●ロックへの旅:オンリー・ユー
    (ザ・プラターズ:1955)

ロックンロール誕生とされる1950年代半ばのR&B(黒人音楽)は、ブギ・ウギやジャン
プ・ブルースをベースにした音楽だけではありませんでした。当時のR&Bには、ヴォー
カルとコーラスのグループ形式で歌う、”ストリート・コーナー・ミュージック”という
スタイルもありました。このスタイルは、黒人達が街角のコーナーなどに集まりアカペラ
で歌うようになったのが始りと言われています。そして後には、”ドゥ・ワップ”と呼ば
れるようになりました。R&Bチャートに登場するのは40年代後半のレイヴンズあたりか
らで、以後ファイヴ・キーズの《グローリー・オブ・ラヴ》(1951年)、ドリフターズの
《マニー・ハニー》(1953年)、オリオールズの《クライング・イン・ザ・チャペル》(
1953年)、コーズの《シュ・ブーム》(1954年)、クロウズの《ジー》(1954年)、ムー
ングロウズの《シンシアリー》などのヒットへと続いていきます。

そしてこれらの曲の中からは、R&Bチャートだけではなくポップ・チャートでもヒット
する曲が出てきました。そのような状況の中で、《オンリー・ユー》のスマッシュ・ヒッ
トを皮切りに、《グレイト・プリテンダー》、《トワイライト・タイム》、《マイ・プレ
イヤー》などで大きな成功を収めていくのが今回紹介するプラターズです。《オンリー・
ユー》当時のプラターズは、リードのトニー・ウィリアムス、テナーのデヴィッド・リン
チ、バリトンのポール・ロビン、バスのハーブ・リードという典型的なゴスペル・カルテ
ット編成の男性4人に加え、紅一点としてコントラルト(女声の最低音)のゾーラ・テイ
ラーが加わった5人編成のグループでした。プラターズの音楽の特徴は、《オンリー・ユ
ー》でも聴くことのできる情熱的なトニー・ウィリアムスのヴォーカルとロマンチックな
曲調です。いろいろと調べてみると、その秘密は以外なところにありました。

プラターズを見出したのは、バック・ラムという人物です。この人は《オンリー・ユー》
の作者でもあります。プラターズを見出す前のラムは、ニューヨークでビッグ・バンドの
アレンジの仕事などをしていたそうです。フランシス・コッポラの映画で有名なコットン
・クラブの為にも曲を書き、書いた曲の中にはデューク・エリントンによってレコーディ
ングされたものもあったというから驚きです。その後ロサンゼルスに移ったラムは、作・
編曲の能力を活かし、優れた音楽教師として音楽ビジネスの世界で名を高めていったそう
です。同じ頃、ドゥ・ワップ・スタイルの音楽がポップス・チャートでも成功を収めるよ
うになってきていました。マネージメント・オフィスを作ったラムは、プラターズを見出
して自らマネージャーとなり、売り出しにかかります。ラムは売り出しだけではなく、音
楽面でもプラターズを支えました。それこそが、プラターズの秘密です。

ラムは、男性4人のプラターズを、リード・シンガー(トニー・ウィリアムス)とバック
・コーラスに明確にわけました。そして、コーラスに黒人グループでは珍しかった女声を
加えたのです。女性をコーラスに加えたことで、男声だけのコーラスより艶やかな印象を
受けます。そしてヴィジュアルの面でも、他のグループとの大きな差別化に繋がったでし
ょう。つまり女性が入っている(白人のカントリー・グループなどには多く見受けられた
)ことによって、白人層も受け入れやすい素地を作っていたといえます。もちろんそれだ
けではなく、何よりラムの作・編曲の技術がプラターズの大きな力となっていたことは言
うまでもありません。《オンリー・ユー》1曲をとってみても、ロックンロール時代を意
識したギターによるイントロ、印象的なメイン・メロディ、徐々に盛り上がるバック・コ
ーラス、見事なエンディングのハーモニーと作品として第一級の出来ばえだと思います。

しかし《オンリー・ユー》を永遠のポップスにしている一番の要因は、なんと言ってもト
ニー・ウィリアムスの素晴らしいヴォーカル・パフォーマンスでしょう。《オンリー・ユ
ー》は全部で3コーラス歌われますが、冒頭の「オン、リィ、ユゥー」、2回目の「オ、
オゥゥゥンリィ、ユー」、最後の「オッ、オァ、オンリィ、ユゥー」と徐々にタマラナイ
度が増大していくヴォーカルは、せっかくラムが白人聴衆を狙ったエレガントな曲調の曲
に少し下品な味付けをしていて、そこがまたこの曲を忘れられないものとしています。こ
のヴォーカル・パフォーマンスは、スモーキー・ロビンソンに大きな影響を与えたのでは
ないかと考えています。そして最後に、曲名と最初の歌詞がイコールの曲というのは古今
東西数あれど、その印象深さからいって《オンリー・ユー》が一番なのではないでしょう
か。この見事な導入部分により、多くの人が一発で曲を覚えてしまうと言えるでしょう。
《Only You》( THE PLATTERS )
cover

The Platters are
Tony Williams(lead tenor), David Lynch(tenor), Paul Robin(baritone),
Herb Reed(bass), and Zola Taylor(contralto)

Written  by: Back Ram, Ande Rand
Produced by: Back Ram
Recorded   : 1955
Released   : 1955
Charts     : R&B#1, POP#5 ,1955
Label      : Mercury

Appears on :The Best Of The Platters (Millennium Collection) 
1.The Great Pretender, 2.Twilight Time, 3.Smoke Gets In Your Eyes
4.Only You (And You Alone), 5.My Prayer, 6.(You've Got) The Magic Touch
7.You'll Never, Never Know, 8.I'll Never Smile Again, 9.Harbor Lights
10.Red Sails In The Sunset, 11.Enchanted

※上記のイメージをクリックすると、Amazonにて購入できます