●超歌唱家/巻上公一氏

梅雨入りしてどんよりとした曇り空の続く今日この頃ですが、皆さんお元気でお過ごしで
すか。巷ではワールドカップの日本の活躍の話でもちきりですが、このまま優勝まで突き
進んで、ちかごろ元気の無かった日本に希望を与えてほしいですね。サッカー観戦でアド
レナリンを分泌させたあとは、音楽でもアドレナリンを分泌させてみましょう。

さて最近の話題ですが、たまたま巻上公一氏の「声帯から極楽」という本(表紙は、氏が
おそらくホーメイを歌っているところ)を読んでいたところに、今日のNHKテレビで彼
が出演していたので少し紹介してみたいと思います。巻上公一氏は、<ヒカシュー>とい
うバンドのボーカルをやっている人です。たまたま80年代のテクノポップブームの頃の
デビューなので、そういったパブリック・イメージの強い人です。もともと演劇をやって
いたそうで、パフォーマンス色の強かったデビュー当時のボーカルは結構印象が強いもの
でした。TOTOのウォシュレットが出始めの頃に、<おしりをキレイに洗ってサァ〜>
というCMソングを歌っていたのが確か巻上さんです(これも結構、インパクトが強かっ
た)。そんな彼の名前が即興音楽の世界で聞かれるようになったのは、90年代になって
からのようです。はっきりと書けないのは、その経過の彼の音楽を、僕が聴いていないた
めです。彼の本に、イギリスの即興音楽のカリスマであるデレク・ベイリーや、新しいフ
リー・ミュージックを創造したジョン・ゾーンの名前を見るに付け、”これは読まなあか
ん”と直感して読んでいたわけです。そのジャンルを超えた活動の体験からくる巻上さん
の発言には、共感したり、今後の音楽制作において参考になる意見がたくさんありました。
自分の身体が感じるビートやフィーリングを大切にする音楽や、ゲーム理論によるフリー
・ミュージックであるジョン・ゾーンの<コブラ>の紹介、イディッシュ語の大衆歌であ
るクレズマー・ミュージック、ホーメイの中にある純粋な音楽の魂の話、商業主義で売れ
るものは物凄い枚数が出るがその文化的な波及力は乏しく、200万枚売れた曲でも殆ど
の人が知らない異常な日本の状況のことなどの話です。実際の活動の中で生まれた発言な
ので、重みが違います。しかし本自体は重たい文章ではなく、紀行文のようなさらっと爽
やかな後味が残るのはなぜでしょう。おそらく巻上さんが本当に自由な感性で、音楽と接
しているからでしょう。

「音楽にプロフェッショナルもアマチュアもない。音楽家という職業があるにすぎない。
プロフェッショナルになるとは、服を小綺麗に着るようなものだ。<中略>装いが小綺麗
なだけのプロフェッショナルにはなりたくない。耳を澄ましたくなるような、場を極楽に
変えるような、脳内麻薬あふれるような、それでいて思考を促すような、陶酔と覚醒のア
ンビバレンツを持つ音楽をやりたい」

上記ような氏の発言は僕が昔から考えていることと殆ど同じで、世の中には同じような考
え方をする人がいるのだなと少し安心したりなんかしています。先のテレビ番組(「課外
授業ようこそ先輩」という番組で、有名人が母校の後輩に自分の体験にもとづいた授業を
行うもの)では、小学6年生を相手にコブラ理論にヒントを得たと思われる即興の合唱を
行い、見事に指揮をしていました。そんな即興演奏家としての氏の活動は、昨今では海外
でも注目を集めているようです。

売れている音楽だけが、あなたにとって良い音楽とは限らないのです。ちょっと手を広げ
てみれば、今まで体験しなかった不思議な音楽の世界が確実に存在しているのです。即興
音楽について、このところ続けざまに書いてしまっていますね。つまり、もう既に時は遅
し。魔法にかかってしまっているというわけです。

では、また。