●魔法のアレンジ/ザ・バーズ

ザ・バーズを初めて意識したのは《ターン・ターン・ターン》だ。バーズというと数多い
ディラン’ズ・チルドレンとして有名だが、このピート・シーガーの曲をここまで哀感漂
うポップにしたアレンジにびっくりしたのだ。トレードマークの12弦ギターの音にのせ
たかろやかなコーラスに始り、テンポが速くなって様々な”a time to 〜”がユニゾンで
繰り返され、最後の旋律でテンポがオフになると共にハーモニーが分かれる。このパター
ンが繰り返されるだけの曲だが、最後のハーモニーの瞬間がたまらないのである。僕には
それが、”めくるめく青春時代の一瞬の不安感”を切り取ったように聴こえる(同じよう
に僕が感じる曲としては、サイモン&ガーファンクルの《アメリカ》やジョニ・ミッチェ
ルの《サークル・ゲーム》がある)。ポップスの魔法がはたらいた瞬間である。

バーズの魔法は、ボブ・ディランの曲からも新たな魅力を引き出している。彼らのデビュ
ー・シングルとなった《ミスター・タンブリンマン》の録音時のインサイドストーリーを
読むと、意外や最初のアレンジはプロデューサーのお気に召さなかったらしい。《ミスタ
ー・タンブリンマン》は、フィル・スペクターやビーチ・ボーイズのレコーディングで有
名なロサンゼルスのセッションマンを使ってレコーディングされている。プロデューサー
には気に入ってもらえなくても、このシングルヒットは”こういうようにアレンジすれば
いいんだ”という確信をバーズに与えたに違いない。以降の彼等は果敢にディランの曲に
挑み、魅力的なディランのカヴァーを作り出していく。バーズのカヴァーしたディランの
曲は、今日では『ザ・バーズ・プレイズ・ディラン』というコンピレーションアルバムと
してまとめられている(彼らがディランのレパートリーから選んだ曲も注目に値する!)。
なかでも素晴らしいのが、”I'm younger than that now”という永遠のフレーズを持つ
《マイ・バック・ペイジス》だ。バーズは、ディランの4枚目のオリジナルアルバム『ア
ナザーサイド・オブ・ボブ・ディラン』にひっそりと収録されていたこの名曲を取り上げ
、ディランのオリジナルのコード進行とテンポを変えてこの傑作を作り出した。なかでも
間奏の12弦ギターのフレーズがたまらない。ピアニストのキース・ジャレットが、『サ
ムウェア・ビフォー』というアルバムでこのバーズのバージョンを元にしたと思われる《
マイ・バック・ペイジス》をカバーしている。キースがこのバーズのバージョンの間奏の
フレーズに、”おそろしくインスパイアされた”であろうことは想像に難くない。まるで
キースがピアノで奏でるような、透明で哀感あふれるたまらないフレーズだからだ。バー
ズのアレンジは、曲そのものに永遠の生命を吹き込んでいる。