●ウェイン・ショーターのメロディの迷宮

ウェイン・ショーターの創るメロディには、ただただまいる。とくに60年代に創ったメロ
ディのいくつかは、本当に見事というほかない。ちなみにジャズ・ファンでウェイン・シ
ョーターを知らない人はいないと思うが、知らない人もいるかもしれないので一応説明し
ておくと、ショーターは1950年代から活躍しているサックス奏者である。ロック・フィー
ルドからの注目度も高かったウェザー・リポートのメンバーでもあり、ジョニ・ミッチェ
ル、サンタナ、スティーリー・ダンなどのアルバムにフィーチャーされたこともあるので
、ロック・ファンの人でも知らないうちにショーターの演奏を聞いたことがあるかもしれ
ない。60年代のショーターは、アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズおよびマ
イルス・デイヴィスのグループというジャズ界の大看板グループに在籍して、いちサック
ス奏者という枠を超えて、それぞれのグループに大きく貢献していたのである。

その大きな貢献の主たる部分が、それぞれのグループへのオリジナル曲の提供であった。
とくにマイルスのもとでは、《フットプリンツ》、《ネフェルティティ》、《サンクチュ
アリー》といった、忘れることのできない印象的なメロディの傑作を残している。近く来
日する予定のサックス奏者オーネット・コールマンの創る曲も、むかしギタリストのパッ
ト・メセニーが”歌いたくなるようなメロディ”と言っていらいそのような評価が定着し
つつあるのだが、本当に凄いメロディを連発していたのはショーターなのであると僕は声
を大にして言いたいのである。60年代のショーターの傑作は、神秘的で本当にカッコイイ
のである。なぜショーターが神秘的でカッコよく、そして印象的に残るメロディの曲を連
発することができたのかは、研究をしてみる価値がある。単に”才能”という言葉で片付
けてしまえない何かがあるように感じているのである。

僕自身、改めてショーターのメロディの迷宮を探索中であるが、そんなショーターのメロ
ディの迷宮から、今回はブレイキーのグループを辞してちょうどマイルスのグループに移
る時期に制作された『ジュジュ』を紹介してみたい。60年代のショーターは、ブレイキー
やマイルスとのグループ活動だけではなく、自らがリーダーとなったアルバムも数多く制
作していた。ジャズの名門レーベルのブルーノートで制作した『ジュジュ』も、そのよう
な1枚である。メンバーは、マイルス・グループのサックス・パートの先輩、ジョン・コ
ルトレーンが当時率いていたグループから、ピアノのマッコイ・タイナーとドラムスのエ
ルヴィン・ジョーンズが参加している。ベースのレジー・ワークマンは、ブレイキーのグ
ループでのショーターの同僚であるが、コルトレーンのグループにもいた人である。つま
り、コルトレーンの代わりにショーターがいるコルトレーンのグループなのである。

1曲目のタイトル曲《ジュジュ》をまず聴いてみよう。予想できたことではあるが、「う
わっ、コルトレーンのグループそのままではないか」と一瞬思う。リズムも、コルトレー
ンのグループが最も得意とするタイプのリズムである。しかしショーターのメロディが出
た途端に、ショーターならではの世界にバーっと染まっていくのである。《ジュジュ》の
メロディの神秘的でカッコイイこと。そしてメロディを軸にして様々なテクスチャーを繰
り出していく、ショーターのアグレッシヴなソロの見事なこと。もしカッコイイ音楽が聴
きたいと思っている人がいたなら、ジャズが好きな人に限らずこの演奏を聴くことをお薦
めする。エルヴィンとマッコイの”コルトレーン・グルーヴ”にのせて、コルトレーンと
は異なる斬新なラインを繰り出していくショーターは本当にカッコイイ。ショーターがあ
まりにカッコイイので、エンディングは”どぉにも止まらない”終わり方となっている。

ショーターを聴いていると、メロディのカッコよさの秘密の一つは演奏方法(吹ききり方
)にあることに気がつく。つまりフレージングが、”粋”なのである。ジャズ・メッセン
ジャーズの経験が自然と出ているのだろうか。意識的に、”粋”になるようなメロディ・
ラインを、創っているとも考えられる。コルトレーン的なメロディをメッセンジャーズ風
に演奏しているような《デリュージ》でそれがわかるだろうか。《ハウス・オブ・ジェイ
ド》もコルトレーンが得意とするようなエレジーだが、見事に心に残るメロディである。
コルトレーンは、この演奏から『至上の愛』の一部をインスパイアされたのではないだろ
うか。そして《マージャン》。そう、麻雀である。麻雀をテーマにしてこんなカッコイイ
メロディを書いた人が古今東西ほかにいるだろうか。いやはやショーターのメロディの迷
宮を彷徨っていると、いろいろなことに想いがめぐってならないのである。

『 Juju 』 ( Wayne Shorter )
cover

1.Juju, 2.Deluge, 3.House of Jade
4.Mahjong, 5.Yes or No, 6.Twelve More Bars to Go

+ bonus track

7.Juju [Alternate Take], 8.House of Jade [Alternate Take]

WAYNE SHORTER(ts), McCOY TYNER(p), REGGIE WORKMAN(b), ELVIN JONES(ds)

Recorded : August 3, 1964
Produced : Alfred Lion
Label    : Blue Note
  
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