●ロックへの旅:ミステリー・トレイン
    (エルヴィス・プレスリー:1955)

毎月最終週にお届けしているロックへの旅。今回は、2回目になるエルヴィス・プレスリ
ーの登場です。曲目は、《ミステリー・トレイン》。エルヴィス5枚目のシングルで、彼
がデビューしたサン・レーベルでの最後のシングル盤です。エルヴィスはこのシングル発
売の後でRCAレーベルに移籍し、翌年の1956年はまるで”エルヴィスの年”と言っても
よいくらいにヒット・チャートを席巻していきます。このシングル発売の時点では、まだ
全米的な人気はなかったようですが、精力的なライヴ活動によりエルヴィスの名前は南部
を中心に高まっていたようです。その一番の証拠といってよいのが、地元レーベルのサン
から大手レーベルであるRCAへの移籍です。あのアトランティック・レコードのアーメ
ット・アーティガンもエルヴィス獲得に乗り出したが、RCAのような高額な契約金が提
示できなくてエルヴィスを獲得できなかったというような逸話も残っているほどです、

《ミステリー・トレイン》は、そのようなエルヴィスの名声が高まってきる時期に発売さ
れた曲です。チャートには登場しなかった曲なのですが、ロックの名曲を選ぶときには何
故か必ず上位100位以内に入ってくる曲なのです。最初にこの曲を聴いた時に”そんな
に凄い曲なのか”と期待して聴いたのですが、実を言うと良さや凄さがよくわかりません
でした。演奏が粗雑な印象をもったのです。エルヴィスのサン時代のレコードは、殆どが
ギターのスコッティ・ムーアとベースのビル・ブラックという編成でレコーディングをし
ています。この3人の出す《ミステリー・トレイン》のサウンドは、現在の耳で聴くと、
いかにもアマチュア然としています。1955年にリアルタイムでエルヴィスを聴いた人々に
とっても、”上手い演奏”とは言いがたいものなのではないかと感じます。今回はそのあ
たりを中心に、《ミステリー・トレイン》について考えてみたいと思います。

まず《ミステリー・トレイン》とはどのような曲なのでしょうか。実はこの曲も、エルヴ
ィスのオリジナル曲ではありません。わざわざ”も”と書いたのは、エルヴィスのデビュ
ー曲《ザッツ・オール・ライト》もエルヴィスのオリジナルではなかったからです。《ミ
ステリー・トレイン》は黒人のブルース歌手のリトル・ジュニア・パーカーという人が創
って自分で歌ったオリジナルで、自分のバンドのブルー・フレイムズと一緒にエルヴィス
と同じサン・レーベルで録音した曲です。ちなみに著作権は、サン・レーベルの社長でエ
ルヴィスのプロデューサーでもあったサム・フィリップスが持っていたようです。作者に
、パーカーと並んでサム・フィリップスの名前が併記されている場合もあります。つまり
サム・フィリップスが自らのレーベルを去っていくエルヴィスの最後のシングルとして選
んだ《ミステリー・トレイン》は、自分に著作権がある曲だったことになります。

エルヴィス自身は、当時のラジオでかかっていたヒット曲を録音したがっていたと言われ
ています。実際にエルヴィスは、この時期のライヴで当時のヒット曲だったチャック・ベ
リーの《メイベリーン》やレイ・チャールズの《アイヴ・ガッタ・ア・ウーマン》をカヴ
ァーしています。《ミステリー・トレイン》の録音は、サム・フィリップスの意向だった
そうです。サム・フィリップスは、人気が出てきたエルヴィスを手放し、第二、第三のエ
ルヴィスを探すことを己の使命と感じていたというような発言を残しています。しかし《
ミステリー・トレイン》は、その発言に疑問をなげかけます。サム・フィリップスは、お
そらくエルヴィスの将来性を見抜けなかった。だから簡単にエルヴィスを手放し、サンが
録音した原盤権までRCAに売ってしまった。つまりサムは、眼の前におかれた大金に眼
がくらみエルヴィスをやすやすと手放したのではないかと想像できるのです。

しかしサムは、高まりつつあったエルヴィスの人気も実感していた。だからエルヴィスに
自らが著作権をもつ曲を歌わせ、それを最後のシングルとしてリリースした。エルヴィス
達は、サム・フィリップスの意向を汲みこの曲をリハーサルしてみた。しかし録音は行わ
れており、サムによってそのままリリースされたのだと考えられます。ぼくが演奏が粗雑
な印象を受けたのも、この録音がリリースを目的としたものではなかったという定説を裏
付けています。リトル・ジュニア・パーカーのオリジナル・ヴァージョンは1953年の録音
ですが、そちらのほうがしっかりとした演奏なのです。しかしビジネス的な思惑を超えて
、この曲は人々の心を捉えました。3コーラスめからエンディングに向かっていくエルヴ
ィスの歌には、演奏がノッてきたときのグルーヴ感と自らの成功への確信のようなものが
感じられます。人の心を捉えた曲には、やはり何かしらの魅力があるものなのです。
《 Mystery Train 》( ELVIS PRESLEY )
cover

Elvis Presley(vo,g),
Scotty Moore(elg), Bill Black(b)

Written  by: Herman Parker
Produced by: Sam Phillips
Recorded   : July 11, 1955
Released   : September, 1955
Charts     : Did not chart
Label      : Sun

Appears on :Elvis at Sun
1.Harbor Lights, 2.I Love You Because [Alternate Take 2]
3.That's All Right, 4.Blue Moon of Kentucky,
5.Blue Moon, 6.Tomorrow Night, 7.I'll Never Let You Go (Little Darlin'),
8.Just Because, 9.Good Rockin' Tonight, 10.I Don't Care if the Sun Don't Shine,
11.Milkcow Blues Boogie, 12.You're a Heartbreaker,
13.I'm Left, You're Right, She's Gone [Slow Version]
14.I'm Left, You're Right, She's Gone, 15.Baby Let's Play House
16.I Forgot to Remember to Forget, 17.Mystery Train
18.Trying to Get to You, 19.When It Rains, It Really Pours
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