●コンサート・フォー・バングラデシュ

ジョージ・ハリスンが1971年にニューヨークのマジソン・スクェア・ガーデンで行ったチ
ャリティ・コンサートの草分け「コンサート・フォー・バングラデシュ」のDVDが、よ
うやく新装発売となった。しかも嬉しいことに、アップルが新たに制作したドキュメンタ
リーを含むボーナス・ディスクまでついている。ボーナス・ディスクには未発表映像も含
まれており、本編ではチラッと映るだけのジョージとボブ・ディランのアコースティック
・デュエットの《イフ・ノット・フォー・ユー》、リハーサルで演奏されたロバート・ジ
ョンソンのブルース・ナンバー《カム・オン・イン・マイ・キッチン》、そして昼の部(
コンサートは昼夜の2回に分けて行われた)のみ演奏されたディランの名曲《ラヴ・マイ
ナス・ゼロ/ノー・リミット》が収録されている。その他、ステージ・リハに姿を見せる
プロデューサーのフィル・スペクターなどドキッとするシーンが随所にあり楽しい。

DVDのメイン・ソースとなっているのは、アップルが1971年に制作した映画だ。ぼくも
1970年代に神楽坂にあった名画座で、「ウッドストック」との2本立てで観た。映画館の
大きなスクリーンに映し出されたジョージやエリック・クラプトンといったロック・スタ
ー達の格好良かったこと。映画の中で一番印象深いのはビリー・プレストンで、ビートル
ズの映画「レット・イット・ビー」では静かな印象しかなかったが、この映画でのスクリ
ーンの中を駆け回るようなパフォーマンスには驚いたものだった。そしてジョージやレオ
ン・ラッセルを従えたボブ・ディランの神々しさ。当時のぼくは、”ボブ・ディランは単
なるフォーク歌手”というくらいの浅い認識しかなかったが、ジョージとレオンがコーラ
スで加わる《ジャスト・ライク・ア・ウーマン》の美しさには胸が震えた。そして何より
も白いスーツを着たジョージの雄姿は、今でもぼくの眼に焼きついているのである。

当時は映画館でしか観ることのできなかったジョージの雄姿が、未発表映像も含めて手軽
にDVDで観られるようになったわけだが、「コンサート・フォー・バングラデシュ」の
主役は紛れもなく音楽である。なかでも聴きどころは、ジョージの演奏だ。この時代のジ
ョージの音楽の特徴は、大編成による分厚いサウンドである。ドラムス2台、ギター3台
、アコースティック・ギター3台、キーボード2台、ホーン・セクション6人による分厚
いサウンドのグルーヴがカッコいい。この楽器編成というのは、コンサートに協力してく
れるミュージシャンが大勢集まったので結果的に大人数になりましたというものではない
と思われる。なんせプロデューサーは、フィル・スペクターだ。曲目も『オール・シング
ス・マスト・パス』から多く選ばれているので、アルバムの大編成バンドによるサウンド
を、ライヴで再現することを目的とした編成だったのではと考える。

この時代のジョージの音楽の魅力はそれだけではない。《マイ・スィート・ロード》とい
うジョージのヒット曲に顕著に表れているが、ゴスペルの影響である。このコンサートで
も7人のコーラス隊が演奏に加わっており、《マイ・スィート・ロード》やビリー・プレ
ストンの《ザッツ・ザ・ウェイ・ゴッド・プランド・イット》では、ゴスペルの影響を強
く感じるコーラス・ワークで音楽に彩りを添えている。ジョージは、ゴスペルをいい形で
ポップスと融合させているのである。そしてさらに言えば、レオン・ラッセル、カール・
レイドル、ジェシ・エド・デイヴィスといったスワンプ系の音楽をやっていたミュージシ
ャンとの交流の影響か、サウンドが独特のアーシーなグルーヴ感をもっているのである。
つまりこの時代のジョージの音楽の魅力というのは、フィル・スペクターばりの大編成+
ゴスペル+スワンプの要素を上手く取り込んだサウンドにあるのである。

したがって「コンサート・フォー・バングラデシュ」の聴きどころは、この時代特有のグ
ルーヴ感に溢れたジョージ・サウンドの魅力がいっぱいの《ワー・ワー》、《マイ・スィ
ート・ロード》、ビリー・プレストンの《ザッツ・ザ・ウェイ・ゴッド・プランド・イッ
ト》、そして《バングラ・デシュ》の4曲なのである。ビートルズ・ナンバーではないの
だ。ジョージを兄のように慕っていたというエリック・クラプトンはさすがにそこのとこ
ろをよく解っていると思われ、ジョージの追悼コンサートはまるで「コンサート・フォー
・バングラデシュ」の再現のようであった。うーん、でもスワンプ色溢れる《サムシング
》も、やはり捨てがたい。終いには全部たまらないとなってしまうのであるが、大編成バ
ンドによる、ジョージの音楽のこの時代ならではグルーヴ感溢れるサウンドは、「コンサ
ート・フォー・バングラデシュ」でしか聴くことができないのである。

『 The Concert for Bangladesh 』 ( George Harrison and Friends )
cover

Disk1
1.Introduction by George Harrison & Ravi Shankar
2.Bangla Dhun, 3.Wah-Wah, 4.My Sweet Lord, 5.Awaiting on You All
6.That's the Way God Planned It, 7.It Don't Come Easy
8.Beware of Darkness, 9.Band Introduction, 10.While My Guitar Gently Weeps
11.Medley: Jumpin' Jack Flash/Young Blood, 12.Here Comes the Sun
13.A Hard Rain's Gonna Fall,
14.It's Takes a Lot to Laugh, It Takes a Train to Cry, 5.Blowin' in the Wind
16.Just Like a Woman, 17.Something, 9.Bangla Desh

Disk2
1.Documentary:The Concert For Bangladesh Revisited
2.Previously Unseen Performances
  1)If Not For You, 2)Come On In My Kiychen, 3)Love Minus Zero / No Limit
3.Mini Features
  1)The Making Of The Film, 2)The Making Of The Album, 3)The Original Artwork
  4)Recollections Of August 1st, 1971, 5)Photo Gallery

George Harrison and Friends
Ravi Shankar(sitar), Ustad Ali Akbar khan(sarod), Ustad Alla Aakha(tabla),
Kamala Chakravarty(tamboura)

Eric Clapton(elg), Bob Dylan(vo,g), George Harrison(vo,elg,g), 
Billy Preston(vo,org), Leon Russell(vo,p,elb), Ringo Starr(vo,ds,tambourine),

Jesse Ed Davis(elg), Jim Keltner(ds), Don Preston(elg,cho), Carl Radle(elb), 
Klaus Voorman(elb)

Badfinger(Tom Evans(g), Pete Ham(g), Joey Molland(g), Mike Gibbins(tambourine))

The Hollywood Horns
Jakie Kelso(as), Lou McCreary(tb), Allan Beuter(bs),
Chuck Findley(tp), Ollie Mitchell(tp) ,Jim Horn(ts)

The Soul Choir
Jo Green, Jeanie Greene, Marlin Greene, Dolores Hall, Claudia Linnear, Din Nix

Recorded : August 1st, 1971
Music Recording Produced : George Harrison and Phil Spector
Label    : Apple
  
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