国鉄詩人通信218号(2004年9月1日) 初出   2011年12月24日リンク先更新

「プランゲ文庫」の国鉄詩人連盟

   「歴史」を内在化する「ことば」へ

  九年前の一九九五年、東京高円寺で開催された詩人大会は五〇回記念大会として、連盟の歴史を物語る様々な資料が展示された。その中に、大阪の乾宏氏が持参した敗戦直後の英文書類があった。それは、彼が当時職場で発行していた詩誌に対して占領当局から検閲を受けるように命令するものだったと記憶する。話には聞いていた占領下における検閲の現実に不意打ちされてずっと印象に残っていた。
  最近、インターネット上を「国鉄詩人連盟」のキーワードで検索していたところ、当時の検閲を受けた膨大な資料がマイクロフィッシュとなってアメリカから里帰りしており、資料名は検索できることがわかった。
  今年の詩人大会の帰りにこの検閲について聞いてみたところ、岡氏も「国鉄詩人」を提出し、倉田氏も職場で発行していた雑誌をGHQに届けたという。
  このように提出された出版物は、その歴史的価値に注目した当時のGHQ民間検閲局歴史部長、W.プランゲ博士が一括保存し、現在はメリーランド大学の「プランゲ文庫」として収蔵されている。中には、日本には現存しない資料も多いという。経年劣化が進む資料をマイクロフィルム化し、またデータベース化する作業が進められてきて、現在では、マイクロフィッシュの購入や、雑誌記事の検索も可能になっている。

@プランゲ文庫詳細リスト
http://www.bunsei.co.jp/prange/index.htm (注) 

A占領期新聞・雑誌情報デ ータベース
http://m20thdb.jp/login (注)

  @の文庫詳細リスト中、社会・労働部門には、市販されなかった労働者の職場文芸誌が多数含まれている。小さな職場単位の雑誌が無数に発行されていたことに驚愕する。その中には乾氏が発行していた「大鉄詩人」の名も見える。様々な業種にわたる発行者名を見ていくだけで当時のこの熱気と、現在の職場との間にはどのような変化が必要だったのか、その変化の意味は何なのか、その疑問に引き込まれそうになる。
 Aの雑誌目次データベースに含まれる雑誌はおそらく国会図書館にも収蔵されているものがほとんどだと思うが、著者名で検索できるので使用価値は大きい。ちなみに、「岡亮太郎」で検索すると、1946年から49年の間で、彼の書いた42件の詩や文章がヒットし、「乾宏」で検索すると111件がヒットした。「国鉄詩人」200号に掲載された物故詩人名で検索しても、様々な結果に興味は尽きない。
 毎日の仕事の上で語られる言葉がある。それらとは別の時空で「書かずにはおれなかった」欲望はどのような力線で構成されていたのだろうか。あらためてそのことを考えてみることは、私たちが過去を自らのものとして再構成し、そのような歴史を内包するものへと主体化することになる。
 変わってしまったという「今」を嘆き続けるよりは、「闘いなどどこにもなかったのだ」と歴史を簒奪し続けているマスメディア(M・フーコー思考集成Xp220)を分解し、「闘い」を綿々と持続させてきた「私たち」というものを創り出す、そのような道に就こうではないか。

注:2014年現在、プランゲ文庫関係の検索は以下のサイトに統合、有料化されている。
http://20thdb.jp/

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