●エヴァンスについての世にも奇妙な物語

ええどうも、まいど。みなさん、こんにちわー。今回は、愛聴しているビル・エヴァンス
のアルバム『コンセクレイション〜ザ・ラスト』を紹介しようと思っていたんですわー。
ええ、そうです。1989年に出たCD2枚組のやつです。いま発売されている月刊「プレイボ
ーイ」6月号の51ページで、新進ピアニストのアキコ・グレースが紹介しているアルバム
です。アキコさんも、「芸術にとって最も大切な、引力とエネルギーがある。鬼気迫るも
のがここにはあります」と言うてますがな。ほんと、これ凄いんですわ。同じ「プレイボ
ーイ」の57ページでは、東京四谷の僕もときどきお世話になっているジャズ喫茶「いーぐ
る」のマスター後藤雅洋さんも、”2005年的エヴァンスのこの1枚”としてあげてますが
な。えーっと、アマゾンで見てみますかっと。えっ、いったい、どーなってんねん。あら
らららら。アルバムそのものが存在してないじゃあーりませんか。

困ったな。このアルバムの1枚目の最後を飾っていた《サムデイ・マイ・プリンス・ウィ
ル・カム(邦題:いつか王子様が)》を紹介したかったのに。そう、ディズニー映画「白
雪姫」で、白雪姫が小人に歌ったあの可愛らしい曲ですわ。エヴァンスも1959年の傑作ア
ルバム『ポートレイト・イン・ジャズ』に収録していらい、生涯に渡って愛奏してきた曲
やがな。エヴァンスだけではなく、マイルス、ウィントン・ケリー、デイヴ・ブルーベッ
ク・カルテットなんかも、みんないい演奏を残してまっせ。でも、『コンセクレイション
〜ザ・ラスト』のエヴァンスの演奏は、それはもうなんちゅうか、たまらんわけですよ。
これを聴いたら、マイルスもケリーもブルーベックも、みなぶっ飛びまっせ。それだけで
はなく、『ポートレイト・イン・ジャズ』のときのエヴァンスの演奏よりも凄いと思うて
るんや。もうここでのエヴァンスは、なんちゅうか神がかっているんですわ。

まずは、イントロですわ。普通にくるかと思ったら、もう途中からハッとさせられるよう
な美しいコード・チェンジがきてたまりましぇーんって感じですわ。そして、ベース・ソ
ロになるまでのエヴァンスの3コーラスに渡るソロが、ごっつう物凄いこと。僕の知って
いるある女性は、この演奏を初めて聴いたとき「ありえないー」って言ってましたけど、
ほんとにありえん演奏ですわ。エヴァンスの紡ぎだすピアノのフレーズの(特に3コーラ
スめの)凄まじさ。普通のミュージシャンやったら、一定の自分のスタイルを見つけたら
、それを守るようにして生涯を終えていくやんか。しかし、エヴァンスは違うんや。デビ
ューから晩年になるにつれて、どんどん過激になっていくんですわ。そこが、凄いねん。
このアルバムのエヴァンスからは、”ピアノを弾く以外になかった男”の壮絶な姿勢ちゅ
うか気迫っちゅうか、とにかくそういうもんを感じんねん。

この《サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム》を紹介したかったのに。いま、このア
ルバムは売ってへんのかな。そうそう、そういえばこの『コンセクレイション〜ザ・ラス
ト』のもとになったキーストン・コーナーのライヴは、確か海外では『ザ・ラスト・ワル
ツ〜ザ・ファイナル・レコーディングス・ライヴ・アット・キーストン・コーナー』っち
ゅうナガーいタイトルで出とったはずや。しゃーないから、そのアルバムを紹介するか。
しかし紹介しても、8枚組ボックス・セットなんて、よほどのファンでも買わんわなー。
だいたいボックス・セットなんて全部きちんと聴かへんもんなぁー。みんな、ちゃんと聴
いてるんかなぁー。まあ、とにかく同じ場所、同じときのライヴの集大成やし、同じテイ
クが入っていれば問題ないもんな。肝心なのは、《サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・
カム》を聴いてもらうことや。とりあえずこのドデカイ箱を紹介することにしましょ。

って同じテイクが入ってませんがなぁー。残念!って、ギター侍かぁー。曲は同じ《サム
デイ・マイ・プリンス・ウィル・カム》でも、調子の悪いほうのテイク入れてどうすんじ
ゃー。アキコ・グレースだって困るやろがー。いったいレコード会社は、なにやっとんね
ん。いったん出したもんを、出したり引っ込めたりしたらあかんやないかー。経済性が最
優先のいまの時代。何よりも、”売りたい”というのはわかりまっせー。しかし、いろい
ろな人が”この1枚”にあげるようなアルバムを、経済性を優先に”売らんかな”精神で
、いろいろなタイトルで曲順とかも滅茶苦茶にして出してもええのかー。だいたい僕が紹
介したい《サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム》は、どこに入っているのかわから
んやろがー。アキコ・グレースが紹介しているのと同じアルバムを聴いてみたいと思った
人がいたときに、どれを買えばええんじゃー。どでかい箱もの買わせる気かぁー。

エヴァンスの超有名盤『ワルツ・フォー・デビイ』も同じじゃー。アマゾンでビル・エヴ
ァンス(あるいはbill evans)で検索して、一番売れている順番にある『ワルツ・フォー
・デビイ』(輸入盤)の曲順を見てみい。これが『ワルツ・フォー・デビイ』かぁ。しか
も売れとるやないかぁー。ほとんどの名盤ガイドに載っているであろうこのアルバムを、
”ジャズを聴きたくて”と思った人が買っているのだと思うと、なんとも言えん気持ちに
なるわぁ。これは『ワルツ・フォー・デビイ』やない。別テイクを続けてどうすんじゃ。
きみはパーカーのダイアル盤か、ブルーノートの《ウン・ポコ・ロコ》かぁー。いまや、
正しい『ワルツ・フォー・デビイ』も存在しないんかぁー。そんな、バカな。こんなこと
が、あってええんかぁー。ひょっとして、これは夢か。いーえ、現実なんですよ。せめて
正しい順番にプログラムしなおして聴きましょうね。あー、しんど。
『 Waltz for Debby 』 ( Bill Evans Trio )
cover

1.My Foolish Heart, 2.Waltz for Debby, 4.Detour Ahead,
6.My Romance, 8.Some Other Time, 9.Milestones

+ Bonus Track

3.Waltz for Debby (Take 1), 5.Detour Ahead (Take 1)
7.My Romance (Take 2), 10.Porgy (I Loves You, Porgy)

BILL EVANS(p), SCOTT LAFARO(b), PAUL MOTIAN(ds)

Recorded : June 25, 1961 The Village Vanguard; NewYork
Producer : Orin Keepnews
Label    : RIVERSIDE
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