●トリビュート・トゥ・ブライアン・ウィルソン

DVDプレーヤーを遅まきながら買ったので、最近はDVDを買うことが多くなった。
今回購入したのは、『トリビュート・トゥ・ブライアン・ウィルソン』という作品だ。
2001年3月29日にニューヨークで開催された、オールスターによるブライアン・
ウィルソンのトリビュート・コンサートを収録したものである。90年代からCDを中
心としたこの手の”トリビュート”ものというのが増えてきたが、ついにブライアン・
ウィルソンものの登場ということで期待して観た。出演者はポール・サイモン、ビリー
・ジョエル、デヴィッド・クロスビー、カーリー・サイモン、エルトン・ジョンなどの
大御所からリッキー・マーティンといった最近のスターまで幅広い顔ぶれだ。否が応で
も期待は高まったが、はっきり言って良くなかった。なぜ良くないのか考えてみたが、
全員がほぼ原曲どおりのアレンジで歌っていることが原因なのだと思う。原曲どおりの
アレンジで歌えば、どうしてもオリジナルのビーチ・ボーイズのパフォーマンスと比較
してしまう。結局は、「ビーチ・ボーイズは本当に上手かったのだなぁ」という感想に
到ってしまうというわけである。類似のイベントに、ボブ・ディランの30周年記念コ
ンサートがあった。そのディランのコンサートは良かった。ディランのコンサートの場
合は、出演者が独自の解釈でディランの様々な曲を演奏することで、結果としてコンサ
ートそのものがディランの原曲が持つメロディの魅力やスケールの大きさを表現してい
た。ブライアンのコンサートの出演者からは、当然ブライアンに対するリスペクトの気
持ちは感じられるものの、ブライアンのバンドによるオリジナルに準じた演奏によるパ
フォーマンスにのせた歌のために、結果として曲そのものの良さ以外のものが伝わって
こないのだ。これでは何となく不満が残ってしまう。

しかし感動は最後にやってくる。それは、”怪優”デニス・ホッパーによるブライアン
の数奇に満ちた人生のビデオが紹介された後に演じられる、ブライアン本人のパフォー
マンスだ。まずは《英雄と悪漢》である。ボックスセットの『グッド・バイブレーショ
ンズ・サーティー・イヤーズ・オブ・ザ・ビーチ・ボーイズ』で初めて紹介された、《
英雄と悪漢》のシーケンスのアカペラで終わるのが嬉しい。そしてエルトン・ジョンと
の《素敵じゃないか》、ベースを持ちながらの《バーバラ・アン》と《ファン・ファン
・ファン》が続く。パフォーマンスそのものは、生気に満ちているとは言い難い。なに
よりブライアンの表情が乏しいので、言い方は悪いがSF映画のロボットを見ているよ
うな気もしてくる。しかしブライアンのボーカルと、《英雄と悪漢》や《素敵じゃない
か》といった曲そのものが持つ本物の音楽の力が、そういった思いを帳消しにするばか
りか、最終的には感動を運んでくるのだ。ここにマイク、アル、ブルースがそろってい
れば、さらにはデニスとカールがいればという思いが頭をよぎる。そして最後の、《ラ
ヴ・アンド・マーシー》で感動は頂点に達する。数年前のソロでの初来日のとき、東京
国際フォーラムで最後に演奏されたあの時と同じように、それまで楽しんで踊っていた
身体は止まり胸が熱くなる。そしてなんともいえない暖かい気持ちに包まれるのだ。現
在、音楽からそんな感動を与えてくれる人は、僕の場合はブライアン・ウィルソンしか
いないのである。