●サンフラワー/ザ・ビーチ・ボーイズ

”心機一転”。そんな言葉がピッタリくるビーチ・ボーイズの傑作アルバムが、このワー
ナー移籍第一弾となった『サンフラワー』である。明るい雰囲気のアルバム・ジャケット
には、キャピトル時代の最後のアルバム『20/20』のジャケットで姿を消していたブ
ライアン・ウィルソンの姿がある。これだけで、まず泣ける人は泣ける。ビーチ・ボーイ
ズの全盛期のサウンド・プロダクションを一人で支えてきたブライアンは、壮大なテーマ
をもった未発表アルバム『スマイル』の失敗と共に引きこもってしまった。その間に、カ
ールを中心に、ビーチ・ボーイズは団結して頑張る。結果としてカールのボーカリストと
しての実力、デニスの創造力、ブルースの発言が増し、その力がこのアルバムに結実して
いるのだ。マイクが大人しいのは、瞑想(TM)に熱中していたためか。いずれにしても
、ここではそれも”吉”と出ている。

『サンフラワー』が傑作といわれるのは、全体的に出来の良い曲が多いからであろう。し
かし往年のビーチ・ボーイズらしさがいっぱいのアルバムかと言われると、必ずしもそう
ではない。ビーチ・ボーイズの世界を広げようとしたブルースやデニスの曲は、アルバム
の中の傑作とは言われても、ビーチ・ボーイズの代表曲と言われることはないだろう。し
かし、それらの曲がバランスよく周到に収められることによって、総体としてのビーチ・
ボーイズの力を見事に示すことができた。そこには、もはや”夏のサウンド・トラック”
としてのビーチ・ボーイズは存在していない。このアルバムを聴いて僕が強く感じるのは
、”いい曲を届けたい”という彼らのミュージシャン・シップのようなものだ。6人のビ
ーチ・ボーイズの全員(特にカール、アル、ブルース、デニス)がそのようなミュージシ
ャン・シップのもとで頑張ったからこそ、このアルバムはビーチ・ボーイズの傑作となっ
た。カール、アル、ブルース、デニスのコーラス・ワークが、このアルバムをビーチ・ボ
ーイズのアルバムにしているのだ。そんなミュージシャン・シップにのせられたのかブラ
イアンも久々に頑張り、TMにどっぷりつかった愛に満ち溢れたマイクもコーラスの底辺
を支えている。その6人のミュージシャン・シップが全ての曲に振りかけられたからこそ
、このアルバムはビーチ・ボーイズの傑作となったのである。そしてこのアルバムには、
ミュージシャン・シップが結実した本当のビーチ・ボーイズの代表曲といえる曲が1曲収
録されている。その1曲《アッド・サム・ミュージック・トゥ・ユア・デイ》は、やはり
このアルバムでは群を抜いた素晴らしさだ(ブライアンがソロで奇跡の初来日をしたとき
に、会場でこの曲のイントロが流れてきた瞬間は感動で胸がいっぱいだったなぁ)。
デニスの《フォーエバー》やブルースの《ディードリ》も確かに名曲・名演である。ブラ
イアン久々の快作、《ディス・ホウル・ワールド》も本当に素晴らしい。でもビーチ・ボ
ーイズ全員が交代で歌う《アッド・サム・ミュージック・トゥ・ユア・デイ》を聴いたと
きが、”これこそビーチ・ボーイズ”という至福感に満たされる。ビーチ・ボーイズなら
ではの芳醇なコーラスにのせて、最初はマイク、ブルースと順番に歌い継がれていく。
そしてサビの”ミュージーック”で、ブライアンが出てくる素晴らしさ(カールではなく
て、ブライアンだと信じる)。この部分の歌詞が、”ここはブライアンが歌うしかないで
しょ”という泣ける歌詞なのだ。そして続けてデニスが、”一日が終わろうとするとき、
僕は静かに眼を閉じる”と胸を締めつけるあの堪らないしわがれ声で続ける。このブライ
アン〜デニスの流れが、このアルバムのみならずビーチ・ボーイズ全録音でもハイライト
なのではないか。そしてカール、アル、ブルースと歌い継がれて曲は終わる。機会があれ
ば、一度ヘッドフォーンでこの曲を聴いてみてほしい。その素晴らしいコーラスワークに
、圧倒されることは間違いない。
余談として、この曲のボーカルに関する話がある。この曲のボーカルの順番(および誰が
歌っているか)は諸説ある。CDの解説とは異なっているが、僕は上記の順番だと思う。
そんなことを考えながら聴くのも面白いかも知れないが、重要なことは6人全員で順番に
歌っていることだ。誰が歌っているかわからなくなるほど、この曲でのビーチ・ボーイズ
は一体となっており、かつ気合いが入っている。『サンフラワー』というアルバムは、こ
のようなビーチ・ボーイズの溢れるミュージシャン・シップを聴くアルバムなのだ。