●レゲエはこの1枚があればいい

世の中にボブ・マーリーというミュージシャンが存在すること、そしてそのミュージシャ
ンがやっている音楽がレゲエという音楽であることを知ったのは1975年くらいだったと思
う。ビートルズから出発してロックに目覚めたぼくは、ビートルズだけでは飽きたらず、
いろいろなロックを聴くようになっていった。しかしロックを聴きはじめたばかりだった
ので、”レゲエ”という言葉を聞いてもピンとこなかった。民族音楽の類かと思っていた
のである。しかし、音楽雑誌に載っていた、ロンドンの街を熱狂させたマーリーの記事と
いうのは記憶に残っている。確か、当時ミック・ジャガー夫人だったビアンカ・ジャガー
がマーリーのライヴを観て、あまりの素晴らしさに失神しそうになったとかならないとか
そんな記事だったと思う。このビアンカ・ジャガーの記事によって、レゲエという音楽が
あることが僕の頭の中にインプットされたのである。

しかしすぐにマーリーのレコードを買ったわけではなかった。当時のぼくのまわりでは、
キッス、クイーン、エアロスミス(女の子はベイ・シティ・ローラーズ)が人気であり、
、とてもマーリーの音楽までは手がまわらなかった。ビートルズの《オブ・ラ・ディ・オ
ブ・ラ・ダ》がレゲエのビートを取り入れた曲などと知っても、レゲエに直接触れたこと
がないためピンとこなかった。そんな僕がマーリーの音楽を知ることになったのは、ご多
分に洩れずエリック・クラプトンによるものであった。エリック・クラプトンの傑作アル
バム『461オーシャン・ブルーバード』に、マーリーの曲《アイ・ショット・ザ・シェ
リフ》が収録されていたのである。「カッコイイ曲だな」と思ったが、まだマーリー本人
のアルバムを買おうとまでは思わなかった。マーリーよりも先に聴くべき音楽が、眼の前
にありすぎたのだ。

そんなぼくがマーリーのアルバムを買ったのは、1980年代に入ってからである。レゲエや
スカが一般化し、ぼく自身いろいろなアーティストの音楽を体験する中で、やっとレゲエ
やブラジルの音楽などに目がいくようになったのだ。マーリーの音楽で知っている曲はエ
リック・クラプトンがカヴァーした《アイ・ショット・ザ・シェリフ》のみ。マーリー本
人の音楽は、それまで聴いたことがなかった。ピーター・トッシュやジミー・クリフなど
レゲエのスターとして有名な人も既に何人かいたが、やはり本格的なレゲエのレコードを
最初に買うのだからマーリーのレコードしようと決めていた。そして買ったのは、1975年
にロンドンでレコーディングされた《ライヴ》である。これで、ブットとんでしまった。
ビアンカ・ジャガーが熱狂したという、まさにそのライヴではないか。このことと《アイ
・ショット・ザ・シェリフ》が入っていたことが、《ライヴ》を選択した理由である。

冒頭に入っている司会のMC「トレンチ・タウンの体験にようこそ」という言葉で、レゲ
エ体験の期待がグワァーと高まったところにマーリーとウェイラーズの音楽がたたみかけ
てくる。それまでに聴いてきたロックやジャズのビートとは明らかに異なるリズム・パタ
ーンのグルーヴが脳天を直撃してくる。そしてマーリーのヴォーカルの独特の節回しは、
ショッキングでさえあった。しかし、この類の音楽は初めて聴くものではないと思った。
クラプトンによる《アイ・ショット・ザ・シェリフ》を聴いていたからではない。マーリ
ーを聴いて感じたのは、「まるでオーティス・レディングではないか」ということであっ
た。”似ている”とかいうことではない。オーティスの音楽にあったグルーズ感や熱気と
同質のものが、マーリーの音楽にあったのだ。ぼくはオーティスが大好きだったので、そ
れで一気にマーリーの音楽を理解できたような気がしたのである。

とにかく熱い、そして生きている音楽である。なんといってもハイライトは名曲《ノー・
ウーマン・ノー・クライ》。観客も完全にトレンチ・タウンにイってしまっている。この
曲のパフォーマンスにおけるマーリーのヴォーカルと、それを支えるウェイラーズの演奏
(特にオルガン)の素晴らしいこと。歌詞が、”エヴリシングス・ゴナ・ビー・オーライ
!”となるところのグルーヴ感なんて、鳥肌ものだ。そしてクラプトンで有名な《アイ・
ショット・ザ・シェリフ》でさらに盛り上がり、最後は怒涛の《ゲット・アップ・スタン
ド・アップ》でタタミかける。日本のお笑いタレントまでが使うようになった、”ヨー、
ヨー、ヨー”というレゲエ独特の掛け声も最高だ。レゲエ未体験、ボブ・マーリー未経験
の人に、ぜひ聴いてもらいたいアルバムである。はっきりいって、レゲエはこの1枚があ
ればそれでいい。それくらい決定的なアルバムである。
『 Live At The Lyceum 』 ( BOB MARLEY & THE WAILERS )
cover

1.Trenchtown Rock, 2.Burnin' and Lootin'
3.Them Belly Full (But We Hungry), 4.Lively Up Yourself
5.No Woman, No Cry, 6.I Shot the Sheriff, 7.Get Up, Stand Up

+ Bonus Track

8.Kinky Reggae

BOB MARLEY(vo,elg)
BERNARD "Touter" HARVEY(key), AL ANDERSON(elg)
ASTON "Family Man" BARRETT(elb), CARLTON (Carlie) BARRETT(ds)
I-THREESS(MARCIA GRIFFITHS, RITA MARLEY, JUDY MOWATT)(cho)

Released   : 1975
Recorded    : July 18, 1975 at The Lyceum, London 
Supervision : Steve Smith & Chris Blackwell
Label       : Island
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