●ロックへの旅:イントロダクション

今年(2005年)は、ロック生誕50周年ということです。それを記念して、1月1日の朝刊で
記者と評論家が選んだロック名盤選が紙面を飾っていた大新聞もありました。生誕50周年
を記念したコンピレーションCDも、いろいろと発売されるようです。50年前といえば、
ぼくはまだこの世に生まれていません。現在60歳の人でも10歳だったわけですから、50年
前に生まれたロックをリアルタイムで”感じる”ことのできた人は、もうそれなりの年齢
となっていることと思われます。聴いている側もそれだけの年齢を重ねる50年という長い
年月の間に、ロックの世界ではいろいろなシンガーやミュージシャンやグループが現れま
した。そして、多種多様な音楽をぼく達の前に提示してくれました。そこでぼくも、これ
を機に、ロックがどのような変遷をたどってきたのかを年代順に再確認してみようと考え
てみました。
再確認をしていくうえで重要なことは、肝心の音楽が現在のぼくの耳にどのように響くの
かということだと思っています。本物の音楽ならば、きっと何かを感じることができるは
ずだ。そのようなことを考えながら、半世紀に渡るロックの旅を行ってみたいと思いまし
た。その中には、夢中になって聴いてきたものもあれば、殆ど聴いていない音楽もありま
す。年代順に聴く事は必ずしも意味のあることだとは思っていませんが、その聴き方でし
か見えてこないものもあるかも知れません。それは、ぼくにとって実際にやってみなけれ
ばわからない未知の世界です。ということで今回から、エッセイの毎月最後の週でロック
への旅を行います。ロックがアルバム主体になっていくのは60年代の半ば頃からなので、
旅は曲を主体に行います。そしてロックだけではなく、周辺のポップス、ブルース、R&
B、ジャズ、ソウル・ミュージックも、必要に応じて取り上げてみたいと思っています。

さてロックへの旅を始める前にちょっと考えてみましょう。生誕50年といけれど、何をも
って”ロックの誕生”としているのか。これはやはり気になります。そこで調べてみまし
た。今年を生誕50周年としている理由は、1955年の夏のヒット曲にありました。ビル・ヘ
イリー&ヒズ・コメッツの《ロック・アラウンド・ザ・クロック》。1955年7月に、8週
間に渡って全米チャートのトップを独走したこの曲のヒットをもって、ロックの誕生およ
び生誕50周年としているのです。しかしもう少し調べてみると、少しとまどってしまう事
実にぶちあたりました。この曲がリリースされたのは、”1954年”の6月なのです。つま
り”ロックの誕生”の1年前には、実質的には”誕生”していたことになります。という
ことは今年は正確に言うとロック生誕50周年ではなくて、”ビル・ヘイリー&ヒズ・コメ
ッツの《ロック・アラウンド・ザ・クロック》のヒット”50周年ということになります。
なんかヘンなので、他にもいろいろと調べてみました。すると”ロック誕生”には、いろ
いろな説があるのです。まずはアメリカのロック雑誌ローリング・ストーン。この雑誌で
は、エルヴィス・プレスリーの正式な初レコーディング(1954年6月)を”ロック誕生”
としています。その他にも、オハイオ州クリーヴランドのDJアラン・フリードが、ラジ
オ番組「ムーンドッグ・ロックンロール・パーティ」を開始した日(1952年3月21日)と
する説や、それ以前の1940年代後半とする説もあります。曲単位で見ても、例えばエルヴ
ィスで有名な《ハウンド・ドッグ》のヒットは1953年4月で、歌ったのは”ビッグ・ママ
”・ソーントンという女性歌手なのです。リーバー&ストーラーの作った、あの同じ曲が
です。これらの諸説や事実が物語っていることは、”ロック誕生”ということを明確に規
定できる万人共通の事項は存在しないということです。
アラン・フリードの番組名でもわかるとおり、ビル・ヘイリーやエルヴィス以前にも”ロ
ックンロール”という”言葉”は存在しました。実際1949年に、ドールズ・ディケンスと
いう人が、そのものズバリの《ロック・アンド・ロール》という曲を録音しています。こ
れではどこか出発点を決めないかぎり、旅を始められそうにありません。個人的には、夢
中になったのはビートルズ以後のロックです。そしてそのビートルズのメンバーが10代に
夢中になったロックン・ロールは、50年代半ばのものです。それ以前の音楽にも、後のロ
ックン・ロールを連想させるリズムや歌いまわしは確かにあります。しかし、それらを”
ロックン・ロール”と呼べるのか、いまは明確な答えがだせません。やはり今回の旅は、
50年代から始めるのが良さそうです。エルヴィスの初レコーディングおよび《ロック・ア
ラウンド・ザ・クロック》が録音された1954年を起点としてみたいと思います。

ということで、今回はイントロダクションでした。次回から、実際に曲を聴いていきたい
と思います。