●知られざるジョージの傑作

毎年12月初めのこの時期になると、ビートルズ関係がなにかと騒がしくなる。ジョンの命
日が12月8日なので、”ジョン・レノン・トリビュート”などのメールが多くなるのだ。
それはそれで”ジョン・レノンを偲びましょう”ということなので別に良いのだが(あま
り興味はないけど)、ふと「ジョージは、どうなっているんだよ、えーっ」と思うのであ
る。ジョージが亡くなったのは、2001年11月29日(日本時間では11月30日)。ジョンだけ
ではなく、ジョージのことももっと取り上げてもええんでないかいといつも思うのだ。「
そうなんです。ですから今年はジョンの追悼コンサートで、”ジョージの曲も数曲演奏”
します」とのことだそうだが、「結局は《サムシング》などのビートルズ・ナンバーしか
やらへんのやろー」と、ついつい悪態をついてしまいたくなるのである。こんな善良なぼ
くを怒らせてしまうほど、ジョンに比べてジョージの扱いは小さいのだ。

扱いのみならず、ジョージの曲というと、なにかあればいつもビートルズ時代に創った数
曲が取り上げられるのみ。最近はやっとビートルズ解散後のジョージの音楽にも眼が向け
られるようになったが、ぼくに言わせれば「まだ、まだ、もひとつおまけにま〜だ」くら
いに足りない。結局世間は、ジョージの音楽についてなにも知らないに等しいのではない
かと思ってしまうのである。ビートルズというあまりにも偉大なバンドにいたジョージに
対して、ビートルズの影を追い求めてしまうのは仕方のないことなのかもしれない。いま
や伝説になったというエリック・クラプトンを従えた来日コンサートでも、ビートルズの
曲のほうが圧倒的に拍手が多かった。しかしである。ジョージの音楽は、ビートルズ解散
後に大きく花開き、そのギター・プレイとともに熟成していくのである。解散後のジョー
ジの音楽を聴いていないなんて、損もいいとこなのだ。

昨年はダーク・ホース時代の全アルバムがリマスターされ、ボックス・セットも発売され
た。これらのアルバムに収められている魅力的なジョージの音楽を、いったいどれだけの
人が知っているのか。ビートルズ・ファンの人でも、意外と聴いていない人が多いのでは
ないか。名曲の《ラヴ・カムズ・トゥ・エヴリワン》や、間奏で飛び出すジョージのスラ
イドのフレーズがたまらない《ブロウ・アウェイ》をどれだけの人が口ずさめるのか。確
かに《イエスタディ》のような世紀の名曲ではないかも知れない。しかし、そこいらのつ
まらないポップスや商業的なロックが、たばになってもかなわない傑作ということだけは
確実なのである。『クラウド・ナイン』のタイトル曲のスライド・ギターなんて、その存
在感でゲストのエリック・クラプトンを圧倒しているのだ。こんなに魅力的で、かつ聴き
どころの多いジョージの音楽なのに、聴いている人って本当に少ないんだよなー。

そんなぼくが今回いちばん言いたいのが、『ゴーン・トロッポ』のことである。元ビート
ルズのジョージ・ハリスンに『ゴーン・トロッポ』というアルバムがあることを知ってい
る人はいますか。あれー、ほとんどいないじゃないですかぁー。じゃあ知っているという
キミ、『ゴーン・トロッポ』のことを説明してください。えー、イギリスではチャート・
インしなかったアルバム。それは確かにそうですがー。アメリカでも108位。それもその
とおりですけどー。ジョージがこんなアルバムを作ったことが残念って、それは『エレク
トリック・サウンド』のことではないのですかー。ジョージの失敗作って、商業的には確
かにそうかもしれませんがぁ。ジョージのアルバムでなかったら買わなかったって、もう
ええかげんにせい!。冒頭のキャッチーな《ウェイク・アップ・マイ・ラヴ》から最後の
しっとりとした《サークルズ》まで佳曲のオンパレードではありませんか。

なによりもこのアルバムの音楽が持つリラックス感が良い。ジョージのスライド・ギター
も実にのびのびとしている。なにを隠そう、ぼくはダークホース時代のアルバムの中で、
このアルバムが一番好きなのである。ユーモアを忘れないジョージらしく、《アンノウン
・デライト》では《サムシング》のギターフレーズも飛び出す。ジョージが本質的に持っ
ている”サウンド指向”が、素直な形で反映されたアルバムだ。そしてそのサウンドは、
まったく色褪せてはいない。アルバムに参加したジョー・ブラウンは、ジョージの追悼ラ
イヴでこのアルバムの《ザッツ・ザ・ウェイ・イット・ゴーズ》をマンドリンを抱えて歌
った。楽しかったアルバム制作時のことを思い出しているようなブラウンの表情を、僕は
涙なしに観ることは出来ない。そしてもっともっと『ゴーン・トロッポ』の良さに、みん
なが気がついてほしいといつも思うのである。

『 Gone Troppo 』 ( George Harrison )
cover

1.Wake Up My Love, 2.That's The Way It Goes, 3.I Really Love You
4.Greece, 5.Gone Troppo, 6.Mystical One, 7.Unknown Delight, 
8.Baby Don't Run Away, 9.Dream Away, 10.Circles

+ Bonus track

11.Mystical One (Demo Version)

GEORGE HARRISON(vo,g,elg,b,syn,mandollin,marimba,jal-tarang),
HENRY SPINETTI(ds),JIM KELTNER(ds),DAVE MATTACKS(ds),
RAY COOPER(per,elp,glockenspiel),MIKE MORAN(key,syn),HERBIE FLOWERS(b)
BILLY PRESTON(key,org,p,syn,rodina sloan,cho),GARY BROOKER(key),JON LORD(syn),
NEIL LARSEN(p),WILLIE WEEKS(b),ALAN JONES(b)
JOE BROWN(mandollin,chio),VICKI BROWN(cho),
WILLIE GREENE(bass-voice),BOBBY KING(vo),PICO PENA(vo),
SYREETA(cho),SARAH RICOR(cho)

Recorded : May-August, 1982 FPSHOT
Produced : George Harrison, Ray Cooper & Phil McDonald
Label    : dark horse
  
※上記のイメージをクリックすると、Amazonにて購入できます