●ニュー・オーリンズ音楽の強烈なリズム

現代ニュー・オーリンズの音楽の特徴は、なんといってもその強烈なシンコベイションに
ある。最近、多様な音楽の優れた特集を放送しているフジテレビのルーツ・オブ・ミュー
ジックという番組で取り上げられたニュー・オーリンズの音楽を聴いて、その強烈なリズ
ムに改めて驚いた。その複雑なリズムに明らかに影響していると思われるのは、次の3つ
の要素と言われる。西アフリカの奴隷達にそのルーツが遡るであろうアフリカン・ビート
、植民地支配を行ったヨーロッパの人々がもたらしたブラスバンド、そして眼の前に広が
るカリブ海の向こうのカリビアン・ミュージックである。この3つの要素が、現在のニュ
ー・オーリンズのあらゆる音楽に見出せるのである。

番組では、ルイ・アームストロングに代表されるニュー・オーリンズ・ジャズを現代に受
け継ぐカーミット・ラフィンズ、トレメ(アメリカで最も殺人事件が多いといわれる町)
のブラスバンド野郎ジェームズ・アンドリュース、マルディ・グラの伝統的なインディア
ン・チャントとファンクを合体させたボ・ドリスとワイルド・マグノリアス、プロデュー
サーとして有名なアラン・トゥーサン、ニュー・オーリンズ・ファンクを確立したミータ
ーズやネヴィル・ブラザーズで活躍したシリル・ネヴィルなどの人達が登場したが、彼ら
の音楽には必ず上記の要素を見出すことができるのだ。

そのような多様な音楽の要素が絡み合って、あの独特なニュー・オーリンズ・ビートとで
も言うべきな強烈なリズムが作り出されるのだろう。そのリズムの強烈さは、身体が勝手
に反応してくるほどである。ニュー・オーリンズというと、ニュー・オーリンズ・ジャズ
や、それをベースにしたマーチング・バンドの印象しかなかったが、この番組を見て考え
を改めなければならないなと思った。現代のニュー・オーリンズを代表するジェームズ・
アンドリュースのブラスバンドでさえ、ディズニーランドなんかで見られる”古きよき”
マーチング・バンドのリズムとは全く異なっているのである。

番組では7年前に日本から移住したギタリストの山岸潤史も登場したが、彼が日本で築き
上げた自分の経歴を全て捨ててまでこの地に移住した気持ちも解る気がする。それほど、
16ビートのシンコベーションを基調にした現代のニュー・オーリンズ音楽は、本当に強烈
だ。番組に欲を言わしてもらえば、ファッツ・ドミノに代表されるニュー・オーリンズの
R&Bにも触れて欲しかった。それらの紹介があれば、番組の中の「ニュー・オーリンズ
の音楽が無ければ、ビートルズもストーンズも存在しなかった」という発言の意味がより
深くなっただろう。