●雑感:レット・イット・ビー…ネイキッド

ビートルズの”ニュー・アルバム”『レット・イット・ビー…ネイキッド』が発売されて
から1週間が経った。圧倒的な生々しいサウンド。スタジオに居て、眼の前でビートルズ
が演奏しているような臨場感。リミックスによってはっきりとした、それぞれの楽器のサ
ウンド。その全てが圧倒的な存在感を示しながら、僕の耳を捉えて離さない。もともと予
定されていたアルバム『ゲット・バック』ではミスもそのままに残すというコンセプトだ
ったらしいが、『…ネイキッド』では細かな演奏のミスなどは修正されているようだ。現
代の技術では、このような修正は簡単にできてしまう。でもこのようなことは、昔も今も
レコーディングの現場では日常的に行われていることなので、それ自体が音楽の価値を妨
げるものではないと考える。ベースになっているのはまぎれもなくビートルズ自身の演奏
が醸し出しているグルーヴなのだから、そのようなことをとやかく言う必要は無いのだ。
映画の「レット・イット・ビー」は監督のマイケル・リンゼイ・ホッグによって、バラバ
ラになっているビートルズ(ジョンおよびヨーコとポールの映し方を見れば監督の意図は
明白)を最初に映し出し、アップル・スタジオに移ってビリー・ブレストンが加わってか
らのグルーヴしだすビートルズ、アップル・スタジオとルーフ・トップでのクライマック
スで終わっているが、『…ネイキッド』を聴くと見事な彼らの一体感にビックリする。映
画が映し出した暗く陰鬱な雰囲気ばかりではなかったのだと、『…ネイキッド』は伝えて
いる。ビートルズは音楽で固く結ばれた友人や家族以上の関係だったから、その一体感は
他のグループでは決して味わうことができない。その一体感はまさしくロック・グループ
としてのもので、圧倒的である。曲順を整理したおかげで、より聴きやすく、また一体感
を感じやすくなっている。
そんな『…ネイキッド』だが不満点がないわけではない。いくつかの曲のフェイド・アウ
トだ。例えば《ゲット・バック》や《ワン・アフター・909》である。演奏の余韻が消
えてしまっている。アルバムとしての流れ(意図的に曲間も短くしたとある)を重視した
結果だろうが、少し早すぎる感がある。あとジャケットだ。ジャケットはオリジナルの『
レット・イット・ビー』のほうが、愛着があるせいもあるが、やはり優れている気がする。
ジョージの写真のみ変更されたのも本人の意向とのことだが、僕は『レット・イット・ビ
ー』の明るいジョージの表情のほうが好きだ。でもそんな些細な不満点を帳消しにしてし
まうほど、やはり『…ネイキッド』は素晴らしいと言わざる得ない。最後の《レット・イ
ット・ビー》のサウンドはどうだ。本当にこんな素晴らしいアンサンブルが鳴っていたの
だろうか。コラースのみオーヴァー・ダビングしたのではないのか。オルガンもコーラス
のような音を出しているが、信じられないアンサンブルである。このサウンドが鳴ってい
たのだとしたら、ポールやジョージ・マーティン(フィル・スペクターではないよ)はブ
ラス・セクションをオーヴァー・ダビングする必要などなかったのではないか。そんなこ
とをふと考えながら、今日もまた『…ネイキッド』を聴いてしまうのである。何回も繰り
返し聴かされてしまう魅力というものが、ビートルズの曲にはやはりあるのである。