●こんな凄いバンドがあった/ウェザー・リポート

時は遡って1978年。流行していた音楽といえば、《サタデー・ナイト・フィーバー》とか
、アース・ウィンド・アンド・ファイアーなんかによるいわゆるディスコ音楽。ロックの
世界では、キッスやエアロスミスといったハード・ロック系や、あの『ホテル・カリフォ
ルニア』の大ヒットによるイーグルスやドゥービー・ブラザーズなどのウエスト・コース
ト系ロックが華やかだった。一方ジャズの世界でも、渡辺貞夫の『カリフォルニア・シャ
ワー』の大ヒットによりクロスオーヴァー(後にフュージョンと呼ばれる)系の音楽に注
目が集まっていた。そんな時代に、今でも忘れて欲しくない凄いバンドがあった。それが
ウェザー・リポートだ。
このバンドの存在を初めて知ったのが、ちょうどこの頃。僕は当時、まだ高校1年生。友
人のトランペッターの紹介でジャズを聴き始めて、まだ少ししか経っていなかった。当時
テレビの12chで、日曜日の朝に海外のロック系の映像を紹介する番組があった(カリフ
ォルニア・ジャムなんかも、この番組で観た記憶がある)。その中に、ロック系のバンド
に混じって、ウェザー・リポートが出たのだ。ジョー・ザヴィヌル、ウエイン・ショータ
ー、ジャコ・パストリアス、アレックス・アクーニャの4人編成だった。いわゆるジャズ
でもロックでも無いこのバンドの音楽の印象は、”不思議???な音楽”というのがピッ
タリだった。最初にわけもわからず買ったのが、『テール・スピニン』というアルバム。
今から思えば、『ブラック・マーケット』や『ヘビー・ウェザー』も出ていたというのに
、ジャコ参加前のアルバムを買ってしまったことになる。それでも十分に、その”不思議
???な音楽”が素晴らしいものであることは伝わってきた。その当時のウェザー・リポ
ートの音楽は現在進行形でどんどん進化しており、ジャズのこれからを担うバンドとして
音楽業界の期待と注目度も高かった(そのような役割だったマイルス・デイヴィスが引退
中だったことと、イエロー・マジック・オーケストラやディーヴォなどによるシンセサイ
ザーを使用したバンドへの注目もあったと思える)。アルバムが1枚発売される度に、音
楽雑誌は大騒ぎだったのだ。けれどその騒ぎも十分理解できるほど、ウェザー・リポート
の音楽は今聴いても凄い。
このバンドをまだ聴いた事のない人にアルバムを1枚お薦めするとすれば、大作の『8:
30』だ。このアルバムを薦めるのは、次のような理由である。まず、メンバーが絶頂期
の4名(キーボードのザヴィヌル、サックスのショーター、驚異的なベースのジャコ、ド
ラムスのピーター・アースキン)である。そしてこの4名のバランスが良い。ザヴィヌル
も出すぎず、ショーターやピーターの凄さもわかりやすい。ジャコのオリジナリティと凄
さのみ、他の3名より突出してしまうのはやはりしょうがないと言える。また曲目が、初
期を除いてそれまでのベスト・オブ・ウェザー・リポートともいえる点である。彼らの代
表曲である《バードランド》(ザヴィヌル自身が、これが最高のヴァージョンと言ってい
る)や《ブラック・マーケット》が聴ける。そしてライブ録音なので、彼等の演奏のダイ
ナミックな凄まじさがよく伝わってくる。残念なのは、ジャコのステージ・アクションが
観れないことくらいか。このアルバムでも、ジャコは本当に凄い。先の代表曲や、自作の
《ティーン・タウン》、《ブギー・ウギー・ワルツ》などのベースは驚異的である。僕も
当時ベースを弾いていたので、もの凄くショックを受けたのをいまでも思い出す。
ウェザー・リポートの音楽は、まだ語られつくされていない。どうやってあのような不思
議なメロディ・ライン(ソロも含む)を考えつくのか、まったくもって不思議である。ジ
ャズでもロックでもない、ユニヴァーサルな音楽としかいいようの無い音楽である。それ
でいて少人数でやっているとは思えないほどの、シンフォニックなサウンドカラーなのだ。
ウェザー・リポートを聴いた事の無い人は、ぜひ『8:30』でその魅力に触れてみて欲
しい。その前後や周辺のアルバムには、素晴らしい音楽が連なっている。かくいう僕自身
も、未だその音楽の秘密を探る探求者の一人なのだ。