●聴いた事がない人はすぐに聴こう/ヴァン・モリソン

まずは一番言いたいことを、先に言ってしまおう。
ヴァン・モリソンの『アストラル・ウィークス』を未聴の人は、すぐにCDを買って聴い
て欲しい!。僕はこのアルバムが大好きなのである。近年では、世間一般の評価も高くな
った。僕の持っているCDの解説(ピーター・バラカン氏)に、アメリカのロック雑誌「
ローリング・ストーン」が1987年におこなった過去20年間のポピュラー・アルバム
のベスト10が載っている。順位は次のとおりだ。

@ビートルズ『サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』
Aセックス・ピストルズ『ネヴァ−・マインド・ザ・ボロックス』
Bローリング・ストーンズ『エクサイル・オン・メイン・ストリート』
Cジョン・レノン『プラスティック・オノ・バンド』
Dジミ・ヘンドリックス『アー・ユー・エクスペリエンスト』
Eデヴィッド・ボウイ『ジギー・スターダスト』
Fヴァン・モリソン『アストラル・ウィークス』
Gブルース・スプリングスティーン『ボーン・トゥ・ラン』
Hビートルズ『ホワイト・アルバム』
Iマーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイング・オン』

『アストラル・ウィークス』は7位である。このアルバムを未聴の人も、上記のそれ以外
のアルバムやアーティストは聴いた事があるのではないか。つまりロックが好きな人で未
だ聴いたことが無い人は、人生で損をしている可能性もある(ホントですよ!)。

僕が初めて買ったのはいつだったか忘れたが、まだレコードの時代に輸入盤で購入した。
たぶんジャケットの雰囲気がよかったので、買ったのではなかったかと思う。でもその時
から、僕のフェバリット・アルバムだ。秋くらいになると、ごそごそと棚から取り出して
聴くことが多い。ジャケットおよび音楽が、なんとなく秋にぴったりの雰囲気のアルバム
だからである(実際にレコーディングされたのは夏だったらしいが・・・)。歌詞の意味
がよくわからなかったので、CDになってから日本盤も買いなおした。しかし日本盤でも
対訳も難しいらしく、解説にも”あくまでも大意として御参照ください”とある。ヴァン
・モリソンという人は詩人っぽいところがあり、歌詞が難しいのである。しかしそのよう
なことを感じさせないくらい、このアルバムの音楽は僕の感情に深く訴えかけてくるもの
だ。まずアコースティックなサウンドが素晴らしい。演奏しているのは、エルヴィン・ジ
ョーンズとの『ヘヴィ・サウンズ』の《サマータイム》の名演が忘れられないベースのリ
チャード・デイヴィス、ドラムはMJQのコニー・ケイである。これらのジャズ系のミュ
ージシャン達が、ヴァンの作った曲に合わせて非常に自由に演奏している。ヴァンは簡単
にミュージシャン達に自作の曲歌って聞かせた後、即興的に録音したのだという。その自
由なリラックスした雰囲気が、見事に音楽から伝わってくるのだ。そしてそこにラリー・
フェロンのアレンジしたストリングスやホーンが、ヴァンの作った音楽の世界をより美し
い形に拡大していく。その結果、ジャズでもフォークでもブルースでもない類稀な音楽が
誕生した。そのようなサウンドの上にのったヴァンのボーカルは、R&Bやブルースの影
響を感じさせるとてもエモーショナルなものである。ヴァンのボーカルも含めたアコース
ティックなサウンドに身を委ねていると、ただただ気持ちいい。こんなアルバムを196
8年に作ったヴァン・モリソンという人は、本当にユニークな人だと思う。60年代とい
う時代性を排除したがゆえに、このアルバムの音楽が永遠の普遍性を持ったことは確かだ。
素晴らしい音楽である。未聴の人は、CDショップに急ごう!