●ライヴ・アット・ネブワース1980/ザ・ビーチ・ボーイズ

ビーチ・ボーイズというバンドは、2つの側面を持っている。
一つはブライアン・ウィルソンを中心としたスタジオでの驚異的なサウンド・プロダクシ
ョンを誇るグループ、もう一つがマイク・ラヴを中心としたホットなライブ・バンドとし
ての側面だ。このアルバムはそのライブ・バンドとしての魅力が全開の、感動的な傑作ラ
イブ・アルバムだ。ところはイギリスのネブワースの野外フェスティバル。共演はサンタ
ナ、マイク・ブルームフィールドなど5グループ。我らがビーチ・ボーイズは、フェステ
ィバルの大トリである。ドラッグの問題等でビーチ・ボーイズのメンバーがライブで全員
顔を揃えることは稀だったらしいが、このときのパフォーマンスでは当事のビーチ・ボー
イズのメンバー全員(マイク、アル、カール、デニス、ブルース、そしてブライアン)が
顔を揃えている。マイク、カール、アル、ブルースだけでなく、ブライアンやデニスの声
が聞こえる。現在はマイクとブルースしか残っていない(ブライアン、アルはそれぞれ個
別に自己のグループで活動、カールとデニスは他界)ビーチ・ボーイズの現状を考えると
、様々な感慨深い思いが頭をよぎる。
冒頭の《カリフォルニア・ガールズ》から、あの特徴あるデニスのドラムのサウンドが鳴
り響き、会場全体が熱狂の渦に巻き込まれていく。この日のビーチ・ボーイズの演奏は、
物凄く気合が入っている。ライブという場で、メンバー自身がこんなに凄いコーラスと演
奏をこなせるグループが他にいるだろうか。そんな彼らのミュージシャン・シップが、聴
いているこちらにひしひしと伝わってくる。そのミュージシャン・シップを支えていたカ
ールがいなくなった現在、ビーチ・ボーイズのショウはオールディーズのパッケージ・シ
ョウに等しいものになってしまったらしい。そのようなショウの在り方に、カールと共に
ライブでのミュージシャン・シップを支えていたアルが反発して脱退してしまうのも当然
なのかなと思える。ライブのある部分主導権と魅力はマイクの力によることは間違いは無
いが、カールとアルのボーカルとコーラスと演奏がそれを補って余りあるものであったこ
とがこのアルバムでは手にとるようによくわかる。その代表的な例が、このアルバムの《
レディ・リンダ》だ。アル・ジャーディンが作った一世一代の名曲が、このネブワースで
はライブで演奏される。スタジオ盤の持っていたクオリティが維持できるのか、一瞬不安
が頭をよぎる。しかしアルが歌いだした瞬間、そんな心配は無用だったことがわかる。そ
して曲の終盤に、あの押し寄せる波のようなアカペラが歌われる。そのまま曲はいったん
終わるが、マジックが起こったことを感じたメンバーの誰かが「ワン・モア・タイム!」
と叫ぶ。それを受けてアカペラ部分が”最初よりもより完璧に”繰り替えされ、再び曲の
最後まで演奏されるのだ。聴いていて思わず鳥肌が立ってしまう、僕の大好きな瞬間だ。
このアルバムはブルースによって最小限のオーヴァー・ダビングが施されているらしいが
、それがリリースを目的とした補完的なものであろうことは想像できる。この日のビーチ
・ボーイズは、十分素晴らしかったのだ。《レディ・リンダ》のパフォーマンスが証明し
ている。カールやアルだけではない。ザ・フーのキース・ムーンに匹敵するような、デニ
スのパワフルなドラムと渋くせつない声も同様に素晴らしい。それらが揃うと、このライ
ブの時点でも15年以上もの古い曲が全く古臭さを感じさせなくなるから不思議だ。スタ
ジオ盤ではあまりぱっとしなかった《キーピン・ザ・サマー・アライヴ》や《スクール・
デイズ》といった曲も、魅力的なライブナンバーとして響いてくる。そしてブライアンが
作った珠玉の名曲のオン・パレード。アンコールの《グッド・ヴァイブレーション》では
4万人が大合唱を行い、怒涛の《バーバラ・アン》と《ファン・ファン・ファン》に突入
していく。会場全体の勢いもノリノリだ。本当にビーチ・ボーイズが、物凄いライブ・バ
ンドだったことがわかる。ブライアンの影は薄いが、ビーチ・ボーイズの凄さが垣間見え
る言う事なしのアルバムである。