ルート:Mt. Robson south face normal route
(regular route, SSW ridge ともいう。)
登攀隊 行動記録
三井 明高
<ビジターセンターから見たMt.Robson>
日程概略
8/7(土) トレールヘッドからキニー湖へ
8/8(日) キニー湖からラルフ小屋へ
8/9(月) ラルフ小屋からリトルロブソン、シュワルツレッジ群を経てルーフ上3700mにビバーク
8/10(火) Mt.ロブソン山頂往復後、リトルロブソンから少し下ってビバーク
8/11(水) ラルフ小屋に戻る
8/12(木) キニー湖を経て下山
<日時はカナダ太平洋時間で示す>
8/7(土) 晴れ トレールヘッド14:30 − キニー湖16:20
ふもとで実物の Mt.Robsonの威容に緊張しながら、トレッキング隊とともにキニー湖キャンプサイトへ。ラルフ小屋(Ralph
Forster Hut)が見える。小屋までのルートを確認した。トレッキング隊に生野菜たっぷりの料理と酒をふるまってもらう。
8/8(日) 晴れときどきくもり キニー湖5:20 − トラバース中水場(2015m)9:45 − ラルフ小屋(2525m)13:10
小屋まで14時間かかったという資料もあり、早めに出発した。Great Couloir 下端の雪渓から取り付き、沢の右手の樹林帯に入る。赤布がこまめについている。下山ルートと合流してしばらく登ると樹林帯を抜けてガレ場のトラバースぎみの登りとなる。亮子さんやや遅れ始め、荷を分ける。睡眠不足か時差のせいか体調いまいちらしい。水場を過ぎて逆層ぎみとなった部分を注意して通過すると壁の下のカール状に出る。雪渓通過の際に亮子さん滑落。雪渓末端のガレまで落ちたが、傾斜がゆるく、擦り傷と軽い打ち身ですんだ。稲垣さんがすばやくグリセードで助けに行った。
壁にルートがあり、容易に登る。壁を抜け、ガレ場を登って小屋に着いた。8時間かからなかったので、技術を要しない部分のパーティのスピードは問題ないと感じた。
ガスがときおり消えて小屋から上部がうっすら望めた。大竹さんから上部氷河(ルーフ)末端の右のルートが行けるんじゃないかと提案された。これならリトルロブソンを通らずにルーフに出られる。Hourglass
と呼ばれる、以前に登られていたルートだが、氷河が迫って危険となっている。まず雪の流れ落ちた岩場の通過が不明。その上も、氷河下端面を登るか、右端面の下を通過するかだが、登攀そのものが容易ではなさそうで、時間がかかるとセラックの落下が怖い。あきらめて予定通りのルートを行くことにした。
翌日のアタック(実際は2日かかったが)に備え、話し合い。ツェルト2つとしていたが、稲垣さんがもうひとつ持っていくことになった。シュラフカバー以外にマット、シュラフも持ち、横になって寝ることを期待。引き返すかどうかは、リトルロブソンに戻れるうちに判断する。全員でなくても登頂を目指す。
8/9(月) くもり ラルフ小屋5:00 − リトルロブソン9:40 − Schwartz
ledges 13:40 − ルーフ上(3700m)ビバーク16:20
ガスが濃いが、準備して歩き出すと明るくなった。チムニー状を登って下部氷河のせり出しの下を通過。氷河のブロックが落ちればやばいが、安定している。
岩稜をのぼるとルートがわからなくなった。濡れたフェースを大竹さんが登るが、他は皆ロープの世話になる。左にトラバースし、ガレぎみを直上するのにそれぞれロープを出す。ルートではなかったようだ。

<小屋下方から。 中央やや左の岩山がLittle
Robson。その左の氷河がroof。Mt.Robson山頂は雲がかかっている。
>
そこからリトルロブソン下の雪のコルに行くのだが、岩塊の右手に回り、岩をまたぎ(ロープ)、チムニー状を上がれば雪の付いた斜面となる。6年前の最高到達点であるコルを越え、ガスの中を雪面を登るとピークのはっきりしないリトルロブソンだ。
Mt.Robson 山頂から南面に広がる氷河を roof
と呼ぶ。リトルロブソンの近くで段差があっていったんとぎれ、そこから下の氷河がラルフ小屋のすぐ上まできている。リトルロブソンから広いコルをはさんでroof末端の崖につながっている。ここからガリーを横切ってSchwartz
ledges に至るまでが最も危険な個所とされるが、資料では詳細がわからなかった。このコルの前方には、水平な地層むき出しの黒く高い壁が濃い霧の中にそびえたっている。というかキニー湖まで落ちている。そしてその上には厚さ50m以上とも思える氷河端面が崩れそうに乗っている。
核心部のガリーはさておき、この岩と氷の壁が登れるのか?1)まず思いつくのは、ガリーを横切って最初の凸面レッジ群を登り、上の氷河端面を登る。(次ページ写真右1/3)しかしレッジとレッジの間の垂壁に弱点が見えない。氷河端面も立っていて、ハングしてないルートがとれるかどうか微妙。もたもたしてると崩れてくるかもしれない。2)それでなければ岩棚をさらに向こうに行って凹面を過ぎてから取りつく。(次ページ写真左1/3)氷河端面からは逃れられるが、上部が広い急な雪面で、なだれてきた雪が下の壁にへばりついているだけで登れそうにない。 いずれもリトルロブソンから見ていると「行ける」と言えない。近くに行ってみるしかない。しかもその前に最難部と言われるガリー通過がある。ガスが濃く寒くなってきた。「引き返すならここしかないよ」と大竹さんが亮子さんに言った。
