●スタン・ゲッツのボサノヴァ

だんだんと夏の気配が近づいてきましたが、皆さん、お元気でお過ごしですか。近頃は半
そでで十分な日も多く、ビールが一段と美味しいですね。日差しのやわらかなカフェで、
のんびりとした昼下がりに通りを眺めながら飲む一杯のビールのたまらないこと!。そん
なときに聞こえてくるのにピッタリの音楽が、ボサノヴァです。

ブラジルの高級リゾートのコパカバーナの海沿いにあるバーで、夜毎にジャズを聴きなが
ら遊んでいた常連たちの中からボサノヴァは誕生したといわれています。この常連には詩
人で外交官でもあったヴィニシウス・モライス、クラシックのピアニストを目指していた
アントニオ・カルロス・ジョビンといった人たちがいました。このアントニオ・カルロス
・ジョビンが、モライスや、ジョアン・ジルベルトといった人達と知り合い、新しい音楽
を作ろうとしてできあがったのがボサノヴァです。だからボサノヴァは誕生年がはっきり
していて、1958年ということになっています。ボサノヴァは、従来のサンバのリズムをベ
ースにして、当時のアメリカで流行していたチェット・ベイカーやマイルス・デイヴィス
のクール・ジャズの影響を受けており、メランコリックな感じの全く新しい音楽でした。
しかしこの時点ではまだ誰にも知られていないボサノヴァが世界的に有名になったのは、
ジョビンとギタリストのルイス・ボンファが音楽を担当したフランス映画「黒いオルフェ
」と、白人のテナー・サックス奏者のスタン・ゲッツとの一連のコラボレーションによる
ものです。

ゲッツはクール派のテナー奏者でメロディックなインプロヴィゼイションに定評のあるプ
レイヤーですが、一連のボサノヴァアルバムでのプレーはボサノヴァと共に彼の名も世界
的にしました。その一連のアルバムのレコーディングは、1962年から1964年にわたってい
ます。ギタリストのチャーリー・バードとの『ジャズ・サンバ』、渡辺貞夫が敬愛してい
るゲイリー・マクファーランドのオーケストラと『ビックバンド・ボサ・ノヴァ』、ルイ
ス・ボンファおよびジョビンとの『ジャズ・サンバ・アンコール』、ジョアンとアストラ
ッドのジルベルト夫妻およびジョビンとの『ゲッツ・ジルベルト』、そして最後がギタリ
ストのローリンド・アルメイダとの『ゲッツ/アルメイダ』です。どれも名演ですが、や
はり『ゲッツ・ジルベルト』が圧倒的に素晴らしい出来です。単なる主婦だったアストラ
ッドまで、世界的な歌手になってしまうというおまけまでついたくらいですからね。この
アルバムは、1964年から1966年まで96週間もチャートインしていました。グラミー賞のベ
スト・アルバム賞も受賞しています。チャートでの、最高位は2位です。1位になれなか
った理由はただ一つ、ビートルズ台風がチャートを独占していたためです。『ゲッツ・ジ
ルベルト』では、ボサノヴァの一番の魅力である柔らかだけど芯の強い力強いメロディ(
特にジョビンのもの)が、アストラッドとジョアンのジルベルト夫妻のボーカルとゲッツ
のサックスで十分に堪能できます。初夏のこの季節にはお薦めの1枚ですので、休日の午
後のひと時にでも耳を傾けてみてくださいね。

ちなみに私は、アントニオ・カルロス・ジョビンを今世紀でも注目に値する作曲家の一人
だと思っています。彼の素晴らしく個性的な作品については、また別の機会に語ってみた
いと思います。またこのサイトのアルバムの中ではジョビンの作品もいくつか取り上げて
いますので、ぜひ聴いてみてくださいね。

では、また。