●ジェフ・ベックのカッコよすぎるギター・ミュージック

カッコイイ!!!、と思わず!を3つも打ち込んでしまうくらいカッコイイアルバムがジ
ェフ・ベックのおそらく最大の傑作『ワイアード』である。現在もギタリストとして孤高
の道を歩み続けるジェフだが、間違いなくこのアルバムがピークである。ギタリストとし
て”カッコイイ”と思えることを、このアルバムで全てやってしまっているのだ。その思
いっきりの良さが聴いている側にも伝わってきて、とても気持ちよいのだ。そういえば、
70年代のアイドルだった山口百恵も、朝起きたらこのアルバムを聴くと言っていたこと
を思い出す。

ジェフ・ベックがこのアルバムで狙ったのは、ブラック・ミュージックのファンキーなリ
ズムとテクニカルなジャズ・ロックのクロスオーヴァーだ。ジェフ・ベックはブラック・
ミュージックに、相当コンプレックスを持っていたのではないか。黒人2人を含む第二期
ジェフ・ベック・グループの音楽はコンプレックス丸出しのような感じだし、その後にヴ
ァニラ・ファッジのティム・ボガードとカーマイン・アピスと組んだベック、ボガード&
アピスでは、カーティス・メイフィールドやスティーヴィー・ワンダーなどのニュー・ソ
ウル・ナンバーをレパートリーにしていた。黒人のファンキーなリズムに自分のソリッド
なギターを載せたらどのようなサウンドになるのかを、ジェフは常に考えていたのだと思
う。

ちょうど同じ頃にロックの外側から、次々と衝撃的なサウンドが生まれてきた。後にクロ
スオーヴァーと呼ばれる、エレクトロニクスを取り入れ従来のジャズのフォーマットにこ
だわらない新しい感覚の音楽を演奏するバンドが次々と生まれた。なかでも衝撃的な早弾
きギターのアル・ディメオラが参加してからのチック・コリアのリターン・トゥ・フォー
エヴァーと、時代を切り刻んだギタリストのジョン・マクラフリンのマハヴィシュヌ・オ
ーケストラは、ロック・ファンからも大きく注目されていた。ジェフは間違いなく、これ
らの音楽に着目した。その後の行動が、それを証明している。ジェフは、リターン・トゥ
・フォーエヴァーのベーシストであるスタンリー・クラークのソロ・アルバム『ジャーニ
ー・トゥ・ラヴ』にゲスト参加する。ゲストで参加した《ハロー・ジェフ》という曲は、
そのままジェフのアルバムに収録されてもおかしくない出来映えだ。そしてついに、オー
ル・ギター・インストゥルメンタルのアルバム『ブロウ・バイ・ブロウ』を制作する。ジ
ェフはアルバムの出来映えに手ごたえを感じたと思うが、『ブロウ・バイ・ブロウ』はジ
ャズに色目を使いつつもまだロック色が強かった。そのためリズムをもっとファンキーに
して、よりインストゥルメンタル・ミュージックとして高度な音楽を制作することを目指
したのであろう。

『ブロウ・バイ・ブロウ』でやりきれなかったことは、次作『ワイアード』に結実する。
ジェフが集めたメンバーは、ファンク・ジャズを演奏していたウィルバー・バスコム、第
二期ジェフ・ベック・グループのキーボード奏者のマックス・ミドルトン、当時のマハヴ
ィシュヌ・オーケストラのドラマーで後にホィットニー・ヒューストン等で一流プロデュ
ーサーとなるナラーダ・マイケル・ウォルデン、同じくマハヴィシュヌ出身のギター・コ
ンプレックス・シンセサイザー奏者のヤン・ハマーだ。これらのコア・メンバーがアルバ
ムのために曲を書き下ろし、あのジョージ・マーティン(ビートルズのプロデューサーと
して有名だが、マハヴィシュヌ・オーケストラのプロデュースも行っている)が前作に引
き続きプロデュースを担当する。舞台は整った。ジェフは思うままに、ただ思いっきりギ
ターをプレイすれば良かったに違いない。それが、音楽にこれ以上はないくらいの爽快感
をもたらしたのであろう

爽快感だけではない。チャールス・ミンガスの名曲《グッドバイ・ポーク・パイ・ハット
》や《ラヴ・イズ・グリーン》に聴ける、ギタリストとしてのジェフの見事な情感。そし
て怒涛のクロスオーヴァーの《レッド・ブーツ》や《ブルー・ウィンド》のあっけにとら
れるようなカッコよさ。アルバムに収録された各曲の完成度の高さは、本当に見事としか
言いようがない。アルバムのベストは、ジェフの持つ情感とテクニカルな両方の面が上手
く出た《ソフィー》である。ヤン・ハマーとの掛け合いも見事だ。僕はこのアルバムを聴
くと血が騒ぎ、無性にこのような音楽を演奏したくなってくる。そんなカッコよすぎるギ
ター・ミュージックが、ジェフ・ベックの『ワイアード』だ。
『 Wired 』 ( JEFF BECK )
cover

1.Led Boots, 2.Come Dancing, 3.Goodbye Pork Pie Hat
4.Head For Backstage Pass,
5.Blue Wind, 6.Sophie, 7.Play With Me, 8.Love Is Green

JEFF BECK(elg,ag)
NARADA MAICHAEL WALDEN(ds,p),WILBUR BASCOMB(elb),
MAX MIDDLETON(elp,clavinette),JAN HAMMER(syn,ds),
ED GREEN(ds),RICHARD BAILEY(ds)

Recorded:Air Studios, London, Trident Studios, London,
         Cherokee Studios, Hollywood, California
Producer:George Martin except "Blue Wind" produced by Jan Hammer
Label:epic
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