●日本で一番トンガッテいるアーティストは?

皆さん、こんにちは。お元気でお過ごしですか?
私のほうは、正月ボケからあっという間にいつもの生活に逆戻りしてしまいました。1月
も半ばを過ぎて、3月くらいのような暖かい日があると思えば、とても寒い日もあったり
で、皆さんも風邪などひかぬよう気を付けてくださいね。

さて話は変わりますが、皆さんは日本で一番トンガッテいるアーティストは誰だと思いま
すか?。トンガッテいるなんていうとイメージが抽象的すぎますが、私が言いたいのは自
己の世界に囚われずに、偏見なしに音楽的に挑戦し続けているというようなことを意味し
ています。さあ、みなさんの頭の中に誰が思い浮かびましたか?。私は、小田和正です。
そうです、元オフコースの小田和正です。どうですか、皆さんの頭に浮かんだ人やグルー
プと比べてみてください。オフコースというと、一時期は根暗や軟弱の代名詞のように使
われたこともありましたが、私は中学生で《眠れぬ夜》を聴いてから好きなグループの一
つでした。そのころのフォーク特有な暗い感じが無くて、サウンドがとてもポップだった
からです。彼らの全盛期(80年代の前半頃)の楽曲は、日本のポップスの中で、メロデ
ィ、クォリティ共にかなり上位に位置すると思っています。話はちょっとそれましたが、
なぜ小田和正がもっともトンガッテいると思うのかを説明しましょう。

話は、ちょっと前の2001年のクリスマスに溯ります。深夜のTVで、小田和正のライ
ブを観たのです。そこで彼がやろうとしていたことは、同世代を生きる素晴らしい日本の
アーティストの曲を、その本人をゲストに迎えて一緒に演奏しようというものでした。ち
なみに彼が選んだ楽曲は、次のようなものです。

●夜空ノムコウ/SMAP
●桜坂/福山雅治
●勝手にシンドバット/桑田佳祐(サザン・オールスターズ)
●真夏の果実/桑田佳祐(サザン・オールスターズ)
●春夏秋冬/泉谷しげる
●Tommorrow Never Knows/ミスター・チルドレン
●ひこうき雲/荒井由実(松任谷由実)
●Automatic/宇多田ヒカル
●クリスマス・イブ/山下達郎

上記の人達の一人一人に彼本人が直筆で手紙を書き、共演をお願いしていました。しかし
共演を依頼された人達のほうは、主旨は理解しつつも諸々の事情で結局共演は実現しませ
ん。彼は結局ゲスト参加無しで、このライブをやることをTV局に提案します。そこにT
V局の制作側から、「小田さん、それじゃぁ番組にならないんですよね」と難色を示す意
見が出ます。TV局としても年末(確かクリスマス・イブの夜だったと思う)のスペシャ
ル番組です。なんとか普段あまりTVにでないようなゲストをたくさん呼んで、話題性も
ある素晴らしい音楽番組を作りたいという思いが伝わってきます。美術スタッフも、丹念
に作った舞台の模型をもって打ち合せに来ています。しかし彼は決断するのです。”自分
だけでやる、豪華な舞台もいらない、音楽だけで素晴らしいライブにする”と。ある意味
、スタッフさえも敵に回しかねない決断です。そして自分にかかるプレッシャーも、相当
大きいものがあったはずです。普段やりなれてる自分の曲をやるのではないですし、共演
を依頼した人達も注目しているはずなのですから。選曲だって、”何もその曲を”と思う
曲がいくつも並んでいます。オリジナルを超える可能性を考えたら、自分への挑戦以外の
何物でもありません。彼は、これらの曲をすべて頭に叩き込んで本番に挑みます。歌詞を
見ながら歌うのは、そのオリジナルを歌った人達に対して失礼だ、という思いがあるから
でしょう。

そして、本番・・・。
結論を言ってしまえば、素晴らしいライブでした。全ての曲が小田和正のカラーにしっか
りと染まっており、オリジナルの魅力を損なうことなく素晴らしいカヴァーになっていた
のです。しかも完全試合を狙っており、ミスをしたら最初から演奏しなおしていました。
彼を支えていたのは、作者本人が聴いても恥ずかしくない演奏をしたいとうミュージシャ
ン・シップです。この夜のハイライトは、なんといっても山下達郎の《クリスマス・イブ
》でした。二人は”犬猿の仲”で本当にお互いが嫌いだった(番組の中で本人がハッキリ
と言ってました)らしいのですが、そういった個人の思惑を超えて演奏されたこの曲は、
本当に素晴らしいものでした。ギターをテレキャスターに持ち替えて歌ったところにも、
相手に対する敬意が感じられました。そして本人の了承を得て番組で公開された山下達郎
からの手紙で明かされた、《クリスマス・イブ》はオフコースを意識して書いたという事
実と、それを音楽界の先輩である小田和正に取り上げてもらうのは光栄だという気持ちも
感動的でした。そしてラストは《Yes-No》、そして”カンチ!”という懐かしの映像が蘇
る《ラブ・ストーリーは突然に》と小田和正本人の名曲で見事に締めくくられました。
”音楽の勝利”、そんな言葉が頭の中をよぎったライブでした。