●Endlessly Groovin'

皆さん、こんにちは、お元気でお過ごしですか。
今年の春は、初夏のような陽気が続いたかと思えば、また3月中旬の寒さに戻ったり、季
節の変り目は体調を崩しやすいので気を付けてくださいね。

さて前回はボブ・ディランとアメリカ音楽のお話をしましたが、ディランの話には出てこ
なかったアメリカ音楽に<ブルー・アイド・ソウル>というものがあります。これは、読
んで字のごとく”青い眼のソウル”という意味です。つまり、黒人ではなく白人によるソ
ウル・ミュージックという意味で使われます。映画「ゴースト」で《アンチェインド・メ
ロディ》が効果的に使用されたライチャス・ブラザーズや、《あの娘にレター》のヒット
を持つボックス・トップスといったところが有名なところでしょうか。しかし私がこの<
ブルー・アイド・ソウル>という言葉で一番に思い浮かぶグループは、永遠の名曲《グル
ーヴィン》というヒット・ソングを持つラスカルズです。ラスカルズのレコードは、国分
寺という街にある「珍屋」というレコード店でむかし買ったアルバム『グルーヴィン』し
か聴いたことがありませんでした。今回、ラスカルズのアトランティック時代のアルバム
を全て収めた『ラスカルズ/アトランティックイヤーズ』を聴いていて、『グルーヴィン
』だけではなかったラスカルズの音楽的な凄さに改めてビックリしているところです。『
グルーヴィン』を聴いただけでは、ラスカルズの音楽が持つ魅力の半分も聴いていなかっ
たことを身をもって体験したわけです。

ラスカルズは、エディ・ブリガティ(ボーカル&パーカッション)、フェリックス・キャ
バリエ(ボーカル、オルガン&ピアノ)、ジーン・コーニッシュ(ボーカル&ギター)、
ディノ・ダネリ(ドラムス)という4人から成るグループです。3枚目のアルバムまでは
、ヤング・ラスカルズと名のっていました。同じカフェ(日本でいえばライブハウスのよ
うなもんですかね)に出演していたものどうしが意気投合して結成されたグループで、そ
の活動もカフェ中心でした。カフェでの演奏は、誰でも知っているカバー曲が中心です。
初期の2枚のアルバム『グッド・ラヴィン』と『コレクションズ』は、そんなカフェでの
演奏をそのままパッケージしたような演奏で、いままで『グルーヴィン』しか聴いたこと
のなかった私は、その演奏の勢いとドライブ感に本当にビックリしてしまいました。ひと
ことでいうと、プロフェッショナルなハウズバンドといった感じです。この2枚のアルバ
ムは、彼らの楽器編成からもわかるとおり当時ヒット・チャートにも登場していたソウル
・ジャズ、レイ・チャールズあたりのリズム&ブルーズ、ゴスペルなどの影響がとても強
く感じられます。そしてなによりもこの2枚のアルバムでは、エディとフェリックスとい
う2人のボーカリストのフレッシュで勢いのあるパフォーマンスが聴けます。
続く3枚めのアルバムが『グルーヴィン』ですが、これは素晴らしいオリジナルを中心と
したアルバムです。『グルーヴィン』は、もしかするとビーチボーイズの『ペット・サウ
ンズ』に大きく影響されてできたアルバムかもしれません。サウンド的には違うのですが
、全体を覆っている内省的な世界観がとても似ているのです。”愛”が全体を貫くコンセ
プトになっていて、サウンド的にも最初の2枚の爆発的な演奏は影をひそめ、パーカッシ
ョンとチャック・レイニーの弾くベースが中心の穏やかなサウンドになっているのが特徴
です。私はラスカルズというとこのアルバムのサウンドしか知らなかったので、最初の2
枚のアルバムを聴いてビックリしたわけです。パット・ベネターがカヴァーした《ユー・
ベター・ラン》だけサウンドの色合いが違いますが、この曲だけ2枚目のレコーディング
と同時期に録音したものでしょう。次の4枚目のアルバム『夢見る若者』は、前作の雰囲
気を踏襲しつつインド音楽やサウンド・エフェクトを積極的に取り上げるなど、時代を反
映した仕上がりです。そして時代の波や彼等自身の成長と共に、ラスカルズの音楽も変化
していきます。公民権運動が盛んだった時代背景もあるのでしょう。作品(特に歌詞)が
、次第にラディカルなものになっていきます。5枚めのアルバム『自由組曲』はダブルア
ルバムとして制作され、その音楽の中で自分達の精神を表明しています。アルバムにはジ
ャズ・ロック(あるいはフュージョン)のはしりともいうべき、インストゥルメンタル・
トラックが3曲も収録されています。マイルス・デイヴィスがフィルモアで繰り広げたよ
うな前衛的な演奏も入っていてこれにもまたビックリです。この『自由組曲』も優れた曲
が多く、『グルーヴィン』と同じくらいの傑作だと思います。
その後、ビートルズやストーンズに習えとばかりに原点回帰のようなアルバム、『シー』
と『ラスト・アルバム』を制作しますが、グループは音楽的な行き違いから解体してしま
います。この2枚とも優れた曲もありますが、少し宗教色が強くなり、やはり全盛期の曲
の魅力や勢いやフレッシュさには欠けてしまうようです。その後CBSに移籍して2枚の
アルバムを制作しますが、エディとジーンはバンドを去り、4人組みとしてのラスカルズ
は事実上『ラスト・アルバム』で終焉を迎えていたわけです。

このようなラスカルズの変遷を、このボックスセットで体験できるわけです。ラスカルズ
が当時ロックの殿堂といわれたフィルモアに出演するときには、マザーズ・オブ・インベ
ンション、バニラ・ファッジ、アイアン・バタフライなどのメンバーがわざわざ観にきた
という伝説も、このボックスでの演奏を体験すると理解できます。そんな物凄い演奏力も
さることながら、楽曲の素晴らしさとソウルフルなボーカルがラスカルズの一番の魅力で
しょう。まだ未体験の人は、ぜひ体験してみてください。

では、また。