●必見のポップ・ミュージック『スマイル』DVD

ブライアン・ウィルソンのDVD「ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル」が
発売された。過去の失われたアルバム「スマイル」からブライアンのバンドによる新しい
『スマイル』の誕生までを追ったドキュメンタリー「ビューティフル・ドリーマー」と、
『スマイル』のライヴ・パフォーマンスを含めた2枚組DVDである。これを観て、自分
がいままでビーチボーイズの「スマイル」や、新しい『スマイル』の音楽を聴いて感じて
きたことや、このサイトでも書いてきたことが、ブライアンが音楽を通して伝えていたこ
ととほぼ一致していたことがわかり胸が熱くなった。ブライアンが創った音楽は、作者自
身の感情を正しく聴き手に伝えることのできる力を持っていたのだ。違っていたのは、ド
ラッグに関するくだりくらいか。以前書いた「トリビュート・トゥ・ブライアン・ウィル
ソン」で、《英雄と悪漢》を歌うブライアンの表情がなぜ乏しかったのかも理解できた。

優れたドキュメンタリーの「ビューティフル・ドリーマー」には興味深い話が満載だが、
とにもかくにも2枚目のライヴ・パフォーマンスである。これが凄い。現代で最も高度で
美しいポップ・ミュージックが此処にある。音楽に少しでも興味がある人ならば、是が非
でも観るべきである。観ない(聴かない)ことは、音楽を愛するあなたの人生にとって損
失であろう。人間が考え編み出し、そして人間による演奏だけで、こんなにも高度で美し
い音楽が奏でられることに感動を憶える。いろいろな楽器が、音楽と共に目まぐるしく表
れる。楽器ではなくオモチャまがいのものや、大工道具まで登場するが、全て音楽の一部
として”なくてはならないもの”として演奏されているのである。これを観ているだけで
も楽しいが、やはり『スマイル』の全曲ライブの素晴らしいこと。活き活きとした、素晴
らしい演奏である。

この演奏を観ると、スマイル・ツァーで感じた違和感はなんだったのかということを考え
てしまう。以前にも書いたが、スマイル・ツァー日本公演でのブライアンは、「本当に楽
しんでいるのだろうか?」という印象だったのだ。バンドの演奏は素晴らしかったのだが
、ぼくにはブライアンはお仕着せでやらされているように見えた。僕が観た日が、たまた
まノッていなかったのだろうか。とにかく日本公演のブライアンからは、『スマイル』を
演奏する熱意のようなものは感じられなかった。しかし、DVD収録のライヴ・パフォー
マンスでは、ブライアンの表情は豊かである。自らが創り上げた音楽を、バンドと共に楽
しんでいるのがわかる。当たり前なのだが、演奏が『スマイル』だけなのも良い。この当
たり前のことをしなかったのが、スマイル・ツァーだったのだ。やはり『スマイル』を聴
いた後では、《バーバラ・アン》は不要である。

このDVDの『スマイル』のライヴは、これまでのベストかも知れない。聴くたびに、新
しい発見がある音楽。しかも驚くべき事に、この活き活きとした音楽は進化しているので
ある。ディスク1のボーナス映像として収められた2004年のロンドンにおける《ミセス・
オリアリーズ・カウ》と、2枚目のライヴ・パフォーマンスを聴き比べてみてほしい。公
けの席での初演となったロンドンの演奏が堅く慎重なのに比べ、2枚目のライヴ・パフォ
ーマンスは演奏がこなれ、音楽として活き活きとグルーヴしている。このグルーヴこそが
、CDの『スマイル』が素晴らしかった要因であった。ブライアンとバンドのメンバーは
、ライヴを重ねることで信頼感を深め、演奏もグルーヴを増していき、その熱気をCDに
封じ込めることに成功したのだ。その証拠のレコーディング風景がボーナス映像として観
れるのも、このDVDの特典である。

もう過去の「スマイル」はどうでもよい。だってあれは、殆どバッキング・トラックの未
完成品なのだから。過去の「スマイル」については、ぼく自身も含めて、いろいろな人が
いろいろなことを言ってきた。しかし今回のDVDをみて、ぼくはもう過去の「スマイル
」について語るのはもう止めようと思った。そもそもアーティストが完成品として提示し
ていない(作品と呼べる段階ではない)ものについて、どうのこうの言うのは間違ってい
る。いま眼の前にある『スマイル』こそが完成品なのだ。最高に素晴らしい音楽。メイン
のメロディに気を取られていると、ハッとするような美しいフレーズをバックの楽器が奏
でていたりする。斬新で美しいコードの展開、眼の前が明るくなるようなハーモニー。ブ
ライアンによって精巧に編まれた音楽のパズル。くりかえすが、是が非でも観るべき。難
点はただ1つ。これを聴くと、しばらく身体からでていかないことである。
『 BRIAN WILSON PRESENTS SMILE 』 ( BRIAN WILSON )
cover

Disk1:BEAUTIFUL DREAMER (BRIAN WILSON & THE STORY OF SMILE)
+ Bonus Material
1.Mrs. O'Leary's Cow (Live At The Royal Festival Hall, London February 2004)

Disk2 : Smile Live Performance
1.Our Prayer/Gee, 2.Heroes and Villians, 3.Roll Plymouth Rock,
4.Barnyard, 5.Old Master Painter/You Are My Sunshine, 6.Cabin Essence,
7.Wonderful, 8.Song for Choldren, 9.Child Is Father of the Man, 10.Surf's Up,
11.I'm in Great Shape/I Wanna Be Around/Workshop, 12.Vega-Tables
13.On a Holiday, 14.Wind Chimes, 15.Mrs. O'Leary's Cow, 16.In Blue Hawaii,
17.Good Vibrations

+ Bonus Material
18.Rhapsody in Blue(solo), 19.Good Vibrations(solo),
20.Good Vibrations(with Carol Kaye), 21.Heroes and Villians(solo),
22.Heroes and Villains(with Carol Kaye),
23.Heroes and Villains(Vocal Version with Carol Kaye),
24.Wonderful(solo),25.Cabin Essence(With Darian Sahanaja)

BRIAN WILSON(vo,key,arr)
JEFFREY FOSKETT(vo,g,hammer),DARIAN SAHANAJA(vo,key,mallets,drill,secretary),
PROBYN GREGORY(vo,g,brass,tannerin,whistles),NICK WALSKO(vo,g,eye-patch,carrets),
NELSON BRAGG(vo,per,whistles,celery), JIM HINES(ds,mallets,saw,sound fx),
BOB LIZIK(b,beret), PAUL MERTENS(woodwinds,sax,hermonica,semi-conducter),
SCOTT BENNETT(vo,key,mallets,g), TAYLOR MILLS(vo,power-drill,leg-slap),
STOCKHOLM STRINGS 'N' HORNS
Bjorn Samulsson(tb), Staffan Findin(b-tb), Vikter Sand(sax,fl,cl), 
Erik Holm(viola), Malin-My-Nilsson(violin), Andreas Forsman(violin),
Anna Landberg(cello), Markus Sandlund(cello)
DAVE STONE (acoustic bass)
VAN DYKE PARKS(words)

Produced & Arranged by Brian Wilson

※上記のイメージをクリックすると、Amazonにて購入できます