服を着込み、雨具とアイゼンをつけて壁に向かう。コルから
roof に向かう雪面は半円錐になっていて小さな山に見える(次ページ写真右端にのぞいている)。円錐頂から細い雪稜となって岩壁にぶつかり、上には氷河端面がおおいかぶさって登れない。下山ルートとしてここをアプザイレンすることも紹介されているが、今回は氷河がロープ長より高く崩れぎみでやる気がしない。
さて問題のガリー(写真の右に白いじょうご状に見える)。Great
Couloir の右俣。対岸には岩棚が上から下まで多数ある。歩けそうなのは我々のいる雪稜より3mほど下のものと、さらに20mほど下のロープがひっかかっているもの。資料では氷河下端からロープ1本以上(75mとも)下となっているので、雪稜から3mほど下のものと考えた。稲垣さんが偵察し、行けそうだ。ガリーのこちら側が急な雪面のトラバースとなるのでロープ2ピッチで通過。4番目の久保の通過中に20cmの氷塊が落ちてきた。
時間をかけてひとりずつ通過している間に、トップで行った大竹さんがルート観察。初めの凸面は無理だが、凹面の向こうは岩をすこし登ってから雪面となって登れそう。なだれただけに見えた雪は案外しっかりしていた。雪/岩フェースを2ピッチ直上したが、そのまま行くと氷河側端面近くの急な雪面になる。左の雪稜に2ピッチでトラバース。足の下から小ナダレが次々に起きる。無事雪稜に抜けて緊張が解けた。ここにきて天気も回復してきた。
あとはひたすら雪稜を登ると傾斜がゆるくなった。roof
に乗った。幅10mほどの大クレバスに雪がつまっているところでビバーク。スクリューを使ってツェルトを張った。3人用はいいが、1-2人用に3人は低くせまくつらかった。
8/10 はれのちくもり ビバーク地(3700m)7:10
− Mt.Robson 山頂9:15/9:50 − ビバーク地12:30
− ガリー通過17:20 − リトルロブソン下ビバーク18:20
起きると雪。ツェルトのまわりに積もっている。小屋からは2ビバークの食料しか持ってきてないので今日アタックしないと登れない。晴れてきたのでデポ品を置いて出発。雪が積もっているのはクレバスの中だけだった。
Roof の氷河は左(西)にくずれた側端面をのぞかせている。そのさらに西の雪面を直上。ピッケル・バイルの頭を持ってのダブルアクス。雪が硬く休むところもなく、ふくらはぎが疲れる。氷河端面が切れたところで右にトラバース。ややゆるくなる。Roof
上に氷河が割れてはね上がった下がいい休憩場所となる。さらに右にトラバースぎみに登って行くと平らな尾根に出た。左(西)に歩くと山頂だ。2つピークがあり、トレースのない西側にまず登ったが手前のピークのほうが高いので登り直した。1999年8月10日午前9時15分 登頂。
大竹さんを見て思わず「ありがとうございます」と握手したが、大竹さんからも「ありがとうございます」とていねいに返された。大竹さんの感動した目を見ておれにも感動が湧いてきた。
好天だが北面はガス。まわりは雪をかぶった岩山だらけだが、いずれもおれたちより低い。撮影、休憩の後下山。ビバーク地の上の急斜面でロープを使用したが、1ピッチ終わって久保がロープを落とした。アタックには2本しか持ってきてなかったので1本しか残らず、1ピッチごとに全員を待ったので時間がかかった。
デポ品を回収して roof から下りる。雪面トラバースに2ピッチ、レッジ群は支点に苦労しながらアプザイレン4ピッチ。ガリーに続く岩棚に降り立ったころには、手袋は濡れ、空もくもって寒くなってきた。ガリーを通過して雪面をリトルロブソンへのコルに下るときはへとへとでくずれるように尻セードしていた。ここまでくればどうやら生きて帰れそうだ。
リトルロブソンを少し下って岩がつきだしているところでビバーク。腹ペコなのに、夕食がない!上のビバーク地に忘れたらしい。しかたなく朝食の雑炊を食べたがスープみたいで腹の足しにならん。疲れて空腹のままツェルトにもぐりこむ。稲垣さんはスノーバーを細工してポールを立てた。おれはかぶっただけのツェルトが雪で気密性が高くなったせいか、息苦しくて一睡もできなかった。
8/11 はれ リトルロブソン下ビバーク地8:15 − ラルフ小屋13:30
好天で景色がいい。登頂ルートを眺めて、一番いいルート取りだったね、と確認し合う。この日は小屋に下りるだけなのでゆっくり安全に行く。チムニー+またぎトラバースで1ピッチ。下の岩塊で4ピッチ。ハーケン・スリングを残置したり、危険度の少ないところはひとりがカラ身で登り返してラストでビレイで下りたり。驚くべきことに我々以外の残置はほとんどない。ラストがビレイで下りているのだろう。
下部懸垂氷河、チムニー状を経て小屋に着く。干し物の後、早めの夕食で乾杯。どんどん料理を出す。
8/12 雨のちはれのちくもり 小屋7:05 − 川原12:20 − トレールヘッド14:00
注意して下りる。雪渓からガレ場に入るのに迷う。ガレ場に神経を使う。最後のトレールも登りルートと分かれてから急になり、疲れた体にこたえる。三井は右足不調で荷を分けて持ってもらう。
キニー湖の近くの川原に下りて本当にもう安心。顔を洗ったりして休むが、みんなしゃべらない。立派なハイキングトレールを歩き、トレールヘッドでトレッキングの両宮田さんに拍手で迎えられた。
隊員の実力とルートを考えると、準備期間も行動日程も短く、天候に救われての登頂でした。応援ありがとうございました。