●ロックへの旅:トゥッティ・フルッティ
    (リトル・リチャード:1955)

「アワッバパルマッパ・ラッバンブン」という意味不明のフレーズでいきなり始るのが、
リトル・リチャードのデビュー曲《トゥッティ・フルッティ》です。リチャードといえば
、ビートルズでロックに目覚めた人にはチャック・ベリーと並んでお馴染みの名前ではな
いかと思います。ポールが歌った《ロング・トール・サリー》1曲で、リチャードの名前
は世界的に有名になったことでしょう。ポールだけではなく、リチャードはジョンにもか
なりインパクトを与えたようで、ソロ時代になってからのジョンは、何曲かリチャードの
曲をカヴァーしています。リチャードのことをよく知らなかった頃は、ジョンとポールに
影響を与えたロックン・ローラーというだけで、どのような人物なのか興味をそそられた
ものでした。そして現物を見てビックリ。なんとリチャードは、アイシャドウや口紅をつ
け、金ラメの衣装をまとった、美川憲一を彷彿とさせる人物だったのです。

しかしリチャードがピアノに向かって歌いだすと、物凄い迫力に驚いたものでした。その
迫力のためか、歌っているあいだだけは、彼の奇妙な見た目が気にならなかったから不思
議です。実際に《トゥッティ・フルッティ》を聴いた人がまず感じるのも、リチャードの
ヴォーカル・パフォーマンスの凄さではないでしょうか。とくに注目すべきは、リチャー
ド以前の音楽には存在しなかったであろう熱狂的なシャウトです。とくにビートルズのト
レードマークにもなった”フゥー”という高音域の叫びや、サックス・ソロに入る前の”
アゥッ”というシャウトは、リチャードの歌い方がロックン・ロールの一つのスタイルと
なったことを表しています。ハンク・バラードとザ・ミッドナイターズというグループが
1954年に似たようなスタイルのR&Bヒットを出していますが、リチャード以前にはこの
ような熱狂的な歌い方は存在していないのです。

ではなぜリチャードは、そのようなスタイルを自分のものにすることができたのでしょう
か。リチャードには下積みの時代もあり、《トゥッティ・フルッティ》以前の音源も残っ
ています。その多くはブギ・ウギとジャンプ・ブルースですが、リチャードのヴォーカル
はまだ先にあげたようなロックン・ロールのオリジナルといえるようなスタイルにはなっ
ていません。レコーディングが上手くいかない苛立ちから迫力あるヴォーカル・パフォー
マンスとなったという説もありますが、少なくとも音源を聴くかぎり、パフォーマンスは
十分に完成されたスタイルになっており、突発的な事情でスタイルが決定づいたというも
のではないと思います。それでなくてもせっかくまわってきたレコーディングのチャンス
です。下積みを耐えてきたリチャードは、このチャンスを活かそうと持てるだけのパワー
を注ぎ込んだに違いありません。

そのパワフルな感情が、そのまま《トゥッティ・フルッティ》のパワーになっていると思
うのです。おそらくは”フゥー”も”アゥッ”も、レコーディングのチャンスが巡ってき
たことの歓喜の叫びだったに違いありません。リチャードはレコーディングに燃え、ノリ
にノッた。その結果、下積み時代に溜められた様々な感情(ゲイであったリチャードは、
黒人であること以上の差別もあったのでしょう)が一気に爆発したのが、《トゥッティ・
フルッティ》のパフォーマンスではなかったかと想像するのです。そしてリチャードがヴ
ォーカルにこめたパワーは、そのままロックン・ロールという音楽のパワーとなったと言
っても過言ではないと思います。リチャードのエモーショナルな”フゥー”や”アゥッ”
が歌の中にあったからこそ、若き日のジョンやポールも(おそらくは無意識に)熱狂して
、モノマネをするうちに大きな影響を受けたのではないかと思うのです。

また注目すべき点は、ヴォーカル・パフォーマンスに留まりません。リチャードの演奏す
るピアノを聴いて下さい。バックの演奏は、ブギ・ウギやジャンプ・ブルースの流れを感
じさせる4ビートです。しかし、リチャードのピアノは8ビートなのです。つまりバック
の演奏者たちの感覚が、リチャードの新しい感覚についていけてない。ただしこの時点で
は、リチャードも明らかにそれを許容してレコーディングを行っています。リチャードが
ピアノで弾いている新しいリズムにあわせるベースやドラムスのリズム・パターンは、こ
の時点ではまだ世の中に存在していなかったのです。このリチャードのピアノの8ビート
こそが、新しい時代のロックン・ロールのビートとなっていくのです。つまりリチャード
の《トゥッティ・フルッティ》は、ヴォーカルとリズム面でのロックン・ロールのオリジ
ナリティを発揮した、画期的なロックン・ロールのパフォーマンスと言えるのです。
《 Tutti Frutti 》( LITTLE RICHARD )
cover

Little Richard(vo,p)
Lee Allen(ts), Alvin Tyler(bs), Earl Palmer(ds)

Written  by: Dorothy La Bostrie, Richard Penniman, Joe Lubin
Produced by: Robert "Bumps" Blackwell
Recorded   : September, 1955
Released   : December, 1955
Charts     : POP#17, R&B#2
Label      : Specialty

Appears on :Georgia Peach
1.Tutti Frutti, 2.Baby, 3.I'm Just A Lonely Guy, 4.True Fine Mama
5.Kansas City/Hey-Hey-Hey-Hey, 6.Slippin' And Slidin'(Peepin' And Hidin')
7.Long Tall Sally, 8.Miss Ann, 9.Oh Why?, 10.Ready Teddy
11.Hey-Hey-Hey-Hey, 12.Rip It Up, 13.Lucille,  14.Heeby-Jeebies
15.Can't Believe You Wanna Leave, 16.Shake A Hand
17.All Around The World, 18.She's Got It, 19.Jenny Jenny
20.Good Golly Miss Molly, 21.The Girl Can't Help It
22.Send Me Some Lovin', 23.Ooh! My Soul, 24.Keep A Knockin'
25.Whole Lotta Shakin' Goin' On

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