●時代を超える独創的な音楽/セロニアス・モンク

音楽について何か意見を述べるときに、あるミュージシャンの作品や演奏について”オリ
ジナリティ”とか”個性”の有無が焦点となることがある。いろいろなミュージシャンの
作品や演奏を聴きこんでくれば、その人の持つ個性といったものも自然とわかるようにな
る。もちろん個性を感じる度合いは、そのミュージシャンの持つ個性の強さによって様々
である。しかし素晴らしいテクニックを持ったミュージシャンや本当に独創的なミュージ
シャンの場合は、他人の曲を演奏しても”その人”としかいいようのない強いオリジナリ
ティを演奏から感じる場合が多い。またその逆に他人がその人の作品を演奏した場合に、
作品そのものからその作曲者のオリジナリティを強く感じることもある。
セロニアス・モンク。1940年代から1970年代まで活躍した、ジャズ・ピアニストである。
この人ほど、作品や演奏から”オリジナリティ”を感じる人がいるだろうか。1984年にハ
ル・ウィルナーという人が制作した、モンクのトリビュート・アルバムがある。ギル・エ
ヴァンス、スティーヴ・レイシー、エルビン・ジョーンズなどのジャズ・ジャイアンツ、
トッド・ラングレン、ドクター・ジョン、ドナルド・フェイゲン、ピーター・フランプト
ンといったロック・フィールドの人達、更にはチャーリー・ラウズ、ジョニー・グリフィ
ン、フランキー・ダンロップなどモンクのグループのメンバーだった人達が様々な解釈で
モンクの曲を演奏するという企画アルバムなのだが、アルバムの全体像から立ち上ってく
るものは、正に”モンク”としかいいようのない独創的な音楽であった。ムーディーな解
釈(ジョー・ジャクソンなど)、ノイズ・ミュージックのような解釈(ショッカビリティ
やジョン・ゾーン)など、どのような解釈の演奏でも、その音楽はモンクの音楽としかい
いようのないものなのである。このアルバムが証明しているように、モンクの作る曲は誰
がどのように演奏しても”モンク的”な個性を持っているのである。昨今ではコンポーザ
ーとしての評価もすっかり定着した感のあるモンクだが、その音楽のオリジナリティが持
つ衝撃力はいまも失われていない。これは驚くべきことである。例えば先のハル・ウィル
ナーのアルバムで、トッド・ラングレンがオリジナルに忠実に”コンピュータ・ミュージ
ック”としてカヴァーした《フォア・イン・ワン》。ブルーノート・レーベルへのオリジ
ナル・レコーディングは1951年である。コード進行はよくあるタイプを少しひねった感じ
の曲だが、そこにつけられたメロディおよびメロディを彩るバッキングは”モンク”とし
かいいようがない。このような曲を作ってしまうことじたい、なんというか”爆笑もの”
である。人間、あまりに想像を超えたものに出会うと笑うしかないのである。《クリス・
クロス》という曲などは、”何故、このようなメロディの作品を作ったのか”頭の中を覗
いてみたいものだ。このようなオリジナリティ溢れるモンクの曲からは、モーツァルトの
作品のような躁的な印象を受けるのである。
そしてモンクの場合、作品だけでなく演奏もまた個性的だ。その個性的な演奏の代表とい
えば、《エピストロフィ》という曲に勝るものはない。この曲のメロディは、ブルース・
フィーリングただよう”ありがちな”メロディである。こちらの想像を超えるようなメロ
ディではない。しかしモンクのつけるピアノのバッキングは、異様というしかない。4拍
子にの2拍づつを3連符によってコード弾いているだけなのだが、聴いたときの異様な衝
撃力は初めて聴いたときと変わらない。なによりこのようなバッキングを考えつくところ
が凄い。この演奏以降、同じ事をやる人がいれば、それはモンクの物真似となってしまう
のである。しかしこのあまりの独創性ゆえに、モンクは仕事にあぶれてしまうこともあっ
たらしい。それでもモンクは、”いつも同じようなやり方で同じような演奏しかしないミ
ュージシャンに苛立ちを感じ”、”新しいものを創りだそうとする”ことを信条としてい
たという。「大衆の求めるものを演奏するのではなく、自分のやりたい音楽に何年かかっ
ても大衆の関心や興味を向けるようにしている」との発言からも伺えるように、モンクの
音楽的な信条はゆるぎないものであったようだ。
このようなモンクの世界へ足を踏み入れた人の誰もが驚くのが、いまやジャズメン・オリ
ジナルのスタンダードとなったモンクの独創的なオリジナル作品の多くが、初期のブルー
ノートへのレコーディングで発表されていることだろう。”同じような演奏”ではない”
新しいものを創りだそう”としていたモンクが、ひたすらピアノにむかいつつ作品を書き
溜めていたことは想像に難くない。それらの作品が、ブルーノートのレコーディングで一
気にはきだされたのだ。そのようなモンクの作品は、発表から50年以上たった現在でも斬
新さを失っていない。モンクの音楽は、誰にでも理解できる魅力を持っている。しかし真
のオリジナリティを持っているからこそ、すぐに全てを理解できてしまうような単純な音
楽でもないのである。モンクの音楽は、真の独創性に満ち溢れているのだ。
『GENIUS OF MODERN MUSIC VOL.1』 ( THELONIOUS MONK )
cover

