●セクシーで勢いのあるツェッペリンのサウンド

昨年のDVDのヒットや、最近の”大人のロック系”雑誌など、巷で大きく取り上げられ
ている感の強いのがレッド・ツェッペリンである。解散から20年以上たった現在でもその
ように大きく取り上げられるのは、彼等の創り出した音楽が多くの人の心に大きく残って
いるためであろう。ツェッペリンの音楽は、この時代のイギリスの多くのバンドがそうだ
ったようにブルースに大きな影響を受けたものだ。ツェッペリンはハードなリフを使って
、ブルースからの影響を現代的なロックに昇華させた。ロックを年代的に追って聴いてい
くとわかるが、彼等の前にはそのようなスタイルのロックはなかったのだ。オリジナリテ
ィを持った本物の音楽だからこそ、ツェッペリンの音楽は多くの人の心をとらえているの
であろう。

日本の場合は、それだけではないかもしれない。ビートルズの解散後の70年代に青春時代
を送った多くのロック・ファンにとって、No.1ロック・バンドといえばレッド・ツェッペ
リンだったのではないだろうか。当時来日できなかったローリング・ストーンズよりも、
ツェッペリンのほうが身近な存在だった気がする。ツェッペリンの来日は70年代前半、映
画「永遠の詩」が公開されたのが70年代後半。70年代に”動くツェッペリン”を体験した
人の多くは、現在では30代後半から50代のはずだ。まさに”大人の(青春時代の)ロック
”なのであろう。ぼく自身も、”ツェッペリン”と聞いただけで、ロックに関心を持ち始
めたばかりの中学生時代に戻ってしまうような感覚になることがある。映画「永遠の詩」
を最初に観たのも、中学生のときだ。新宿の歌舞伎町の映画館で、お姉さん達のプンプン
の香水の匂いに囲まれながら観た鮮明な記憶がある。映画館の大きなスクリーンに映し出
された、ロバート・プラントやジミー・ペイジのカッコよさは忘れられない。しかし、そ
のような感傷的な思いによって、ツェッペリンの音楽を美化することはない。本当に、ツ
ェッペリンの音楽は凄いと思っているのである。

ぼくがツェッペリンのアルバムで一番だと思っているのは、2枚目の『レッド・ツェッペ
リンU』だ。初めて聴いた日のこともよく憶えている。中学2年生の、13歳か14歳の頃の
ことだった。ぼくはこのアルバムを、大阪から転校してきた同級生の家で初めて聴いたの
だ。その転校生は、”エレキ・ギターを持っている”と友人達の間で噂になっていた。当
時はフォーク・ソング全盛の時代で、ぼくらの周りでは”エー・マイナー”とか”エフ・
セブンス”などというギターのコードをようやく憶えたばかりだった。しかしその転校生
は、なにやらそれだけではないらしい。ぼく自身は、その転校生と違うクラスだったので
、彼と同じクラスの音楽好きな友人の紹介でその転校生の家にいったのだ。そのときにそ
の転校生が”挨拶がわりにレコードに合わせて弾いてくれた”のが、このセカンド・アル
バムに収録されている《ホール・ロッタ・ラヴ(邦題:胸いっぱいの愛を)》だったので
ある。ちなみに夏の暑い日だったので、彼は白いブリーフ1枚の姿でエレキ・ギターを持
ち、僕達の前でほぼピッタリとレコードに合わせて演奏したのだ。これを衝撃といわずし
てなんと言おう。そのような極めて個人的な思い出があるので、『レッド・ツェッペリン
U』は忘れようにも忘れられないレコードなのである。その演奏にショックを受けた僕は
、その後その転校生と仲良くなり、彼から借りたレコードをカセット・テープに録音して
、毎日のように聴きまくっていたのである。

中学時代の衝撃的な思い出とシンクロしてしまう『レッド・ツェッペリンU』なので、し
ばらくは冷静に聴くことができなかった。その後、いろいろな音楽に出会うようになって
、ようやく冷静に聴くことができるようになったのである。しかし冷静になって聴いたと
しても、ツェッペリンで一番なのはこのセカンド・アルバムなのだ。なんといっても音楽
に勢いがある。この初期ならではの勢いがあるのは、セカンド・アルバムまでだ。ファー
ストにも、確かに勢いはある。では、ファーストとセカンドの違いはなんなのか。それは
、音楽とアルバムのクォリティである。1曲1曲の音楽的な構成の見事さが、『レッド・
ツェッペリンU』にはあるのだ。例えば、アヴァンギャルドな中間部を持つ《ホール・ロ
ッタ・ラヴ》、素晴らしいアコースティック・ギターのソロが飛び出す《サンキュー》、
コンサートでのジョン・ボーナムのショーケースとなっていたハンド・ドラムによるソロ
も含む《モビー・ディック》、静かなブルース調から一転してハードなリフに入っていく
《ブリング・イット・オン・ホーム》など、それぞれの曲が”ココ”という聴きどころを
持っているのである。ツェッペリンの曲はリフが大きな役割を担っているが、それだけで
最後まで押し通してしまうのではなく、曲が即興的に展開していくような構成的な面白さ
を持っている。これが凡百のハード・ロック・バンドとの決定的な違いで、『レッド・ツ
ェッペリンU』にはこの特徴がよくでていると思うのである。そしてそれらの曲が連なっ
たときの、アルバムとしての構成の見事さ。曲の緩急をうまく使って、全体を通して聴い
ても、まったく飽きを感じさせないのだ。なかなか見事なプロデュースである。

また『レッド・ツェッペリンU』には、ツェッペリンの全てのアルバムのなかで、ブリテ
ィッシュ・ロックならではのスマートなカッコよさ(これを言葉でうまく表現するのは難
しいのだが)があるのだ。セクシーさと言い換えてもよい。例えば2曲目の《ホワット・
イズ・アンド・ホワット・シュッド・ネヴァー・ビー(邦題:強き二人の愛)》を聴いて
みてほしい。ロバートのヴォーカルも、ジミー・ペイジのギターも、冒頭と後半のココぞ
というところでボンゾが鳴らすドラの音も、サウンド全体がセクシーなのである。ある意
味でこのようなセクシーな部分こそ、ぼくがツェッペリンが好きな理由かも知れない。そ
して日本でよく比較される、ディープ・パープルの音楽との決定的な違いだ。ツェッペリ
ンに熱狂的な女性ファンが多いのも理解できる。カッコイイのだ。シビレてしまうのであ
る。そしてそのようなブルージーでセクシーで、かつ勢いのあるサウンドが聴けるのは、
『レッド・ツェッペリンU』だけなのであある。
『 Led Zepplin U 』 ( Led Zepplin )
cover

1.Whole lotta love, 2.What is and what should never be,
3.Lemon song, 4.Thank you
5.Heartbreaker, 6.Livin' lovin' maid (she's just a woman),
7.Ramble on, 8.Moby dick, 9.Bring it on home

LED ZEPPELIN
JIMMY PAGE(g), ROBERT PLANT(vo), JOHN PAUL JONES(elb,key), JOHN BONHAM(ds,per)

Recorded : 1969
Producer : Jimmy Page
Label    : Atlantic
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