●グラント・グリーンの自由なグルーヴ感

ブルーノートというレーベルは、最も良質のジャズを記録し提供し続けたレーベルとして
有名である。60年代後半から70年代にかけてのブルーノートは、忘れがたいファンク・ジ
ャズの優れた作品もいくつか作っている。これらの作品は、深刻ぶったジャズの聞きかた
をしている古いタイプのジャズファンには見向きもされなかった。しかし90年代にイギリ
スのDJ達によって”再発見”され、レア・グルーヴものとしてクラヴのダンス・フロアに
轟きわたったそうである。距離をおいた書き方をしているのは、ぼくがその場にいたわけ
ではなかったからであるが、それでもブルーノートが制作したファンク・ジャズとかレア
・グルーヴものと呼ばれる作品群に魅力的な作品が多いことは知っている。中でも、アル
ト・サックス奏者のルー・ドナルドソンとギタリストのグラント・グリーンの作品は強烈
だ。今回はその中から、グリーンの『キャリーン・オン』を紹介したい。

グラント・グリーンは1960年にブルーノートで初リーダ作のレコーディング(リアル・タ
イムでは未発表)を行って以来、1965年まで同レーベルで数々のリーダ作を吹き込んでき
た。グリーンの特徴は、なんといってもアーシーで存在感のあるフレーズと音色だ。60年
代半ばにグリーンはいったんブルーノートを離れるが、ロンドンで行われた「ジャズ・エ
キスポ」で注目された後で古巣のブルーノートに復帰した。その第1作が、『キャリーン
・オン』である。ブルーノート復帰後のグリーンは、『キャリーン・オン』から怒涛のフ
ァンク路線を歩んでいくのである。ちなみにファンク・ジャズというのは、あとになって
付けられた言葉だ。60年代後半は、ブラック・パワーの盛り上がりとともにモータウン、
ジェームス・ブラウンといったブラック・ミュージックが大きく注目されていた。グリー
ンがこのアルバムで演奏している音楽は、それらの音楽と同等といってよい音楽である。

グリーンがブラック・ミュージック路線の音楽を演奏するのは、初めてではない。ある意
味ブルーノートでのグリーンの演奏は、ほぼ全てがブラック・ミュージック路線といって
も良い。ここでいうところのブラック・ミュージックというのは、ジャズやソウルといっ
たジャンルを超えた意味でのことである。おそらくグリーンの中では、チャーリー・パー
カーの音楽とジェームス・ブラウンの音楽を区分けするものはなかったのではないか。音
楽を単純にジャンルで捉える人ならば、パーカーの音楽はジャズ、ブラウンの音楽はソウ
ルまたはファンクと呼ぶだろう。しかしグリーンの中では、おそらく双方ともブルースで
ありブラック・ミュージックだったのではないかという気がする。グリーンが二人の音楽
を区分けするとしたら、”チャーリー・パーカーの音楽”と”ジェームス・ブラウンの音
楽”という区分けでしか見ていなかったと思うのである。

『キャリーン・オン』を聴いて感じるのは、音楽的に吹っ切れたグリーンの姿勢である。
いやグリーンは別に吹っ切れたわけではなく、初期から全く変わらない姿勢で演奏を行っ
ている。そこに感心してしまうし感動するのである。『キャリーン・オン』は、ニューオ
リンズのファンク・バンドのミーターズの《イーズ・バック》で幕を開ける。アイドリス
・ムハマッドのリズムに煽られて弾きまくる終盤のグリーンのプレイがたまらない。2曲
目はリトル・アンソニー&ザ・インペリアルズやレターメンのヒット曲《ハート・ソー・
バッド》。いかにも60年代後半から70年代初頭というメロディ。そしてソロになって飛び
出すところのグリーンのフレーズの切れ味を聴いて欲しい。そして腰と脳天に直撃してく
るグルーヴの、ジェームス・ブラウンの《アイ・ドント・ウォント・ノーバディ・トゥ・
ギヴ・ミー・ナッシング》でたたみかけるのである。

アルバム最終曲は、グリーンの盟友ニール・クリークがおそらくヴェトナム戦争のことを
念頭に書いた《シアズ・ザ・ボンビング》である。ニール自身の弾くエレクトリック・ピ
アノは、爆撃を表しているのだろう。この当時のニールは、プーチョ&ザ・ラテン・ソウ
ル・ブラザーズというグループのの音楽監督だった。このアルバムにも、同グループから
クラウデ・バーティとウィリー・ビヴェンスの2人が参加している。プーチョ&ザ・ラテ
ン・ソウル・ブラザーズもテンプテーションズなどのサイケデリック・ソウル・ナンバー
をレパートリーにしていた。そのようなジャズに捉われない自由な姿勢が、グリーンにも
影響を与えたのかもしれない。《シアズ・ザ・ボンビング》でも、グリーンはヴァイブの
ソロの雰囲気を壊すことなく入ってきてゆっくり盛り上がり、最後はオクターブ奏法で締
めくくる。こんな自由なグルーヴ感でギターを弾いた人は、グリーンしかいないのである。
『 Carryin' On 』 ( Grant Green )
cover

1.Ease Back, 2.Hurt So Bad
3.I Don't Want Nobody to Give Me Nothing (Open Up the Door I'll Get It My
4.Upshot, 5.Cease the Bombing

GRANT GREEN(elg), CLAUDE BARTEE(ts),WILLIE BIVENS(vib),CLARENCE PALMER(elp),
JIMMY LEWIS(elb), IDRIS MUHAMMAD(ds), EARL NEAL CREQUE(elp on 5)

Recorded : Oct 3, 1969
Produced : Francis Wolff
Label    : Blue Note
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