●クリスマス・アルバム/ザ・ビーチ・ボーイズ

今年も師走となり、巷ではクリスマスのデコレーションなどがショー・ウィンドウなどを
飾る季節になった。そんな中、いつになく今年はビーチ・ボーイズの《リトル・セイント
・ニック》を聴く機会が多かったように思う。街を歩いていると店でかかっているラジオ
から聴こえてきたり、朝テレビを観ているとふとバックに流れたりすることが多かった。
”ウー、メーリークリスマス〜”と、あのブライアンのファルセットが思いもよらずに流
れてくると単純に嬉しくなる。ちょっと前までは、ジョン・レノンの《ハッピー・クリス
マス》が、ロック・ミュージシャン系クリスマス・ソングの定番だったが、やっと時代が
ビーチ・ボーイズを正等に評価し始めたようで素直に嬉しいのである。今までいろいろな
ところで辛い思いをしてきた、僕らビーチ・ボーイズ・ファンの悲しい性なのだ。
さて、この『クリスマス・アルバム』。前半はブライアン・ウィルソン書き下ろしのクリ
スマス・ソングが5曲、後半はディック・レイノルズ指揮の豪華なオーケストラにのせて
、ビーチ・ボーイズがクリスマス・ソングを歌いまくるという構成だ。プロデューサーは
もちろんブライアン本人である。冒頭の《リトル・セイント・ニック》、《ザ・マン・ウ
ィズ・オール・ザ・トイズ》は、マイクのボーカルとブライアンのファルセットが交錯す
る64年のビーチ・ボーイズの魅力が満載の名曲だ。繰り返すが、本当に名曲なのである。
次の《サンタ’ズ・ベアード》は、ジングル・ベルのメロディを取り入れた間奏のギター
がクリスマス気分を盛り立てる。ドゥ・ワップの影響が感じられる《メリー・クリスマス
・ベイビー》も楽しい佳曲だ。そしてアル・ジャーディンの初メイン・ボーカルの《クリ
スマス・ディ》。”これぞ、ポップス”というようなメロウなメロディは、ブライアンな
らではである。間奏のオルガンも堪らない。このような曲をたやすく書き下ろしてしまう
ところに、当時のブライアンの凄さを感じざる得ない。
後半のクリスマス・ソング集は、次のような選曲だ。《フロスティ・ザ・スノウマン》、
《三人の賢者》、《ブルー・クリスマス》、《サンタが街にやってくる》、《ホワイト・
クリスマス》、《お家でクリスマス》、《蛍の光》である。フォー・フレッシュメンを彷
彿とさせるコーラス・ワークが聴き物の《三人の賢者》や《お家でクリスマス》、ブライ
アンの物憂げなソロ・ボーカルで歌われる《ブルー・クリスマス》あたりが聴きどころか。
アレンジが秀逸な《フロスティ・ザ・スノウマン》も楽しい。そして最後はアカペラの《
蛍の光》にのせて、グループを代表してデニスが女の子の心をギュッと掴んで去っていく。
完璧である。ブライアン・ウィルソンの頭の中には、1年前にリリースされたフィル・ス
ペクターの『ア・クリスマス・ギフト・フォー・ユー』を超える作品を作ろうという気持
ちがあったであろう。その気持ちが、このアルバムをレコード会社の時期にあわせた単な
る企画盤を超えたものにしたことは間違いがないと思う。当時のブライアンの才能が、そ
れくらい迸るものであったことをこのアルバムは物語っているのだ。