●再結成した伝説のロック・バンドの魅力は何か

本屋を覗いたら、クリームを表紙にデンッと飾った音楽雑誌があった。クリームといって
も、最近のギター少年は知っているのかな。「ほら、スマップがいま歌っている曲を作っ
た人がエリック・クラプトンっていう人なんだけど、その人が20代のころにいたバンドだ
よ」とか言ってもピンとこないのかも知れないな。下手したら「くりぃむ?、有田と上田
でしょ?」なんて言われちゃったりして。これが、まんざら冗談にも思えないほど、彼ら
が活躍したのは昔だからなぁ。クリームは、ギターのエリック・クラプトン、ベースのジ
ャック・ブルース、ドラムスのジンジャー・ベイカーの3人からなるロック・バンドだ。
ロバート・ジョンソン、ウィリー・ディクソン、マディー・ウォーターズといったブルー
ス・マンの曲を、即興を大きく取り入れて凄まじい演奏を行うことで注目を浴びたグルー
プである。活動期間が短かったことから、伝説的なバンドとなっているらしい。

そんな彼らが、今月初旬(3日、4日、5日、6日)にイギリスのロイヤル・アルバート・ホ
ールで再結成コンサートを行った。チケットは即完売(チケット代は、日本円に直すと、
なんでも40万円近くまで跳ね上がったそうだ)。演奏は概ね好評だったようである。演奏
された曲目も、代表的な曲のオン・パレードだ(さすがに初期のシングルの《ラッピング
・ペイパー》や《アイ・フィール・フリー》はやっていない)。彼らもみな60代。写真を
見ると、ドラムスのジンジャー・ベイカーなんてジミー・原田かと思っちゃった。ジャッ
ク・ブルースの声は、出ていたのだろうか。クリームというと、ついつい《クロスロード
》とか《スプーンフル》の凄まじい即興演奏ばかりが注目されるが、クリームの大きな魅
力の一つはジャックのヴォーカルだ。あのソリッドで見事にロックっぽいヴォーカルこそ
、クリームの魅力だと僕は思っていたのだが、その辺りはどうだったのかなぁ。

クリームというバンドに入る前、クラプトンはジョン・メイオールとブルース・ブレイカ
ーズ、ジャック・ブルースはマンフレッド・マン、ジンジャー・ベイカーはグラハム・ボ
ンド・オーガニゼーションというバンドでそれなりに名が知られていたらしい。しかし、
各人はそれぞれのグループの音楽性には満足していなかった。クラプトンなんかは、本格
的なブルース・バンドを作るには、アメリカに行くしかないと思っていたそうである。し
かしジンジャーとジャム・セッションを行って音楽的にも気持ちの面でも意気投合したク
ラプトンは、かねてからベーシストとしての技量に着目していたジャック・ブルースをバ
ンドに誘う。これが、クリーム結成の経緯だ。この経緯から推察すると、クラプトンとジ
ンジャー・ベイカーは、「こいつとならば、ブルースをベースにした音楽的にもっと刺激
のある演奏ができる」くらいにしか考えていなかった可能性がある。

しかしジャック・ブルースは、違っていたのではないか。ジャズやR&Bという幅広い音
楽性を持ち、何よりもベーシストとして抜群の腕前を持っていたジャックは、マンフレッ
ド・マンというポップなヒット・シングルを持つグループの1ベーシストという立場で満
足をしていなかったことは想像に難くない。ジャックがバンドに参加するにあたって、そ
れぞれが対等な立場で演奏できるバンドを作ろうなどというような話あいが持たれたに違
いない。そして、おそらくジャック自身も、新しいクリームというバンドに入って伴奏者
に廻る気などさらさらなかったのだろう。むろん想像でしかないが、ジャックが自分を含
めたクリームというバンドを念頭に置いたオリジナル作品を準備し、スタジオ面ではバン
ドをリードしていたことは、クリームが残したシングルやアルバムのスタジオ録音を聴け
ば明白である。

ジャック・ブルースが凄いと思うのは、彼が常に”3人対等の立場”と考えた作品を創り
提供していることだ。例えば《ホワイト・ルーム》。80年代半ばから、再びクラプトンが
ステージ・レパートリーに加えたことで、なんとなくクラプトンの曲っぽいイメージが浸
透しているが、ジャック・ブルースの曲である。初期のシングルも彼の曲であり、これら
のスタジオ録音をリードしているのは間違いなくジャックであろう。クリームに関しては
、ステージの即興部分で各自がバラバラのエゴの塊りのような演奏となって、最終的には
解散に至ったというような記述が多く見受けられる。そのように聴こえる演奏もなくはな
いと思うが、ジャックは”3人対等の立場”と考えて演奏に臨んでいたのではないかと思
われるふしがある。むしろ、エゴイスティックになっていったのは、クラプトンのほうだ
ったのではないか。

つまりクリームの魅力というのは、ジャック・ブルースの音楽性に負うところが多いと思
うのである。クリームの音楽の核になっていたのは、ジャックに間違いない。彼の才能は
、クリームへの参加で大きく開花したのだ。それは、クリームの一大傑作《サンシャイン
・オブ・ユア・ラヴ》1曲を聴いてもわかる。ディープ・パープルの《スモーク・オン・
ザ・ウォーター》と並んで”ロック”としかいいようのないこの曲のイントロのリフは、
いかにもベーシストらしい印象的なリフである。ロック・ギター小僧で弾いた事がないや
つはモグリと言っても過言ではない。このカッコいいリフを書いたというだけで、ジャッ
ク・ブルースの名はロック史に刻まれる価値がある。それくらい決定的なリフなのだ。そ
んなクリームの魅力に触れるには、ジャックの代表作の他、代表曲やライヴ音源がまとめ
て聴ける下のベスト盤が最適である。クリームで、ジャックの良さを再確認しよう。
『 Gold 』 ( Cream )
cover

Disk1
1.I Feel Free, 2.N.S.U., 3.Sweet Wine, 4.I'm So Glad, 5.Strange Brew
6.Sunshine Of Your Love, 7.World Of Pain, 8.Tales Of Brave Ulysses
9.Swlabr, 10.We're Going Wrong, 11.White Room
12.Sitting On Top Of The World, 13.Passing The Time, 14.Politician
15.Those Were The Days, 16.Born Under A Bad Sign
17.Deserted Cities Of The Heart, 18.Anyone For Tennis, 19.Badge
20.Doing That Scrapyard Thing, 21.What A Bringdown

Disk2
1.N.S.U., 2.Sleepy Time Time, 3.Rollin' And Tumblin', 4.Spoonful,
5.Crossroads, 6.Sunshine Of Your Love, 7.I'm So Glad, 8.Toad
 
CREAM
ERIC CLAPTON(vo,elg), JACK BRUCE(vo,elb,harp), GINGER BAKER(ds)

Label : Polydor
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