●熱い日にはセクシーなギターを

夏になると”熱い”音楽が聴きたくなる。トロピカル・カクテルが似合うような涼しげな
ポップスや、オシャレなフュージョンも悪くはないけれど、ギラギラとした太陽に似合う
のは血湧き肉踊るような”熱い”ロックだ。1969年にアメリカで開催された伝説のロック
・フェスティヴァル「ウッドストック」で、もっとも”熱い”演奏を繰りひろげたグルー
プがデビュー当時のサンタナだった。複数のパーカッションの音の波に飲み込まれてしま
うような映画「ウッドストック」のサンタナの演奏シーンは、度肝を抜かれたことを憶え
ている。現在も活躍中のサンタナだが、血湧き肉踊るような”熱い”ロックが聴けるのは
、ウッドストック出演当時の初期のサンタナだ。サンタナの全キャリアの中でも、僕はこ
の時代が最高だと思っているのである。そんな僕がサンタナの最高傑作だと思っているの
が、初期サンタナによる『アブラクサス(邦題:天の守護神)』だ。

ちなみにサンタナというのはグループ名で、リーダーでギタリストのカルロス・サンタナ
の名前からとっている。カルロスはメキシコ生まれで、10代のときにサン・フランシスコ
に移って来た。19歳でサンタナ・ブルース・バンドとして活動を始める。初期サンタナの
キーボード奏者で、後にジャーニーのメンバーとなるグレッグ・ローリーはこの頃からの
メンバーである。ニューヨーク生まれの黒人ベース奏者のデヴィッド・ブラウンやコンガ
奏者のマイク・カラベロが加わり、ライヴ・バンドとしてのサンタナは注目を集める存在
になっていたらしい。そんなサンタナの人気に着目したのが、プロモーターであり、ロッ
クの殿堂フィルモアを経営していたビル・グラハムである。サンタナは1968年にフィルモ
ア・ウェストでデビューを飾り、翌1969年に大手レコード会社のコロンビアと契約。映画
の「ウッドストック」で観れるのは、この当時の初期のサンタナだ。

『アブラクサス』は、サンタナの2枚目のアルバムである。サンタナのオリジナル・メン
バーによるアルバムであり、サンタナの全キャリアの中でも最高のアルバムだ。まず目を
ひくのが、ジャケットであろう。CDのジャケット・サイズではインパクトも薄れるが、
アナログ・レコードのLPサイズでみるこのジャケットはかなりのインパクトを与えたは
ずである。このジャケットは、同じコロンビアのアーティストであったマイルス・デイヴ
ィスの最高傑作『ビッチェズ・ブリュー』のジャケットを手がけた画家マティによるもの
だ。真ん中に全裸で横たわるヴゥードゥー教の魔女。その左側にはタトゥを施した全裸の
天使が、コンガを足に挿んで運んでいる姿が描かれている。マティによるジャケットは、
マイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』と同様に、中に封入されたサンタナの
音楽のイメージをよく伝えている。

肝心の音楽は、パーカッションが風の音を、カルロスのギターが野獣の叫びを表している
ような《シンギング・ウィンズ・クライング・ビースツ》からスタートする。この曲から
ジャズ・ロック風の《インシデント・アット・ネシャブール》まで続くアナログ盤A面は
凄い。特にイギリスのブルース・バンドのフリートウッド・マックの《ブラック・マジッ
ク・ウーマン》とジャズ・フィールドのギタリストであったガボール・ザボの《ジプシー
・クイーン》を融合させてしまうサンタナのアレンジと演奏能力は見事の一言である。リ
ーダーであるカルロスのギターの存在感もさすがだ。ヒット・シングルにもなった《ブラ
ック・マジック・ウーマン》は、カルロスのギター・プレイの代表的な演奏と言えるだろ
う。じっと耳を傾けていると、官能的なリズムにのせたギターの音が麻薬的に効いてくる
のである。

他にもパーカッションのホセの曲はラテン、キーボードのグレッグの曲はいかにも60年代
のロックというように、作者によって曲調は異なる。しかしアルバムには、見事な統一感
があるのだ。おそらくそれまでこなしてきた数多くのライヴ演奏によって、どのようなス
タイルの曲でも自分達のものにしてしまえるようになっていたのだろう。その”曲を料理
するチカラ”が、アルバムに統一感を与えているである。そしてそれらの曲は、殆どライ
ヴ演奏同様にレコーディングされているのである。おそらくダビングは最小限だろう。ラ
イヴ演奏同様に録音したことが、音楽に”熱さ”を封じ込めたのだ。こんな演奏が聴ける
のは、サンタナの全アルバムでも『アブラクサス』だけである。でも僕がとくにタマラナ
イと思っているのは、《インシデント・アット・ネシャブール》のスローになるところと
《サンバ・パ・ティ》である。こんな”熱く”セクシーなギターはない。
『 Abraxas 』 ( SANTANA )
cover

1.Singing Winds, Crying Beasts, 2.Black Magic Woman/Gypsy Queen,
3.Oye Como Va, 4.Incident At Neshabur
5.Se A Cabo, 6.Mother's Daughter, 7.Samba Pa Ti
8.Hope You're Feeling Better, 9.El Nicoya

+ Bonus Track

10.Se A Cabo (Live)
11.Toussaint L'Overture (Live)
12.Black Magic Woman/Gypsy Queen (Live)

SANTANA are
CARLOS SANTANA(g), GREGG ROLIE(vo,p,org), DAVID BROWN(elb)
MIKE CARABELLO(congas,ds), JOSE AREAS(conga,timbales,per), MIKE SHRIEVE(ds)

Released : September 1970
Recorded : May 2, June 4,5 July 8,11,12,19,23,24,25,28, August 2, 1970
           at Wally Heider Recording Studio, San Frencisco
Produced : Fred Catero & Santana
Label    : Columbia
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