴーイン』だが、今回紹介するのはその前に録音されたアルバム『レッテム
・ロール』である。これが凄い。何が凄いって、あーた。グリーンとパットンのオルガン
・トリオに絡むのは、60年代の新主流派ジャズと言われたサウンドの立役者の一人ともい
えるボビー・ハッチャーソンである。ソウル・ジャズと新主流派ってどんなサウンドにな
るのだろうという杞憂もなんのその、このサウンドはぼくをぶちのめしたのである。

まずはアルバム冒頭を飾るタイトル曲《レッテム・ロール》。シャッフル風のリズムにの
せて全員で奏でられるテーマがカッコイイ。ハッチャーソンを意識したパットンのアレン
ジか、はたまたハッチャーソンの持つサウンドそのもののチカラによるものか。おそらく
両方だと思うが、ブルージーなテーマなのに”モーダル”で”知的な”新主流派っぽい雰
囲気が漂う。このR&Bなんだけども知的な香りのするサウンドに、ぼくはやられてしま
った。数あるブルーノートのアルバムでも、こんなサウンドが聴けるのはこのアルバムだ
けであろう。これがハッチャーソン効果である。そしてとびだすグリーン。グリーンは本
調子ではないようだ。普段のグリーンが120%の燃焼度だとすると、85%くらいのできであ
る。しかし、そんなソロを帳消しにするように、他のメンバーをプッシュするグリーンの
ブルージーなリフのカッコイイこと。これだけで、ぼくなんかグイグイのってしまう。

そして、このアルバムの最高傑作《ラトーナ》が続く。冒頭の左チャンネルから聴こえる
グリーンと右チャンネルのハッチャーソンのリフが、これまたカッコイイ。そして、知的
な香りのするテーマがきて、サウンドのカッコよさは頂点に達する。先発ソロはハッチャ
ーソンだが、ここでこのアルバム一番のグリーンの聴きどころが訪れる。このリフ!。バ
ッキングのギターのリフのなんてカッコイイこと。オルガンのサウンドにバッチリと決ま
った、見事すぎるフレージングである。このあまりにもカッコよいギターのバッキング・
リフによって、せっかくのハッチャーソンのソロがかすんでしまっている。バッキングの
リフとリズムをよく聴くとわかるが、実はこの曲はラテンをベースに創られている。しか
しこのグループの醸し出す斬新なサウンドゆえ、陽気なラテンぽさのようなものは微塵も
感じない。ラテン・ソウル・ジャズでも、見事に知的な香りのするサウンドなのである。

続いては、当時のヒット曲《ザ・シャドウ・オブ・ユア・スマイル》が取り上げられてい
る。この曲は、この当時やたらとカヴァーされている。グリーンとパットンの演奏も、箸
休めというか、とりあえずヒット曲を1曲入れておきましたというレベルなので、とくに
どーのということはない。しかしそれに続くハンク・モブレー作のジャズ・ロック《ザ・
ターンアラウンド》では、グリーンもパットンも得意技を次々と繰り出している。おそら
くこの手の演奏が、グリーンとパットンのグループが最も得意とするところだったのだろ
う。ずっしりと重たいオーティス・フィンチのドラムスもよく健闘している。こーなると
もはやジャズのリズムとは言えない。あきらかにロックのリズムである。しかし次のパッ
トン作《ジャーキー》で、「オレ達はR&Bだけではなく、ちゃんとジャズだってできる
んだぜ」という感じで、演奏スタイルの幅が広いところを印象づけることも忘れない。

アルバムの最後を飾るのは、5/4拍子のパットン作の《ワン・ステップ・アヘッド》で
ある。5/4拍子というと《テイク・ファイヴ》を思い出すが、さすがにグリーンとパッ
トンがやると渋い。グリーンは割とまとまったソロをとるが、やはり最高なのは《ラトー
ナ》の斬新なバッキング・リフだろう。このアルバムのグリーンは、つっかえたり、もた
ったりして、明らかに本調子ではない。それでもリリースされたのは、ハッチャーソンの
参加によって化学変化を起こしたグループのサウンドと、《ラトーナ》におけるグリーン
の斬新なバッキング・リフが捨てがたかったのだと思うのである。あれ、やっぱり今回も
パットンのことを殆ど書いていないではないか。でも良いのである。当時大人気だったダ
イアナ・ロスを思わせるようなブルーノートきってのカッコいいジャケットを眺めながら
、斬新なサウンドともの凄いグリーンのリフを大音量で浴びればそれで良いのである。

『 Let 'Em Roll 』 ( "BIG" John Patton )
cover

1.Let 'Em Roll, 2.Latona, 3.Shadow of Your Smile 
4.Turnaround, 5.Jakey, 6.One Step Ahead 

GRANT GREEN(elg), "BIG" JOHN PATTON(org), 
OTIS FINCH(ds), BOBBY HUTCHERSON(vib)

Recorded : Dec 11, 1965
Produced : Alfred Lion
Label    : Blue Note
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