●ブルーノート・レコードとアルフレッド・ライオン

今年の冬は少し暖かいような気がしますが、皆さんいかがお過ごしですか?。昨年の2月
にオープンしたこのサイトも、1周年を迎えることとなりました。当初は試聴可能な曲も
1曲だけだったのですが、現在は65曲です。不精者の私としては、結構頑張ったかな?
さてそんな不精者の私でも、ときどき図書館などというところに行きます。図書館は本だ
けではなく、CDも借りられるのです(しかもタダで)。私の家の近くの埼玉県立図書館
には、自分で買うのは少し躊躇するボックスもののCDが結構あります(ビーチ・ボーイ
ズの『ペット・サウンズ・セッションズ』もありました!)。ここで『栄光のブルーノー
ト/アルフレッド・ライオンの時代』という4枚組のCDを借りてきたのです。

<ブルーノート>というのは、レコードレーベルの名前です。青山やNYにある、ジャズ
クラブのことではありません。レーベルというのは何かというと、最近のJ−POPでい
えば<エイベックス>とか、<ゼティマ>なんていうのと同じです。<エイベックス>と
いうとクラブ・ダンス系、<ゼティマ>といえばつんく系などというように、<ブルーノ
ート>というのも独自のカラーを持っています。そのカラーは何かというと、<珠玉の(
最高の)ジャズがパッケージされたレコード>というものです。もしあなたが最高のジャ
ズが聴きたいと思ったときには、ブルーノートのアルバムをだまされたと思って3枚買っ
てみてください。ギターが好きな人はギタリスト、ピアノが好きな人はピアニストなどの
リーダーを選べば良いでしょう。その3枚はすぐに気に入らなかったとしても、あなたの
生涯の宝物になる可能性があります。僕はダラダラと順番にソロをとっていくようなジャ
ズは好きではないのですが、ブルーノートに残された演奏にはそんな心配は要りません。
本当に最高の演奏ばかりが、パッケージされています。もし気に入らなければ、ジャズは
あなたに合わないのかも知れません。心配は要りません。世の中ジャズがなくても生きて
いけます。

このブルーノートというレーベルを1939年に作り、現役を退く1965年まで、全て
のレコードをプロデュースしたのがアルフレッド・ライオンという人です。この人の<素
晴らしい最高の演奏を完璧なかたちでレコーディングしたい>という執念のおかげで、今
日、私達が素晴らしいジャズを聴くことができるわけです。完璧主義者のライオンは、好
みの食事や飲み物を用意するなど、ミュージシャンが最高の演奏ができるように環境を整
え、もっとも調子の良いと思われる時間にレコーディングを行ったそうです。ジャケット
にもこだわり、<彼のシャッター音はスタジオの一部だった>とピアニストのハービー・
ハンコックが語ったフランシス・ウルフの写真と、そのウルフの写真を大胆にぶった切っ
て自由自在にトリミングするリード・マイルスのデザインで、ジャズに限らない数多くの
レコードレーベルの中で最もイカしているジャケットとなっていると思います(ロックの
アルバムにもデザインを模倣したものは多いのです)。そして、ブルーノートのというか
ジャズのサウンドを決定づけたともいえるルディ・ヴァン・ゲルダーの録音と、できる限
り望みうる最高の形でジャズをパッケージしたのです。レコードが売れた資金は、素晴ら
しい新人の発掘とそのレコードデビューに使われたそうです。だからブルーノートには、
現在では有名なジャズマンのファースト・レコーディングが多いのに驚かされます。そし
てその演奏スタイルも、時代を反映して常に新しいものへと変化していきます。このライ
オンの情熱がなければ、ジャズという音楽の発展は間違いなく異なったものとなっていた
でしょう。亡くなる前に、山中湖で開催されたマウント・フジ・ジャズ・フェスティバル
に<自分が現役のプロデューサー時代に、その音楽の素晴らしさを十分に紹介できなかっ
たピアニストのアンドリュー・ヒルを、日本の聴衆に紹介するために来日した>ライオン
は、万人のスタンディング・オベーションに迎えられたそうです。そこにいた人は、”も
しライオンという人がいなかったら、今の自分がそこにいなかったかも知れない”という
ことをよくわかっていたからでしょう。

そしてこのCDにはライオンがレーベルを作るきっかけとなった初期のブギウギピアノの
録音から、ブルースとスウィングのフュージョン、ハードバップの誕生、ファンキー、モ
ード、新主流派、オーネット・コールマンのフリーまで、ジャズの殆どのスタイルの最高
の演奏が録音年代順に詰め込まれています。ちなみにジャズでいうところのスウィング、
バップ、ファンキー、モード、フリーなんていうのは、ロックのヘビメタ、パンク、プロ
グレなんていうのと同じであまり気にする必要はありません。しかしそれらのスタイルの
全てが、ブルーノートというパッケージで見事に均一化されたイメージをかもし出してい
るのです。これこそがブルーノートと、他のレーベルが一線を画すものなのです。あらゆ
るジャンルを含めて、これほどイメージが強いレーベルはありません。ブルーノート、イ
コール、アルフレッド・ライオンなのです。

いろいろと書いてますが、なにより素晴らしいのが音楽であることは言うまでもありませ
ん。こうやって聞くと初期の録音のブルース・ゴスペルフィーリング、いつ聞いてもユニ
ークとしか言いようのないセロニアス・モンクのピアノ、鬼気迫るバド・パウエル、この
ドラムなくしてハードバップなしのアート・ブレイキー、生のサウンドはどんなに凄かっ
たろうかと想像してしまうジミー・スミスのオルガンなど聴きどころはいっぱいあります。
50年も前の音楽にまだ驚かされるなんて、音楽はなんて奥深く素晴らしいのでしょう。
ジャズをあまり聞いたこと無い人も、聞かず嫌いの人も、ぜひブルーノートの作品を手に
とって聴いてみてください。そこには最高のジャズが、最高の形でパッケージされていま
すから。

では、また。