●ビートルズの「最新作」?

この週末に、とんでもないニュースが飛び込んできた。ビートルズの14作目の発売!。
その名も『レット・イット・ビー…ネイキッド』。裸のレット・イット・ビーというわけ
だ。このアルバムは、なんでも『レット・イット・ビー』からオーケストラ、コーラスや
、サウンド・エフェクトなどをそぎ落とし、ビートルズの演奏の部分だけを残しリミック
スされているらしい。亡くなる前のジョージも発売を承認していたという、いわくつきの
ものだ。しかし、どこか複雑な気持ちになる自分がいるのはなぜだろう。

そもそも『レット・イット・ビー』というアルバムは、『ゲット・バック』というアルバ
ムとなるはずだった。『ホワイト・アルバム』のころから解散の兆しが見えていた彼らは
、新しい年(1969年)になって心機一転して新しいアルバムを作ろうとした。自分達4人
を結び付けていた、音楽を無心に演奏していた頃に帰ろう(原点に帰る)としたのだ。『
ゲット・バック』というタイトルは、そんな彼等の気持ちを表したものである。TVショ
ウの撮影も同時に行われ、素晴らしい年の初めになるはずだった。しかし結果は、もはや
彼等自身にさえどうすることも出来ないほど、バラバラになったビートルズを世間に曝け
出しただけとなった。そんな状態で録音された音楽が、最高のものとなるはずが無い。ビ
ートルズは『ゲット・バック』を棚上げし、自分達自身で有終の美を飾るべく『アビーロ
ード』を制作する。しかし恐らく映画(TVショウから映画となった)公開との関係があ
ったためであろう。最終的に『ゲット・バック』は『レット・イット・ビー』と形を変え
発売される。《アクロス・ザ・ユニバース》、《アイ・ミー・マイン》、《ザ・ロング・
アンド・ワインディング・ロード》には、フィル・スペクターによる華麗なストリングス
がオーヴァー・ダビングされる。ポールは、これを聞き激怒。このことは解散の一因とな
った。

そして今回は発売される『レット・イット・ビー…ネイキッド』では、それらのオーヴァ
ー・ダビングなしの当初ビートルズが意図したサウンドが最新技術でリミックスされ、ビ
ートルズがいかに素晴らしい演奏をしていたかが再確認できるということになっているら
しい。だが本当にそうなのだろうか。もともとフィル・スペクターによるオーヴァー・ダ
ビングは、ジョン、ジョージ、リンゴの依頼によるものだった。リンゴはオーヴァー・ダ
ビングセッションでドラムを叩き、ジョンはその結果に「フィルは、クズ同然だったもの
を聴けるものにしてくれた」とまで言っている。伝説では、ポールが「”彼等”が僕の曲
《ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード》を滅茶苦茶にした」と激怒したとなっ
ているが、ポールがいくら怒っても《ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード》の
音楽的な魅力というものは変わらないと思うのだ。《ザ・ロング・アンド・ワインディン
グ・ロード》という曲は、アレンジによって滅茶苦茶になってしまう程度の曲ではない。
当事のポールは、ビートルズからもアップルからも完全に孤立していた。ポールが激怒し
たのは、フィルによるアレンジの結果ではなく、ジョンとジョージとリンゴが自分に無断
でフィルによるオーヴァー・ダビングを許可したからだと僕は思う。したがって今回オー
ヴァー・ダビング無しの音源がリミックスで発売されるからといって、”本当はこんなに
素晴らしい曲だったんだ”というように大きく評価が変わるものではないと思うのだ。し
かもダビングなしの音源は、『アンソロジー』で既に公式に出ている。どこが「最新作」
?、と思うのである。これは”レノン=マッカートニー”を”マッカートニー=レノン”
と表記することに代表されるような、ここ近年続いているポールの横暴(に近いもの)で
はないのか。ついにはリンゴまで、「やっと君の言う事が正しかったんだと気がついたよ
」なんて言う始末。いくら元メンバーだからといって、既に終わってしまった歴史に何か
を加えるようなことはできないのではないかと思うのだ。ダビング抜きのサウンドという
ことは、ポール自身も係わった《レット・イット・ビー》もオーヴァー・ダブ無しのヴァ
ージョンで発表されるのであろうか。結果がどちらでも、ますますもって不思議で複雑な
気持ちになってしまう。だいたいビートルズ関連で”ネイキッド”っていうと、嫌でも《
レボリューションNo.9》のオノ・ヨーコの囁きを思い出してしまうではないか。もう
ちょっと気の利いたタイトルはなかったのか・・・。
でも結局は、買ってしまうんだよなぁ。アルバム&映画『レット・イット・ビー』制作時
の貴重な音源が収録された、20分ほどのボーナス・ディスクもついているというし。ブ
ートレッグ・レコードの『Kum Back』、『スィート・アップル・トラックス』、『ブラッ
ク・アルバム』(プリンスのじゃないよ)の時代から、それらの音源も散々聴いているの
だけど・・・。複雑な気持ちで、11月の発売を待ちたいと思う。