●《ホテル・カリフォルニア》への”それなりの評価”

イーグルスといわれて、あなたが即座に思い浮かべる曲は何か?。日本人ならば、おそら
く殆どの人が《ホテル・カリフォルニア》をあげるのではないだろうか。《テイク・イッ
ト・イージー》、《ならず者》、《呪われた夜》などをあげる人は、すこし突っ込んでイ
ーグルスを聴いた人のはずだ。とにかく《ホテル・カリフォルニア》といえば、そこいら
のサラリーマンのおっちゃんでも知っているくらい大ヒットしたのである。僕が買ったイ
ーグルスの最初のレコードは、《呪われた夜》のシングル盤だった。ロックに目覚めたば
かりの中学生だった僕がレコードを買おうと思うくらい、当時のイーグルスのヒットチャ
ートでの勢いは凄かったのだ。ラジオでもガンガンかかっていた記憶がある。《呪われた
夜》や《テイク・イット・トゥ・ザ・リミット》のヒットのあと、待ちわびた感じで1977
年の初頭に発売されたのがアルバム『ホテル・カリフォルニア』だった。

最近はこのアルバムに対して、”それなりの評価”が付けられるようになった。アメリカ
建国200年に対する回答だとか、60年代の夢の終焉と退廃を歌った優れたコンセプト・
アルバムとか、ロックが生んだ最高傑作とかいう評価である。確かにそのようなコンセプ
トは見受けられるが、僕はアルバムとしては失敗作だと思う。アメリカをテーマにした傑
作になる可能性は大いにあったが、おそらくイーグルスのメンバーには”コンセプトを統
一”させることができなかったのだと思っている。当時のイーグルスは、ロック・ビジネ
スでの成功を手中にしたことによりロックン・ロール・バビロンの世界にいた。いわゆる
”セックス、ドラッグ、ロックン・ロール”の世界である。ツァーではホテル破壊に興じ
(ジョー・ウォルシュはチェーンソーを常時携帯していたと言われている)、ツァーに疲
れたランディー・マイズナーはこのアルバムを最後に脱退している。

イーグルスは、もともとがリンダ・ロンシュタットのバックバンドからスタートしたこと
もあり、各メンバーの音楽的実力は高い。従って『ホテル・カリフォルニア』も、ロック
ン・ロール・バビロンの世界にいながらも、それなりのクオリティには仕上がっていると
思う。しかし、どこかの段階でコンセプトは拡散した。各人が持ち寄った曲と他人(ジョ
ン・ディヴィッド・サウザー)の助けを借りて、なんとかそれなりのアルバムに仕立てた
のが『ホテル・カリフォルニア』だと思うのだ。だから昨今の、”それなりの評価”には
違和感を憶える。このアルバムの魅力は、何よりも表題曲の《ホテル・カリフォルニア》
ではないか。シングルとしては《ニュー・キッド・イン・タウン》のほうがチャートの成
績は良かったが、《ホテル・カリフォルニア》の見事な完成度にくらべると数段落ちる。
アルバムの他の曲も同様だ。クオリティはそれなりだが、曲もそれなりなのである。

ドン・フェルダーによる美しい12弦ギターのイントロは、ロックの名曲に無くてはならな
い”心を掴むもの”を確実に持っている。僕たちが心を奪われたのは”それなりの評価”
があったからではなく、このイントロではなかったか。バーズの《ミスター・タンブリン
マン》や、サイモン&ガーファンクルの《スカボロー・フェア》のように、心をわしづか
みにするイントロ。このイントロが初めてラジオから流れてきたときに、思わず耳をそば
だてたり、ヴォリュームを大きくしたのではなかったのか。だいたい『ホテル・カリフォ
ルニア』が発売されたばかりの頃に”それなりの評価”を言っていたやつなんて、一人も
いなかったはずだ。当時の感覚で言えば、待ちに待ったイーグルスのニュー・アルバムの
凄い表題曲である。凄い曲なので、すぐにシングル・カットされなかったにも関わらず、
ラジオでガンガン(しかも殆どがフル・ヴァージョンで)かかっていたのだ。

最後のドン・フェルダーとジョー・ウォルシュによる、リード・ギターの素晴らしさ。と
どめに、必殺の”テレレ、テレレ”というハモリになだれこむ。DJも、ここを聴いても
らいたい思ったのだろう。だからフル・ヴァージョンでかかっていたのだ。実は《ホテル
・カリフォルニア》がヒットしたのは、当時のフォーク・ソング・ブームと関係あると思
っていた。わりと簡単にギターで弾けるコード進行。そして日本人の心に沁みるマイナー
・メロディ。これが、多くの人の記憶に残る曲になった要因ではと思っていた。でも、本
当に僕らの心を奪ったのは、イントロやツィン・リードであり、ドン・ヘンリーの切ない
ヴォーカルであり、ランディー・マイズナーの当時最先端だったレゲエを取り入れたベー
ス・ラインのはずだ。《ホテル・カリフォルニア》は、全てのパフォーマンスが音楽的主
張をしている。見事な曲だ。”それなりの評価”なんて、クソ食らえなのである。
『 Hotel California 』 ( THE EAGLES )
cover

1.Hotel California, 2.New Kid In Town, 3.Life In The Fast Lane
4.Wasted Time, 5.Wasted Time (Reprise), 6.Victim Of Love
7.Pretty Maids All In A Row, 8.Try And Love Again, 9.The Last Resort

THE EAGLES are
DON FELDER(vo,g,steel-g), GLENN FREY(vo,g,p,syn), JOE WALSH(vo.g,p,elp,org,syn)
RANDY MEISNER(vo,elb,guitarone), DON HENLEY(vo,ds,per,syn)

Released : January 1977
Recorded : March - October 1976 at Criteria Studios,Miami 
           & The Record Plant, Los Angels
Produced : Bill Szymczyk 
Label    : Asylum
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