●ぶっとびもののスライド・ギター

日本人でポップスに興味がある人ならば、サザン・オールスターズを知らない人はいない
であろう。現在では、ハチャメチャ・ロック系かバラード系のパターン化したシングルし
か出さない(それでもヒットしちゃうんだよね)バンドになってしまったが、むかしは結
構無茶をやっていて面白かった。まだサザンがデビュー1〜2年めの頃に、ほぼコンサー
トの全曲に渡って、ヴォーカルの桑田佳祐がスライド・ギターを弾きまくっていたことが
ある。それを見て、僕はニヤリとしてしまった。彼のそのときの思いが、僕に伝わったか
らだ。”スライド・ギターを何故弾いているのか”などには全く興味がないような観客を
前にして、ひとり熱狂的に、決して上手とはいえないスライド・ギターを弾きまくってい
る桑田佳祐に僕はロックを感じた。そのとき、桑田佳祐が考えていたことは何か。彼はた
だ、”デュアン・オールマン”のようにスライド・ギターが弾いてみたかったのだ。

デュアン・オールマンは、60年代後半から70年代初頭にかけて活躍したギタリストだ。弟
のグレッグと一緒に結成した、オールマン・ブラザーズ・バンドで有名な人である。オー
ルマン・ブラザーズ・バンド以外では、エリック・クラプトンの傑作『レイラ』に参加し
、ギターの神様と呼ばれることに苦悩していたクラプトンに更なるプレッシャーを与え、
スランプに追い込んだと言われる人である。つまり、ギターの神様のクラプトンがスラン
プになってしまうほどギターが上手いというわけだ。そのデュアン(最近はデュエインが
正しいという風潮になっているが、カタカナなのでどうでも良い)の最高の演奏が聴ける
のが、ロック・ライヴ史上屈指の傑作である『ジ・オールマン・ブラザーズ・バンド・ア
ット・フィルモア・イースト』である。もしあなたがギターを弾く人ならば、このアルバ
ムを聴けば桑田佳祐のようにスライド・ギターを弾きまくってみたくなるに違いない。

まずは、1曲目の《スティツボロ・ブルース》である。いきなりデュアンのスライドが全
開だ。盲目のブルース・マン、ブラインド・ウィリー・マクテルの曲だが、デュアンの演
奏は神がかっている。僕が一番好きなスライド・ギターは、実はデュアンではなくジョー
ジ・ハリスンの弾くスライドだが、一番上手いと思うのはやはりデュアンである。まるで
ギターが身体の一部であるかのように歌っている。ブルース・ハープを彷彿とさせる音色
と、遠くに飛んでいってしまうようなスケールの大きなフレーズ。ギタリストならば、誰
でもこんなふうにスライドを弾いてみたくなるだろう。デュアンの相棒のもう一人のギタ
リストであるディッキー・ベッツも善戦はしているが、デュアンのスケールが大きいスラ
イドの前では影が薄い。なるほど、エリック・クラプトンでもスランプに陥ってしまうわ
けである。

3曲目のT・ボーン・ウォーカーのブルース《ストーミー・マンデイ》も、渋い演奏だ。
グレッグのオルガンも、ジャジーでいい味を出している。途中で本当にジャズっぽくなる
部分もあり、オールマン・ブラザーズ・バンドの演奏力が只者ではないことを示す。その
只者ではない演奏力が爆発するのが、インストゥルメンタル(ようするに演奏のみ)の傑
作《イン・メモリー・オブ・エリザベス・リード(邦題:エリザベス・リードの追憶》で
ある。マイルス・デイヴィス(マイルスもこの時代のフィルモアの常連だ)に捧げた演奏
といわれているが、真相はよくわからない。ただ言えるのは、この曲が名曲であり、普通
のロック・ミュージシャンでは演奏するのが難しいタイプの曲であるということだ。オー
ルマン・ブラザーズ・バンドは、作曲者のディッキー・ベッツとデュアンのツィン・リー
ドという必殺技で、当日の観客と聴き手である僕たちを完璧にノックアウトする。

そしてラストは、これまた必殺の《ウィッピング・ポスト》だ。デビュー・アルバムでは
約5分で収録されていたこの曲は、フィルモアでは20分を超える大作として登場する。こ
の曲は、またもやマイルス・デイヴィスの大きな影響が聴き取れる。曲調は、明らかにマ
イルスの傑作『カインド・オブ・ブルー』に収録されていた《オール・ブルース》を意識
したものだ。そして中盤では、当時のマイルスの最新作《ビッチェズ・ブリュー》の冒頭
部分を引用している。おそらくステージで即興演奏を行うので、ジャズ系の音楽も好んで
聴いていたのだろう。彼等のステージはアドリブで曲が展開していったそうだが、《ウィ
ッピング・ポスト》はその瞬間を捉えたドキュメントである。とにかく完璧なライヴ・ア
ルバムだ。コンプリート盤も出ているが、オリジナル・フォーマットがベストである。も
の凄いデュアンの演奏を聴くだけでも一聴の価値がある。ぶっ飛ぶこと請け合いだ。
『 The Allman Brothers Band At Fillmore East 』 ( THE ALLMAN BROTHERS BAND )
cover

1.Statesboro Blues, 2.Done Somebody Wrong, 3.Storm Monday, 
4.You Don't Love Me
5.Hot 'Lanta, 6.In Memory Of Elizabeth Reed, 7.Whipping Post

DUANE ALLMAN(elg), GREG ALLMAN(vo,org,p), DICKEY BETTS(elg), 
BERRY OAKLEY(elb), JAI JOHANNY JOHANSON(ds), BUTCH TRACKS(ds,tympani)

Recorded : March 12 & 13, 1971
Produced : Tom Dowd
Label    : CAPRICORN
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