●ロックへの旅:ボ・ディドリー
    (ボ・ディドリー:1955)

もしも皆さんが僕と同じ様にロックへの旅をはじめた場合、最初に出会う”サウンドの衝
撃”がボ・ディドリーの《ボ・ディドリー》ではないでしょうか。1955年にリズム&ブル
ースのチャートで1位になったボ・ディドリーのデビュー曲です。一聴するとわかります
が、”ジャン、ッジャ、ジャンジャン、ゥン、ジャンジャン”という独特のビートを持っ
た曲です。その後のロックに与えた影響は、決して少なくなくありません。バディ・ホリ
ーは、この独特のビートをそのまま使用して《ノット・フェイド・ア・ウェイ》を創って
います。その《ノット・フェイド・ア・ウェイ》をシングルでカヴァーしたローリング・
ストーンズは、イギリス盤のデビュー・アルバムでボ・ディドリーの《モナ》をオリジナ
ルに忠実にカヴァーしています。しかし、チャック・ベリーほどには、ボ・ディドリーの
音楽は知られていないように思います。なぜなのでしょうか。

チャック・ベリーの名前をアメリカから離れた遠い島国の国民である僕らが知る機会とい
うのは、やはりビートルズのカヴァー曲の作者としてではないのかと想像します。少なく
とも僕個人の場合はそうでした。ビートルズのライバル?といわれていたストーンズもチ
ャック・ベリーの曲を数多くカヴァーしていますし、ビーチ・ボーイズも同様です。つま
りチャック・ベリーの名は、知られる機会がそれだけ豊富なわけですが、ボ・ディドリー
の場合は機会が豊富とは言えません。なぜなのか。その答えは、ボ・ディドリーの曲が収
録されたアルバムを見るとわかります。例えば《モナ》が収録されたストーンズのデビュ
ー・アルバムを見てみましょう。「えーっと、《モナ》って何か変わったサウンドの曲だ
な。ミックとキースのオリジナルでもないしー。えーっと、作者はっと。Ellas McDaniel
?。エラス・マクダニエル・・・?って誰?」てなことになるのではないでしょうか。

そうです。エラス・マクダニエル、イコール、ボ・ディドリーなのですが、知らなきゃ名
前なんて結びつきませんよね。弾厚作、イコール、加山雄三だって、知らなきゃ同一人物
とは思わないではないですか。もちろんボ・ディドリー自身は、後年のブリティッシュ・
ロックの世界に起こることなんて予想できたわけはないですから、自作の曲のクレジット
は本名のエラス・マクダニエルとしたわけです。チャック・ベリーやリトル・リチャード
と同じくらい斬新で画期的なオリジネーターにもかかわらず、ボ・ディドリーの名前が彼
らほどの知名度がないのは、すべてこのことに原因があると思うのです。ビートルズによ
るカヴァーがなかったのも、イタかったかも知れません。しかし、チャック・ベリーの初
期の作品が”オールド・ロックンロール特有の古くさささ”を感じるのに対し、ボ・ディ
ドリーの音楽には、見事に古くささがないのです。

おそらくローリング・ストーンズのファンであれば、違和感なくボ・ディドリーの音楽を
受け入れ、かつストーンズのルーツの一部がボ・ディドリーの音楽の中にあることを、確
実に発見できると思います。もちろん現在の機材やレコーディング技術と比較した場合に
は、粗野な感じのするサウンドです。しかしそれ以前には聴くことのできなかった斬新な
サウンドとオリジナリティーが存在しているのも、同時に感じ取れるのではと思っていま
す。根っこの部分は確実にブルースに根ざしていることはわかるのですが、そこから、ど
こをどうやってあのサウンドに辿り着いたのかということを考えると本当に不思議な気が
します。ボ・ディドリーは、自分でヴァイオリンやギターを作る工法を身に付けていたと
言われていますが(彼のギターは、独特なスクエアなスタイルのギターである)、そのよ
うな知識と技術を持っていたこととも、何か関係があるのかなという気がします。

とにかく《ボ・ディドリー》です。このあまりにも斬新なエレクトリック・サウンドは、
1955年の人々にはどのように響いたのでしょうか。黒人が口伝承で歌う民謡のようなメロ
ディ、熱狂的な感覚になる独特のリズム、カリビアン音楽を想起させるジェローム・グリ
ーンのマラカス、そしてトレモロでグニョグニョになったギターのエレクトリック・サウ
ンド。現在の耳で聴いても、十分にオリジナルで衝撃的です。この曲はシングルとして出
たのですが、B面はビリー・ボーイ・アーノルドのハーモニカが炸裂する、こちらも強烈
な《アイム・ア・マン》でした。《アイム・ア・マン》は、マディー・ウォーターズがそ
のままパクって《マニッシュ・ボーイ》(ストーンズやジミヘンもカヴァー)を作ってい
ます)。とにかく相当に衝撃的なシングルだったに、違いありません。そして《ボ・ディ
ドリー》によって、ついにギターがロックの主役に踊り出てくるのです。
《Bo Diddley》( BO DIDDLEY )
cover

Bo Diddley(vo,elg),
Billy Boy Arnold(harp), Otis Spann(p), 
Jerome Green(maracas), Frank Kirkland or Clifton James(ds)

Written  by: Ellas McDaniel
Produced by: Phil and Leonard Chess
Recorded   : Mar 2,1955
Released   : Jun ,1955
Charts     : R&B#1 Jun,1955
Label      : Checker

Appears on :Bo Diddley His Best
1.Bo Diddley,2.I'm a Man,3.You Don't Love Me (You Don't Care),
4.Diddley Daddy,5.Pretty Thing,6.Bring It to Jerome
7.I'm Looking for a Woman,8.Who Do You Love?,9.Hey! Bo Diddley
10.Mona [Aka I Need You Baby],11.Before You Accuse Me
12.Say Man,13.Dearest Darling,14.Crackin' Up
15.Story of Bo Diddley,16.Roadrunner,17.Pills,18.I Can Tell
19.You Can't Judge a Book by Its Cover,20.Ooh Baby 
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