●イーライと13番目の懺悔/ローラ・ニーロ

ポール・ゾロという人が書いた「インスピレーション」という本を読んでいる。全米ソン
グライター協会の機関紙「ソング・トーク」の編集者である著者が、様々なソングライタ
ーにインタビューしたものをまとめた本だ。インタビューの関心ごとは、登場するソング
ライターの創作についてである。このため、登場するソングライターそれぞれの創作の秘
密を垣間見るようで興味深い内容となっている。登場するソングライター達も、ピート・
シーガー、ボブ・ディラン、ポール・サイモン、ブライアン・ウィルソン、キャロル・キ
ング、バート・バカラック、フランク・ザッパなど、信じられないような豪華な顔ぶれが
揃っている。この中に、キャロル・キングとならぶ女性シングライターの草分け的な人物
、ローラ・ニーロのインタビューが載っていた。

ローラ・ニーロは1960年代末から活躍した、優れた女性ソングライターだ。その楽曲は、
ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ、フィフス・ディメンション、スリー・ドッ
グ・ナイトといった、同時代のミュージシャン達に数多くカバーされた。1997年に亡くな
ってしまったが、彼女の創った優れたアルバム群は、忘れがたい傑作として今も輝き続け
ているのである。なかでも初期の『イーライと13番目の懺悔』は、楽曲、サウンド、ボ
ーカルとも文句のつけようが無い大好きなアルバムだ。ローラのストレートなボーカルは
、聴く者全ての耳に表現したいものを伝えてくるはずである。とはいえ1960年代に生まれ
た僕は、同時代にローラを体験していない。ローラの音楽を聴くようになったのは、音楽
に興味を持ち始めた後である。一聴してすぐに感じたことは、高校生の頃から大好きだっ
た”吉田美奈子に似ている”ということだった。これは実は逆で、吉田美奈子のほうが大
きな影響を受けた側であることは言うまでもない(彼女は、昔”和製ローラ・ニーロ”と
呼ばれていたらしい)。

吉田美奈子だけではなく、ローラのアルバムから影響を受けた日本人ミュージシャンは多
いと思われ、山下達郎はこのアルバムのプロデューサー(元フォー・シーズンズのチャー
リー・カレロ)にデビュー・アルバムのプロデュースを依頼しているし、はっぴいえんど
関連の本にも細野晴臣がローラのアルバム『ゴナ・テイク・ア・ミラクル』を大事そうに
持っている写真が掲載されているのを見ることができる。現在から30年以上前の彼ら日本
人ミュージシャンを釘付けにしてしまったのが十分に理解できるほど、現在の耳で聴いて
も全然古臭さを感じさせない独創的な魅力を放っている。アルバムに収録された全ての曲
において、R&Bやソウルのテイストがたっぷりのサウンド、めまぐるしく変わる調性と
テンポ、駆け上がるようなローラのボーカルといった要素が一体となっており、本当に素
晴らしいとしかいいようがない。ローラが当時コンポーザーとして大きく注目され、この
アルバムからも数多くのカバーが生まれたこともよくわかる。彼女のスタイルは、1970年
代の終わりになってリッキー・リー・ジョーンズ(アルバムの解説を現長野県知事が書い
ていた、そういう時代だったなぁ)といったフォロワーを生み出していく。吉田美奈子や
リッキー・リー・ジョーンズが好きな人は、オリジナルであるローラのアルバムを聴けば
驚き、そして大好きになるはずである。好きな音楽のオリジナルを知るということは、新
たな出会いと感動を運んでくるかも知れないのである。

それにしても60年代というのは、なんとステキな時代だったのだろう。ローラ・ニーロは
確かモンタレー・ポップでもパフォーマンスを行っていたはずだ(ジミ・ヘン、オーティ
ス・レディング、ジャニス・ジョップリンなどの忘れがたいパフォーマンスが行われたあ
の年である)。そして”ロックの殿堂”フィルモアにおいては、われらが電化マイルスと
ステージを分け合っているのである。海外のローラのファン・サイトには、ローラのレコ
ーディングに訪れたマイルス・デイヴィスとローラの写真が掲載されている。マイルスの
電化攻撃を受けた後に聴くローラのステージとは、いったいどのようなものだったのだろ
うか。今度、マイルスの『フィルモア〜』を聴いたあとに、ローラのアルバムを続けて聴
いてみよう。もちろん、1960年代後半にフィルモアにいた観客の気分が味わえないことは
承知している。なぜなら、2つとも時代を超越した”本物の音楽”だからだ。
『 Eli and the Thirteenth Confession 』 ( LAURA NYRO )
cover

1.Luckie, 2.Lu, 3.Sweet Blindness, 4.Poverty Train, 5.Lonely Women
6.Eli's Coming, 7.Timer, 8.Stoned Soul Picnic, 9.Emmie
10.Woman's Blues, 11.Once It Was Alright Now (Farmer Joe)
12.December's Boudoir, 13.Confession
 
LAURA NYRO(vo,p)

Producer:Charlie Calello and Laura Nyro
Label:Columbia
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