「東労文化」(国労東京地本発行)復刊32号、通巻89号 1984 秋

『文化テキスト』=地本内の文化サークルの紹介特集記事

 

「詩」はどこにでもある

国鉄詩人連盟

 「国鉄詩人連盟」といういささかいかめしすぎる名前のサークルは、戦後すぐ、1946年にはもう結成されています。開放感と、新しい時代への予感のようなものが、各地方の若者たちの力を集め、それぞれの同人誌を基礎に、全国的なものになったのです。

 「詩を書く」という、およそもっとも個人的営みとして考えられていることが、なぜ、サークルであり、「連盟」となっているのか、と思われるかもしれません。いや、そもそも、「詩」などというのは、甘っちょろい感傷や、歯の浮くような言葉の羅列であって、「女・子ども」はともかく、大の大人、ましてや毎日「鉄」とわたりあっている私たちにはそんなもの縁は無い、と言う人さえいるかも知れません。

 しかし、詩は、やはり、鉄道の現場にありました。初めて機関士になった喜びの詩もあれば、便所掃除の詩もあり、長いストライキの不安をうたった詩もあり、毎日仕事を繰り返すということ自体を考えた詩もありました。もちろん恋の詩も、家族を書いた詩も。そして「職場」を含む日常に向かって書いていこうという最低線の相互理解が、同じ職場で働いているということを媒介とした共同性として、詩人連盟を成り立たせる根拠となったのです。

 でも、戦後40年を経て、「詩」というものも大きく変化してきているようです。もちろんこれは、社会の変化ということと実は同じ意味なのですが。その変化は、初めて詩を書く人にも、何十年も書き続けてきた詩人の上にも、また、何を書こうとするかの主題にもかかわりなく、ことば自体が変質してしまったかのように、ことばを発する時すべてに現れています。

 町へ出て、本屋へ寄り、「現代詩手帖」などという雑誌をのぞいてみれば、たいていの人は、詩というのはいったいどうなってしまったのだ、という気持ちにさせられるでしょう。たぶん、詩というのはもう全く意味がたどれない得体の知れないものだと感じることによって。または逆に、単なる女の子のどぎついおしゃべりを書いただけじゃないか、などと思うことによって。

 しかし、それが現在の「詩」のひとつの真相なのです。

 では、何のためにそうまでして「詩」が書かれるのでしょうか。こういう中で国鉄詩人連盟である理由とは何なのでしょうか。

 もし、「詩」と詩以外の他の文章とを分けなければならないとすれば、―これは時代的制約です―言い換えれば「詩」とは何かと考えなければならないとすれば、次のように考えるしかないと思われます。

 すべての言葉は物を指し示す働きと、自分の気持ちを直接現すものとしてのいわば感嘆符みたいな働きとを二重に背負っていて、前者の働きが論文とか普通の説明の文章に対応し、後者の働きが「詩」に対応するのだ、と。そうであるなら、どんな具体的なことも、どんな抽象的なことも詩になり得ますし、いかつい「仕事」のことも、当局への怒りさえ、詩にすることも可能なはずです。なぜなら、ものごとを「説明」しようとするのではなく、ものごとを「直接」感じようとする心の状態で言葉を発すればそれが、とりあえず「詩」なのですから。

 しかも詩のことばは、その時代、時代に制約された言葉の意味体系に従ってではなく、むしろその体系を少しでもずらし、異化するように、いわば意味以前の母胎から、発せられます。「詩」とは、音韻、リズムなど、持てるものすべてを動員してまで常にその時代を乗り越えようとしている言葉なのです。そして現在のように社会全体が高度化し言葉が緊密に体系づけられてしまった時代ではそれから脱却しようとする「詩」もかなりの苦闘を強いられているということだと思います。

 私たちは、組合や社会運動、支配体制の中になる常套句をぬぎすて、日常を掘り下げることによって、本物の新しいつながりを見いだしたいと考えます。だから詩は、直接組合運動でもなく、アジテーションでもありません。しかし、むしろ、現在の組合や社会の在り方さえ超えてしまう可能性であり、半歩先の「言葉」なのです。またそこに、現在において「詩」が「運動」として成立できるわずかな可能性もあると思います。

 話しはもっと簡単なのかもしれません。

(1) 君の胸は光っているか!! 国労ワッペン

(2) 青年部役員選挙。人材募集。明るい職場は君の手で。

 いずれも或る分会青年部の文章からの引用ですが、これらは新しい言い方を自然にめざしている、いわば「詩」への願望なのかもしれません。何ものにもとらわれず、自由な発想で言葉を組み替え、従来のわく組を変更してしまうこと。若い人々の大胆で粘い強い構想力に期待しています。

 

国鉄詩人連盟

創立 1946年5月

目的

詩人連盟綱領 1947年(抄)

1、我々は働く者の正しい世界観を把握し詩の革命をおこなう。

2、我々は働く者の生活の中にこそ新しい詩精神の存在することを確信する。

3、われわれは詩によって職場に人間的愛情をたかめたい。

会の行事

1、機関誌「国鉄詩人」の隔月発行。

2、年一回、各地方持ち回りで大会。

3、会員の作品から毎年「詩人賞」の選考。

4、個人詩集の発刊。

5、各地方ごとに「詩話会」を結成。

会費 年6千円

連絡先

八王子客貨車区 ○○○○053-2419

本部電送室   ○○○○057-4882