●ソウル・ミュージックの素晴らしさ4:JBはライヴ盤だ!

今回も前回に続き、”ゴッドファーザー・オブ・ソウル”と呼ばれるジェームス・ブラウ
ン(以下JBとする)の話である。2回連続で書くのは、前回だけでは僕のわかっている
JBの音楽について書ききれなかったからだ。前回書いたことの概要は、次のようなこと
である。ソウルとかブラック・ミュージックを語る上で避けてとおれないのがJBの音楽
だが、僕にはJBの音楽が”どこが凄い”のか”何が素晴らしい”のかが今ひとつわから
ない部分があった。そこでJBのヒット曲集を購入してわかったのは、JBがファンク・
ミュージックのパイオニアであることと、JBの音楽は”聴く”ものではなく”感じる”
ものであるということであるというのが前回の話だ。しかしまだJBへの謎はとけない。
前回書いた山下達郎氏の発言にある、”一番うまい男性ソウル・シンガー”という点につ
いてである。少なくともヒット曲集からは、この点が感じられないのである。

この達郎氏の発言を聞いて、大好きだったサム・クックやオーティス・レディングなどの
ほうが、JBよりも歌が上手いのではないかと僕は感じたのである。達郎氏も、世の中の
ご多分に漏れず、JBを持ち上げすぎているのではないのかと思ったりもした。しかし僕
自身がJBの全ての音源を聴いているわけでもなかったので、もう少しガマンしてJBを
聴いてみることにしたのである。ヒット曲集でJBがわかった気がしなかった僕は、趣向
を変えてライヴ・アルバムを購入した。その結果わかったのが、JBの本領はライヴ・ア
ルバムでこそ発揮されているのではないかということだった。一般にソウル・ミュージッ
クを楽しむには、そのグループや歌手のベスト盤を購入するのが良いとされている。ソウ
ル・ミュージックの名曲の殆どは、シングル盤によるヒット曲だからだ。しかしJBには
、この法則は当てはまらないのである。それは何故なのか。

JBはまだライヴ・アルバムというものが珍しかった時期に、自らのプロデュースでライ
ヴ・アルバムを制作している。特にアポロ劇場でのライヴ盤は有名だ。自ら制作した理由
は、自分の音楽をわかってもらうためにはライヴ盤を発表するのが一番とJB自身が考え
ていたためである。この点は重要だ。前回、JBのヒット曲はJBからのニュース・レタ
ーであると書いたが、JB自身も、シングル盤だけでは幅広い自分の音楽の全てを表現し
きれないディレンマを感じていたのであろう。おそらくJBは、自分の凄さをわかっても
らうためには、ライヴ・ステージになるべく近いものをアルバムで再現するのが相応しい
と考えていたのだろう。その理由というのは、JBという人が本質的にパフォーマーとい
うところにあるのだと思う。”芸人”と、言い換えても良い。そのように考えると、あの
有名なマント・ショーや、ダイナミックでパワフルなダンスにも合点がいくのである。

だいたい”芸人”でなければ、日本のCMで”ゲロッパ”と叫んだり、スマップと共演し
たり、《慎吾ママの’おはロック’》で”オハー”などと叫ぶはずがないではないか。確
か某TV局の「ものまね王座決定戦」で、グッチ祐三がJBのものまね(日本では一番上
手!)をしたときにも本人が後ろから登場したことがあったように記憶している。実際に
JBの影響というのは、マイルス・デイヴィスやプリンスといったミュージシャンのみで
なく、グッチ祐三をはじめとして志村けんやパパイヤ鈴木といったヴァラエティ系の人達
や、演歌の北島三郎にまで感じることができる。伊東四郎と小松政夫が昔やっていた”ず
んずんずんずん、ずんずんずんずん、小松の親分さん”というコントも、JBのマント・
ショーにヒントを得ているのではないかと思う。このような事象というのは、JBがエン
タテイナーであり本質的に”芸人”であると考えないと理解できないことである。

JBは、間違っても自分のことをアーティスト(芸術家)などとは思っていないだろう。
心底からエンタテイナーであるJBの真価というのは、ライヴ・アルバムでこそ発揮され
ているのである。ライヴ・アルバムを聴くと、JBのエンタテイナーとしての魅力、シン
グル盤だけでは味わえないJBの音楽が確かに見えてくるのである。僕のお薦めのライヴ
・アルバムは、1968年版のアポロ劇場でのライヴ盤『ライヴ・アット・ザ・アポロ』だ。
JBのアポロ劇場でのライヴは数枚あるのだが、この1968年版がベストだ。絶頂期のド真
ん中にいるJBの音楽性をたっぷり堪能できる。JBの全盛期は60年代中盤から70年代初
頭がなので、最も脂ののっている時期のライヴだ。このアルバムで、トニー・ベネットの
ヒット曲の《アイ・ワナ・ビー・アラウンド》やスロー・バラードの《プリズナー・オブ
・ラヴ》などを歌うJBを聴いて、僕ははじめて達郎氏の発言が理解できたのである。

アナログ盤は各サイドが見事な流れになっており、通して聴くと見事なシンガーでありエ
ンタテイナーであるJBのステージの全貌を堪能できるようになっている。とくにアナロ
グB面にあたる《レット・ユアセルフ・ゴー》から《コールド・スウェット》までのファ
ンキーな流れや、ヒット曲《マンズ・マンズ・ワールド》での客席との掛け合いが見事で
ある。両方ともファンキーかつソウルフルで、聴いているといてもたってもいられないよ
うな感じになってくる。とくに後者は、JBが持っている迫力とセクシーさがダイレクト
に伝わってくる。客席の女性達も、もの凄い騒ぎようである。この1枚のアルバム(アナ
ログ2枚組)が、僕のJBに対する認識を改めさせてくれたのである。JBはファンクだ
けではなくソウル・シンガーであり、それを最も感じさせてくれるのがこのライヴ・アル
バムなのである。結局僕は、JBの音楽についてわかっているのかな?
『 Live At The Apollo 』 ( JAMES BROWN )
cover

1.Introduction,2.Think,3.I Wanna Be Around,4.Thanks,5.That's Life,
6.Kansas City,7.Let Yourself Go,8.There Was a Time,9.I Feel All Right,
10.Cold Sweat,11.It Maybe the Last Time,12.I Got You (I Feel Good),
13.Prisoner of Love,14.Out of Sight,15.Try Me,16.Bring It Up,
17.It's a Man's Man's Man's World,18.Lost Someone,19.Please, Please, Please

JAMES BROWN(vo,key)
& THE FAMAOUS FLAMES
Label:Universal
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