●『レイラ』の真の魅力

エリック・クラプトン。最近は矢継ぎばやにアルバムを出したり、SMAPが歌う愛知万
博のテーマソングなんかを書いたりしている。いつの頃からか、すっかり面白みの欠ける
ミュージシャンになってしまった。ギターを弾く人にとっては、相変わらず注目に値する
ミュージシャンなのかな。僕が好きなのは、70年代のエリックだ。アルバムで言うと、『
レイラ』から『ノー・リーズン・トゥ・クライ』あたりまで。ギター・プレイがどーのこ
ーのというよりも、オシャレでナイーヴで、飲んだくれながら仲間と一緒に好きな音楽を
奏でているような”あの雰囲気”が良かったのだ。当時のエリックの音楽を指して、”レ
イドバック”という言葉が盛んに使われた。しかし僕にとっての当時のエリックの音楽は
グルーヴ感溢れる音楽だ。”レイドバック”なんてゆったりとした印象は無い。何より、
この時代のエリックの音楽は、演奏する楽しさに満ち溢れているのである。

とりわけ『レイラ』は素晴らしい。傑作になるべくしてなったアルバムだ。なぜなのか。
エリックは、本質的に主役になるタイプのミュージシャンではない。人のバックにまわっ
たときに、キラリと光る(最近の表現だと”さすがに渋い”といったところか)ギターを
弾くタイプである。エリックは、そのような自分の本質を最初はよくわからずに、音楽の
世界に飛び込んだのだろう。クリームの成功で、エリックは一躍”ギターの神様”にまつ
りあげられるが、成功とともにもたらされた”名声”に苦悩することになる。おそらくこ
こで初めて、エリックは自分の本質に気がついた。「いちギタリストに徹したい」、その
ような思いが続くブラインド・フェイスでスティーヴィー・ウィンウッドが大きくフィー
チャーされた理由だろう。しかしブラインド・フェイスは、そのようなエリックの思いと
は裏腹に”スーパー・グループ”の看板を背負うことになるのである。

この頃のエリックは、「自分の名前が出る限り、いちギタリストに徹することはできない
」と考えていたに違いない。そんな折に参加したデラニー&ボニーとのツァーで、初めて
エリックは、一人のギタリストとして音楽を楽しむことができたようだ。デラニーはエリ
ックに「人を楽しませる音楽をやるには、まず自分が楽しまなければならない」と伝えた
のだという。”ギターの神様”と言われることに嫌気がさしていたエリックにとって、眼
からウロコが落ちる言葉だったに違いない。そしてそこには、後に”ドミノス”のメンバ
ーとなるキーボードのボビー・ウィットロック、ベースのカール・レイドル、ドラムスの
ジム・ゴードンがいた。このメンバーは、同じく”いちギタリスト”としてデラニー&ボ
ニーのツァーに参加していたジョージ・ハリスンのレコーディングに参加する。ジョージ
のビートルズ解散後の初のソロ・アルバム『オール・シングス・マスト・パス』だ。

おそらくデレク&ザ・ドミノスは、『オール・シングス〜』のセッションで結成された。
アルバム後半で繰り広げられる”アップル・ジャム”は、ドミノスのメンバーにデイヴ・
メンソン(デラニー&ボニー&フレンズのツァーに参加していた)が加わった編成で演奏
されている。ドミノスが”エリック・クラプトン&フレンズ”としてライヴ・デビューを
飾ったのも、『オール・シングス〜』のセッションの真最中の1970年6月のことだ。そし
てこの時代のジョージとの深い関わりは、エリックの心に一つの変化をもたらす。よく知
られる、パティ・ハリソン(この時代のジョージ婦人で、後にエリックと結婚)との恋愛
である。定説どおり、パティへの恋愛感情によって『レイラ』を構成する各曲が生まれた
のは間違いないだろう。とりわけ、エリックがこれ以上ないくらい切ない声で歌う《ベル
・ボトム・ブルース》は堪らない。やはり恋愛は創造性に大きくするのかな。

しかし冒頭に書いたように『レイラ』の真の魅力は、演奏される音楽のグルーヴ感による
ものだ。客演しているデュアン・オールマンの圧倒的なプレイがエリックを本気にさせ、
アルバムの各曲を”名演”のレベルに押し上げたのだ。ジミヘンのカヴァー《リトル・ウ
ィング》の”どーにも止まらない”ような感じ、《ホワイ・ダズ・ラヴ・ゴット・トゥ・
ビー・ソー・サッド》の疾走感溢れるところなどは最高である。そして表題曲《レイラ》
でのデュアンのスライド・ギター・ソロと、それをバックアップするドミノスの演奏の素
晴らしいこと。エリックだろうか、思わず演奏中に声を発している。パティとの関連で語
られることの多い『レイラ』だが、聴きどころは、何もかも(おそらくパティのことも)
忘れて一人のミュージシャンとして心底から演奏を楽しむエリックと、音楽に身を任せた
ドミノス&デュアン・オールマンの奏でるグルーヴ感溢れる見事なロックなのである。
『 LAYLA and other assorted love songs 』 ( Derek & The Dominos )
cover

1.I Looked Away, 2.Bell Bottom Blues, 3.Keep On Growing
4.Nobody Knows You When You're Down And Out
5.I Am Yours, 6.Anyday, 7.Key To The Highway
8.Tell The Truth, 9.Why Does Love Got To Be So Sad?
10.Have You Ever Loved A Woman
11.Little Wing, 12.It's Too Late, 13.Layla
14.Thorn Tree In The Garden
 
DEREK AND THE DOMINOS
ERIC CLAPTON(vo,g), BOBBY WHITLOCK(org,p,ag,vo),
CARL RADLE(elb,per), JIM GORDON(ds,per,p)

AND 

DUANE ALLMAN(elg)

Recorded : Aug-Oct, 1970 Atlantic South-Criteria Studios, Miami Florida
Released : Nov, 1970
Producer  : Tom Dowd and the Dominos 
Label     : Atco→Polydor
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