●ナチュラル・ソウル/ルー・ドナルドソン

リズム&ブルース(以下、R&Bとする)とジャズとの境目というのは、明確であるよう
でいて極めて曖昧である。モダン・ジャズと呼ばれた音楽を演奏した多くのミュージシャ
ンが、若い頃R&Bバンドにいたという事実がそれを物語っている。例えばダイナ・ワシ
ントンは日本ではジャズ・ボーカリストとして知られているが、アメリカでは初期のR&
Bの代表的な歌手としても知られている。ジョン・コルトレーンのような”深刻ぶって聴
くジャズ”の代表のようなミュージシャンでさえ、R&Bバンド出身である。クリフォー
ド・ブラウンやオーネット・コールマンといったなんとなく意外な人も、R&Bバンド出
身だったりするのだ。このことからもわかるように、ジャズとR&Bの関係はとても興味
深いものがある。そもそもR&Bというのは、戦後のボーカル入りのブラック・ミュージ
ックの総称として使われていたらしく、その中にはブルースもジャズも含まれていた。そ
の中から個々の様々な要素が発展して、後のソウルやモダン・ジャズへと発展していった
と考えた方が良いのかも知れない。ダイナ・ワシントンもレイ・チャールズもジェームス
・ブラウンもホイットニー・ヒューストンも全て含んでしまうほど、R&Bという音楽は
幅広いものなのである。

”ジャズの宝庫”ともいえるアルフレッド・ライオンのブルーノート・レコードにも、R
&B色が濃い演奏を収録したアルバムは少なくない。なかでもR&Bチャートで成功した
ジミー・スミスのアルバムや、ギタリストのグラント・グリーン絡みの作品は忘れられな
い。そのような作品群が、ジミ・ヘンドリックスやブリティッシュ・ロック勢に及ぼした
影響を考えると面白いものがある(彼らの音楽からは、明らかな影響が聴き取れる)。そ
のようなブルーノートのアルバムの一つ、アルト・サックス奏者のルー・ドナルドソンの
『ナチュラル・ソウル』は、もろR&Bといっても過言ではない《ファンキー・ママ》が
収録された傑作である。ブルーノート後期にはジェームス・ブラウンの曲まで取り上げフ
ァンク化したドナルドソンであるが、その演奏の核にあるのは紛れも無くブルースだ。ブ
ルースが基盤となっている為、チャーリー・パーカーの後継者とまで言われたビ・バップ
のスタイルから、本作のようにファンキーなR&B、後のエレクトリックを取り入れたフ
ァンクまで、ドナルドソンのスタイルは一貫しているといえよう。

さてその《ファンキー・ママ》であるが、バックビートで”ドッド、ドッド、ドッド、ド
ッド”とくるファンキーなリズムの素晴らしさは、”ジャズは4ビートだ”と叫んでいる
人には絶対にわからないだろう。フィーチャーされるのは、アーシーでブットい音色を持
つギタリストのグラント・グリーンである。このグリーンの素晴らしいこと。テキサス・
ブルースの代表的なギタリストのクラレンス・ゲイトーマス・ブラウン(この人もデュー
ク・エリントンからジャンプ・ブルースといったものまで、何でもテキサス・スタイルで
料理してしまうギタリスト)といった人が、この曲を取り上げたのも理解できる。それく
らいファンキーでブルージーな演奏だ。作曲は、ブルーノート初登場のオルガン奏者のジ
ョン・パットン。パットンは、後にグリーンと素晴らしいアルバムをブルーノートに残す
ことになる。そしてアルバムのプロデュースは、もちろんアルフレッド・ライオン。アル
フレッドらしく、レコードのA面およびB面にあたる曲順もよく考えられている。A面の
ラストにあたる3曲目の《スペースマン・ツィスト》というドナルドソンの曲は、我が国
のステキなブルース・バンド「憂歌団」の名曲《パチンコ》を思わせるのが面白い。ラス
トの《ナイス’ン・グリージー》でのファンキーなドナルドソンとグリーンのフレーズも
素晴らしい。中間に配されたスロー・ナンバーでのドナルドソンの演奏もさすがである。

だがやはりこのアルバムは、《ファンキー・ママ》一発で決まりである。このような演奏
の前では、結局はR&Bだジャズだといったことはどうでも良くなってしまう。ひたすら
演奏に合わせてノリまくるのみだ。こんなグルーヴィーな演奏を、ライヴで聴いてみたか
ったなぁと思うのである。
『 The Natural Soul 』 ( LOU DONALDSON )
cover

1.Funky Mama, 2.Love Walked In, 3.Spaceman Twist,
4.Sow Belly Blues, 5.That's All, 6.Nice'n Greasy

LOU DONALDSON(as),TOMMY TURRENTINE(tp),
GRANT GREEN(elg),JOHN PATTON(org),BEN DIXSON(ds),

Recorded:May 9, 1962
Producer:Alfred Lion
Label:Blue Note
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