●ロックへの旅:エイント・イット・ア・シェイム
    (ファッツ・ドミノ:1955)

今回は、ファッツ・ドミノです。実はドミノの音楽は、正直近年まで聴いたことありませ
んでした。しかしドミノの音楽は、ロックへの旅を続ける中で無視できないんですよね。
例えば、ジョン・レノンは「アンソロジー」の中でこう語っています。「初めて憶えた曲
は、ファッツ・ドミノの《エイント・イット・ア・シェイム》だった」。なんでも母親か
ら教えてもらった、思い出の曲のようです。ジョンは後年のアルバム『ロックン・ロール
』で、この曲をカヴァーしています。カヴァーといえば、ポール・マッカートニーもアル
バム『バック・イン・ザ・USSR』でカヴァーしています。ジョージ・ハリスンも、ド
ミノの《アイム・イン・ラヴ・アゲイン》が最初に聴いた”ロックンロールの”レコード
だったと言っています。どうやらドミノの音楽は、ビートルズの3人の中で忘れられない
ものになっているようです。ね、無視できないでしょ。

ファッツ・ドミノは、1928年にニュー・オーリンズで生まれています。現在も、ニュー・
オーリンズに住んでいるようです。最初のシングルは《ザ・ファット・マン》という曲で
すが、この曲におけるブギウギ・スタイルのピアノを聴くと、ロックという音楽の源流に
スィング・ジャズからジャンプ・ブルースへの流れと、ブギ・ウギ・ピアノやブルースな
どがあることが実感できるのではないかと思います。これらの音楽は、別個のジャンルの
音楽ではなく、根っこの部分は明らかに同じだと僕は思っています。それらの要素を持ち
つつも、《ザ・ファット・マン》はその後”ロックンロール”と呼ばれる音楽と同じフィ
ーリングが確実にあるのです。ちなみに録音は1949年です。これには、ちょっと驚きまし
た。《ザ・ファット・マン》を聴いたとき、僕にはビートルズがファッツ・ドミノの音楽
をロックンロールと捉えていることが理解できたのです。

ドミノは、トランペッターのバンド・リーダーでアレンジもできるデイヴ・バーソロミュ
ーの目にとまってデビューしたようですが、驚くほどのヒット曲を50年代に放つことにな
るのです。自身によるヒットだけではなく、パット・ブーン(《エイント・ザット・ア・
シェイム》)、リッキー・ネルソン(《アイム・ウォーキン》)といった白人によるカヴ
ァー作品も大ヒットしています。これらの白人歌手によるカヴァーの大ヒットでもわかる
ように、ドミノの曲というのは大らかでヒット性を持っているのです。ドミノの人柄によ
るものなのでしょうか、それともニュー・オーリンズという環境が影響しているのでしょ
うか。当時の多くのR&B歌手の作品(エルヴィスでさえも)がブルースからの影響を強
く感じさせるのに比較して、ドミノの曲の場合はあまりブルースを直接的に感じません。
このことは、とても不思議な部分です。

《エイント・イット・ア・シェイム》を聴いてみましょう。「ユー・メイッ」とドミノが
歌うと”ジャン・ジャン”とくる冒頭部分はタマリマセンね。黒人歌手のパフォーマンス
とは思えない(黒人ぽくないという意味ではないですよ)豊かでゴージャスな感じ。おも
わず真似をしてみたくなるような、包容力を感じさせるヴォーカル。これこそが、若き日
のジョンやポールを惹きつけたものではないかと思います。ポールの歌い方には、いまで
も随所に影響をみることができると思います。《エイント・イット・ア・シェイム》のサ
ウンドは、この時代のR&Bとしては不思議なくらいゴージャス感がある。バーソロミュ
ーのバンドによると思われる演奏も、ゴージャズ感を出すのに一役かっています。後に西
海岸きってのセッション・ドラマーとなるアール・パーマーのドラムスも、重厚なビート
をたたき出しています。R&Bなのにこのゴージャス感こそが、ドミノの持ち味です。

しかし「これがロックンロールなの?」という印象を受けなくもありません。デビュー曲
の《ザ・ファット・マン》は、ロックンロールと言われても納得できます。しかし《エイ
ント・イット・ア・シェイム》は、曲調およびバーソロミューのバンドによる演奏により
、ロックンロールというよりもジャジーなフィーリングを感じせるのです。レイ・チャー
ルズの《アイヴ・ガット・ア・ウーマン》にある昂揚感が、《エイント・イット・ア・シ
ェイム》にはないのです。この曲にあるのは、昂揚感ではなく豊かでゴージャスな感じな
のです。でもこのあたりが、白人歌手によりドミノの曲のカヴァーを多く生むことになっ
た要因なのでしょう。昂揚感を感じさせないからといって、音楽に魅力がないわけではな
いのです。冒頭部分から最後まで、思わず耳を傾けてしまう魅力を確実に持っている曲な
のです。その魅力が、若き日のジョンやポールの心を捉えたのでしょう。
《Ain't That a Shame》( FATS DOMINO )
cover

Fats Domino(vo,p),
Alvin Tyler(ts), Earl Palmer(ds)

Written  by: Dave Bartholomew, Antoine Domino
Produced by: Dave Bartholomew
Recorded   : 1955
Released   : July ,1955
Charts     : R&B#1, POP#10 Jun,1955
Label      : Imperial

Appears on :Fats Domino Jukebox
1.Fat Man, 2.Goin' Home, 3.Going to the River, 4.Ain't That a Shame
5.All by Myself, 6.Poor Me, 7.I'm in Love Again, 8.Blueberry Hill
9.Blue Monday, 10.I'm Walkin', 11.It's You I Love, 12.Valley of Tears
13.Whole Lotta Lovin', 14.I Want to Walk You Home, 
15.I'm Gonna Be a Wheel Someday, 16.Be My Guest
17.Walking to New Orleans, 18.My Girl Josephine
19.Let the Four Winds Blow, 20.Jambalaya (On the Bayou)
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