●グラント・グリーンの必殺ファンク・ライブ

グラント・グリーンほど、この20年ほどの間に評価が変わったギタリストもいないので
はないか。グリーン再評価のきっかけは、80年代後半のイギリスに発したクラブDJ達
によるファンク・ジャズの発見であろう。その一連のムーヴメントの中で、グラント・グ
リーンの音楽が再発見されたのである。つまり現在のグリーンの人気は、ジャズ・ギタリ
ストとしてのグリーンというよりも、ブルーノート後期のファンク化したグリーンの音楽
によるものと言える。80年代までは、雑誌などで取り上げられるジャズ・ギタリストと
いえば、ウェス・モンゴメリー、ケニー・バレル、ジム・ホール、ジョー・パスといった
人たちくらいで、グラント・グリーンの名前さえ聞かなかったものだ。どちらかというと
、ミュージシャンに好まれるタイプのミュージシャンなのかも知れない。おりしもその後
のクロスオーヴァー・フュージョン・ブームの華やかなギタリスト達の影で、グリーンの
名前は完全に忘れられようとしていた。したがって、ファンク・ジャズ・ムーヴメントに
よるグラント・グリーンの音楽再発見(再発見ではなく、文字どおり発見かも知れない)
は、とても喜ばしいことである。

グリーンの音楽というのは、ひとことで言うとアーシーだ。それは初リーダー・アルバム
の『グランツ・ファースト・スタンド』(傑作!)から変わらない要素である。サックス
奏者のルー・ドナルドソンによってブルーノート・レーベルのアルフレッド・ライオンに
紹介されたグリーンは、アルフレッドのプロデュースで次々とレコーディングを行う。そ
れはまるで、様々な音楽のフォームでグリーンの個性がどれだけ引き出せるのかを試して
いるのかのようだ。黒人霊歌を題材にした『フィーリン・ザ・スピリット』が一般にグリ
ーンの代表作とされるが、それはあくまでグリーンを”ジャズ・ギタリスト”としての観
点でしかみていないように感じる。僕に言わせれば、『グランツ・ファースト・スタンド
』のほうがずっとエキサイティングである。しかしグリーンが本当に凄くなるのは、ブル
ーノートを一旦離れた後で、1969年にまたブルーノートに復帰してからなのだ。

ブルーノートというレーベルは、”ファンキー”な曲を1曲アルバムに収録する(コマー
シャルな意味も含めて)ことが多かった。復帰後のグリーンのアルバムでは、時代性もあ
ってそれが顕著である。取り上げられている曲は、ミーターズやジェームス・ブラウンの
曲だ。そのようなファンキー路線のグリーンが大爆発するのが、1972年の傑作『ライブ・
アット・ザ・ライトハウス』である。通常のグリーンのバンド(ギター、サックス、オル
ガン、ドラムスという編成)にゲスト・ミュージシャンを加えた演奏は、もの凄いグルー
ヴ感だ。ゲスト・ミュージシャンは、ヴァイブのゲイリー・コールマン、クルセーダーズ
のベーシストのウィルトン・フェルダー、マーヴィン・ゲイの名盤『レッツ・ゲット・イ
ット・オン』等に参加しているパーカッションのボビー・ポーター・ホールである。この
7人編成によるバンドが、疾風怒涛のライブを繰り広げるのだ。

レパートリーも、ジュニア・ウォーカー&オールスターズの71年のヒット《ウォーク・
イン・ザ・ナイト》、ファビュラス・カウンツの69年のヒット《ジャン・ジャン》など
、ソウル・ナンバーが多く取り上げられている。なかでもスタイリスティックスのヒット
曲《ベッカ・バイ・ゴーリー・ウォウ》は、グリーンのベストプレイだ。次第に盛り上が
っていくバック演奏にのったグリーンのアーシーなプレイは、堪らなくカッコイイ。観客
の盛り上がりももの凄い。余談だが、後年ベーシストのマーカス・ミラーとサックスのデ
ヴィッド・サンボーンが『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』というスタジオ・ライブの名
盤を作るが、そのアルバムのタイトル曲はこのグリーンの演奏を元にしているのではない
か。演奏の構成や雰囲気が、よく似ているのである。

僕はこの演奏を聴いて、完全にグリーンの虜になってしまった。なぜこんなにもグリーン
の演奏が良いのだろうと考えてみたが、ぶっとくてアーシーなフレーズ(それはフュージ
ョン系のギタリストに多いトリッキーでメカニカルなフレーズとは対極にあるものだ)か
ら、”音楽を演奏する”という最も根本的なことが感じられるところだと思う。グリーン
が音楽を大事にプレイしているからこそノリやグルーヴが自然に生まれ、聴く側にもそれ
が快感となって伝わってくるのだろう。もっともっと聴きたくなるギタリストが、グラン
ト・グリーンなのである。
『 Live at the Lighthouse 』 ( GRANT GREEN )
cover

1.Introduction by Hank Stewart, 2.Windjammer
3.Betcha by Golly, Wow, 4.Fancy Free, 5.Flood in Franklin Park, 
6.Jan Jan, 7.Walk in the Night

GRANT GREEN(elg)
CLAUDE BARTEE(ss,ts),SHELTON LASTER(org),GREG WILLIAMS(ds),
WILTON FELDER(elb),GARY COLEMAN(vib),BOBBYE PORTER HALL(per)

Recorded:Apr 21, 1972 Live At The Light House, Hermosa Beach, California
Producer:George Butler
Label:Blue Note
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