皆さんはオルガン・プレーヤーというと、まず誰が頭に浮かぶのだろう。ジャズに詳しい 人ならば、ジミー・スミスが浮かぶのだろうか。彼の演奏する《チャンプ》を初めて聴い たときには、物凄い衝撃を受けたものだ。ロックに詳しい人だと、やっぱりディープ・パ ープルのジョン・ロードだろうか。ナイス時代のキース・エマーソンも結構凄い演奏をし ていたっけ。スペンサー・デイヴィス・グループのスティーヴィー・ウィンウッドや、ア ル・クーパーなんかも忘れられない。またジェームズ・ブラウンやマイルス・デイヴィス の弾くオルガンも、その意外性もあって忘れがたいものである。でも”いかしたオルガン 弾き”の名前を一人だけ挙げろと言われたら、僕は躊躇なくこの人の名前を挙げる。 ジョージィ・フェイム。ロンドンのいかしたオルガン弾き。近年はヴァン・モリソンとの 活動で知られるジョージィだけど、何と言ってもカッコイイのは60年代初頭に放ったヒ ット曲だ。ジョージィは、もともとはピアノを弾いていたらしい。ファッツ・ドミノやジ ェリー・リー・ルイスが好きだったというから、なんとなくその頃のスタイルも想像がつ く。ミュージカルのオリバーで知られる作曲家のライオネル・バートに見出された彼は、 その後イギリスのロック歌手のビリー・フューリーのバック・バンドのブルー・フレイム ズを従え、ロンドンのクラブ・サーキットで腕を磨くことになる。ロック、ポップ。R& B、ジャズやジャマイカン・ビートまでが巧みにブレンドされたジョージィとブルー・フ レイムズの音楽は、瞬く間にロンドン中の人気となっていたのである。 この頃に、ハモンドB3オルガンに出会ったジョージィは、以後の自分のメイン楽器とし ていく。オルガンがメインとなった60年代初頭に録音されたジョージィとブルーフレイ ムズのサウンドは、たまらなくカッコイイのだ。音からこれだけ不良っぽさを感じさせる 音楽も珍しい。ジョージィ以外には、トム・ウェイツくらいしか思いつかない。ジョージ ィの音楽の”イキな”不良っぽさの前では、初期のローリング・ストーンズも大人しく聴 こえてしまう。パンク・ロックなんて、ガキの騒がしいだけの音楽になってしまうのだ。 めちゃめちゃ女にモテたのではないか、という気がしてしまう。そういう類の音楽だ。 この時代のジョージィは、20代の前半だったはずだ。レパートリーも、マーヴィン・ゲ イ、レイ・チャールズ、ブッカーT&MG’sなど、R&Bやソウルのカヴァーが多い。 なんといってもカッコイイのは、1966年の《スィート・シング》だ。80年代にブレ イクしたスタイル・カウンシルの、完全に20年先を行っていたサウンドだ。なおドラム スは、後にザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのメンバーになるミッチ・ミッ チェルである(クレジットでは、ジョン・ミッチェルとなっている)。同名アルバムがジ ョージィのブルー・フレイムズ時代のベストだと思うが、ジョージィをこれから聴いてみ ようという人は『20ビート・クラシックス』というベスト盤をお薦めする。先の《スィ ート・シング》はもちろんのこと、ジョージィとブルー・フレイムズが残した初期のアル バムからセレクトされた選曲が良い。《イェー・イェー》や《ゲットアウェイ》といった 、ジョージィのナンバー・ワン・ヒットも入っている。なんといっても、この時代はサウ ンドとヴォーカルに勢いがある。かと思えば、ジェームズ・ムーディーの《ムード・フォ ー・ラヴ》なんかで、文字通りムーディに決めてしまうのである。僕はこの”ジャジーで いい加減な感じの歌い方”が大好きなのだ。演奏と歌のテキトー感が、なんともいえない のである。ロック、R&B、ジャズが本当に自然にブレンドされているジョージィのカッ コ良すぎる不良サウンドを、ぜひ皆さん自身の耳で確かめて欲しい。