●ブライアン・ウィルソンとスマイル(その2)

60年代のビーチ・ボーイズの幻の未発表アルバムといわれる『スマイル』が、ブライアン
・ウィルソンのニュー・アルバムとしてついに今月発売される。発表された曲目は、次の
とおりだ。
1.Our Prayer / Gee
2.Heroes and Villains
3.Roll Plymouth Rock
4.Barnyard
5.Old Master Painter / You Are My Sunshine
6.Cabin Essence
7.Wonderful
8.Song For Children
9.Child Is Father of the Man
10.Surf's Up
11.I'm In Great Shape / I Wanna Be Around / Workshop
12.Vega-Tables
13.On a Holiday
14.Wind Chimes
15.Mrs. O'Leary's Cow
16.In Blue Hawaii
17.Good Vibrations
このうち《アワー・プレイヤー》、《ヒーローズ・アンド・ヴィランズ》、《キャビン・
エッセンス》、《ワンダフル》、《サーフズ・アップ》、《ヴェガ・テーブルズ(ヴェジ
タブルズ)》、《ウィンド・チャイムズ》、そして《グッド・ヴァイブレーション》は、
独立したビーチ・ボーイズの曲として公式に発表されてきた。その他の曲も、《チャイル
ド・イズ・ザ・ファーザー・オブ・ザ・マン》など他の曲に組み込まれて発表されたもの
や、《ミセス・オリアリーズ・カウ》のように公式ビデオで聴ける作品もある。しかしこ
れまで公式に聴けたものが、ブライアンが望んだ最終的な形のものではないことは、ブラ
イアン自身がこれまでいろいろなインタビューなどであきらかにしている。例えば《ヒー
ローズ・アンド・ヴィランズ》はブライアンが望んだ最終的なものは7分を超える作品だ
ったと言われているが、公式に発表されたのは3分強の短縮ヴァージョンだった。その過
程で、失われたものも少なくないと想像する。
しかしこれまで公式CDや未発表ボーナス・トラック、あるいはブートレッグも含めて聴
くことができたこれらの『スマイル』絡みの音源は、ある種の共通した質感が存在してい
る。まずサウンドだ。非常に硬質で、冷たい感じがする。核となっているのは、ピアノや
ハプシコードといったキーボード類、アコースティックとエレクトリック両方のベース(
特にキャロル・ケイのピック奏法は、サウンド・カラーに大きな影響を及ぼしている)、
それにヴィブラフォーンである。《グッド・ヴァイブレーション》で味をしめたのか、チ
ェロもサウンド上の大きな役割を果している。これまでのビーチ・ボーイズのセッション
には欠かせなかった、ギター(例えばトミー・テデスコやグレン・キャンベル)の陰は薄
い。というか、殆どない。ブライアンの頭の中にあったサウンドは、もはやロック・ミュ
ージックの枠をとっくに超えていた。それはビーチ・ボーイズのサウンドからも大きくか
け離れたものであった。当時のブライアンは、ドラッグによる不安やプレッシャーと闘い
ながら『スマイル』のスタジオ・セッションを続けていたのだろう。誰かが、ブライアン
の創りだしている音楽の凄さを、少しでも理解してあげられたのならと思う。しかし音楽
は、『ペット・サウンズ』に続いてビーチ・ボーイズのメンバーから大きな反発をかった
のだと言われている。当時のブライアンが集中力を欠き、『スマイル』を途中で放り出し
てしまうことになったのも無理はないと思う。『スマイル』の音源が持っているサウンド
の質感には、ブライアンの疲労感と失意が見え隠れしている。