●ボブ・ディランの偉大な曲

アメリカの音楽雑誌「ローリング・ストーン」が”偉大な500曲”を発表し、先々週に
日本の大新聞でも社会面で取り上げられていた。栄誉ある第1位は、ボブ・ディランの《
ライク・ア・ローリング・ストーン》である。ちなみに2位から10位までの顔ぶれは、
ローリング・ストーンズの《サティスファクション》、ジョン・レノンの《イマジン》、
マーヴィン・ゲイの《ホワッツ・ゴーイン・オン》、アレサ・フランクリンの《リスペク
ト》、ビーチ・ボーイズの《グッド・ヴァイブレーション》、チャック・ベリーの《ジョ
ニー・B・グッド》、ビートルズの《ヘイ・ジュード》、ニルヴァーナの《スメルズ・ラ
イク・ティーン・スピリット》、レイ・チャールズの《ホワット・アイ・セイ》と続く。
このようなランキングというのは、みんなでワイワイ騒いで楽しむゲームのようなもので
《イマジン》より《サティスファクション》のほうが偉大な曲だということはもちろんな
い。雑誌名が1位と2位に大きく影響したとも考えられなくはないが、ディランのこの曲
が1位というのはそれはそれで頷けなくはない。ちなみにディランの曲は、この曲を入れ
て12曲がランク・アップされている。もっとも多くランク・アップされているのは、も
ちろんビートルズで、全部で23曲である。このランキング自体、分析してみるといろい
ろと面白いことがわかるが、今回は《ライク・ア・ローリング・ストーン》の話だ。
ローリング・ストーンズがついにカヴァーしてしまったこの曲のことを、最近ではストー
ンズの曲だと思っている若者もいるという。ストーンズがカヴァーしたことにより、より
ディランの本質があきらかになった気がしたものだ。つまり、ディランのロックは最高に
カッコイイということである。僕が初めて買ったディランのレコードが、『ハイウェイ・
61・リヴィジテッド』。このアルバムを買うくらいだから、当然ディランのことを単な
るフォーク歌手とはもう思っていなかった。でもやはりイメージの中では”フォーク歌手
”であり、僕は”いろいろなミュージシャン(ビートルズ、ストーンズ、ジミ・ヘン、ク
ラプトンなどなど)に大きな影響を与えたフォーク歌手が歌うロック”を聴きたくて、こ
の有名なアルバムを買ったのである。ちなみにディランを聴くのはそれが初めてではなく
、中学生のときにエア・チェックした渋谷陽一氏の「ヤング・ジョッキー」のロックの歴
史のテープには《サブタリニアン・ホームシック・ブルース》が入っていたし、ディラン
好きの友人の家でよくディランの初期のアルバムを聞かされたものだ。しかしビートルズ
やストーンズなどは良さをすぐに感じることができるのに、ディランはどーもよくわから
ないという日々が続いた。《サブタリニアン・ホームシック・ブルース》なんて、コード
進行とバックの演奏があっていない(実際にあっていないのだが)と感じたものだ。そう
いうヘンな演奏を平気で発表するディランが、よくわからなかったし、あまり好きになれ
なかったのだ。それでも「聴いてみたい」と思わせるなにか、というよりも「聴く必要が
あるのではないか」、「ディランがわからないのは自分自身の聴き方に原因があるのでは
ないか」と思わせるものが、ディランには濃厚に漂っている。そうでなければビートルズ
やストーンズや、ましてやジミ・ヘンまでが、大きな影響を受けるわけはないではないか
と思ったのだ。それが『ハイウェイ・61・リヴィジテッド』の購入に繋がるのだ。目的
はもちろんただ一つ。アルバムの冒頭を飾る《ライク・ア・ローリング・ストーン》を聴
くことである。
そして聴きました。結論を言えば、みごとに”ロック”だった。エレキ・ギターとベース
とドラムスが入ったバンド編成でレコーディングされているからではない。”ロック”だ
ったのは、ディランのヴォーカルだ。瞬間的に思ったのは、ミック・ジャガーよりもロッ
クじゃないかということである。6分を超えるこの曲のディランのヴォーカル・パフォー
マンスは、70年代パンクのボーカルなんて足元にも及ばないほど”ロック”なものだっ
たのである。なによりも、歌に”毒”があった。僕の中で匹敵しうるのは、ジョン・レノ
ンくらいだった。ショックだった。それまで持っていたディランのイメージが明らかに変
わった。
これでディランの全てがわかったわけではなかったが、この曲をキッカケにディランが少
しづつわかってくる気がした。少なくともディランのロックはカッコイイということが、
わかったのだ。それはバンド編成だからという単純な理由によるものではなく、後に聴く
『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』や《ジャスト・ライク・ウーマン》でも同
じことだった。僕にとって『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』は、もう
フォーク・サイドとロック・サイドではなくなっていた。僕にとっての《ライク・ア・ロ
ーリング・ストーン》という曲は、そのような曲だ。やはり偉大な曲である。
『 HIGHWAY 61 REVISITED 』 ( BOB DYLAN )
cover

1.Like A Rolling Stone, 2.Tombstone Blues,
3.It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry,
4.From A Buick 6, 5.Ballad Of A Thin Man
6.Queen Jane Approximately, 7.Highway 61 Revisited
8.Just Like Tom Thumb's Blues, 9.Desolation Row

BOB DYLAN(g,har,p,police car)
MICHAEL BLOOMFIELD(g),ALAN KOOPER(org,p),
PAUL GRIFFIN(p,org),HARVEY GOLDSTEIN(b),
BOBBY GREGG(ds), CHARLY McCOY(g), 
FRANK OWENS(p), RUSS SAVAKUS(b)
Producer : Tom Wilson《Like A Rolling Stone》 & Bob Johnston
Label : Columbia
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