1.'ROUND ABOUT MIDNIGHT,2.OFF MINOR,3.RUBY MY DEAR,4.I MEAN YOU,
5.APRIL IN PARIS,6.IN WALKED BUD,7.THELONIOUS,8.EPISTROPHY,
9.MISTERIOSO,10.WELL YOU NEEDN'T,11.INTROSPECTION,12.HUMPH

1,6
THELONIOUS MONK(p),GEORGE TAITT(tp),SAHIB SHIHAB(as),ROBERT PAIGE(b),
ART BLAKEY(ds)
Recorded:November 24, 1947
2,3,5,10
THELONIOUS MONK(p),GENE RAMEY(b),ART BLAKEY(ds)
Recorded:October 24, 1947
4,8,9
THELONIOUS MONK(p),MILT JACKSON(vib),JOHN SIMMONS(b),SHADOW WILSON(ds)
Recorded:July 2, 1948
11,12
THELONIOUS MONK(p),IDRESSE SULIMAN(tp),DANNY QUEBEC WEST(as),
BILLY SMITH(ts),GENE RAMEY(b),ART BLAKEY(ds)
Recorded:October 15, 1947

Producer:Alfred Lion
Label:Blue Note
『GENIUS OF MODERN MUSIC VOL.2』 ( THELONIOUS MONK )
cover

1.CAROLINA MOON,2.HORNIN' IN,3.SKIPPY,4.LET'S COOL ONE,
5.SUBURBAN EYES,6.EVONCE,7.STRAIGHT NO CHASER,8.FOUR IN ONE,
9.NICE WORK,10.MONK'S MOOD,11.WHO KNOWS,12.ASK ME NOW

1,2,3,4
THELONIOUS MONK(p),KENNY DORHAM(tp),LOU DONALDSON(as),LUCKY THOMPSON(ts),
NELSON BOYD(b),MAX ROACH(ds)
Recorded:May 30, 1952
5,6
THELONIOUS MONK(p),IDRESSE SULIMAN(tp),DANNY QUEBEC WEST(as),
BILLY SMITH(ts),GENE RAMEY(b),ART BLAKEY(ds)
Recorded:October 15, 1947
7,8,12
THELONIOUS MONK(p),SAHIB SHIHAB(as),MILT JACKSON(vib),
AL McKIBBON(b),ART BLAKEY(ds)
Recorded:July 23, 1951
9
THELONIOUS MONK(p),GENE RAMEY(b),ART BLAKEY(ds)
Recorded:October 24, 1947
10,11
THELONIOUS MONK(p),GEORGE TAITT(tp),SAHIB SHIHAB(as),ROBERT PAIGE(b),
ART BLAKEY(ds)
Recorded:November 24, 1947

Producer:Alfred Lion
Label:Blue Note
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