朝日新聞 1946/01/31 (木)

検閲の緩和を考慮
  

  教授学生の渡米を準備 

ボールドウィン氏談


米国公民自由連合理事ロージャー・N・ボールドウィン氏は日本において民権擁護協会、国際連合と関係ある国際協力団体、二世の団体の三団体の結成を助けつつあったが、近く帰米するので、四日午前十時民間情報教育局で新聞会見を行い、左のような談話を発表した
◇占領軍の政策は一般的に正しい方向に進んでいるので、今まで必要だったいろいろな制限、特に通信の検閲と集会の制限は緩和されるだろう、私は占領軍当局に対して、これらの点についていろいろと意見を述べた、占領軍に関係の無いことでワシントンで処置すべきことは、ニューヨークの公民自由連合本部へ私が報告した上で適当な処置がとられるであろう
次いでボールドウィン氏は記者団の質問に答え、大要左のように語った
◇翻訳権、版権の取得について−紙不足のため日本で海外出版物を翻訳するためには選択が必要である、米国書籍の翻訳について米国の出版業者は翻訳される米国書籍一部につき総司令部から百ドルを受取り、印税は出版業者が支払うということに同意した、印税は封鎖円で支払われる、ただし近年の出版書籍の版権は獲得できない
ソ連には私有財産権たる版権というものが無いから、米国書籍を出版することはソ連のものを出版するより困難である、しかし私は米国出版業者に原価に近い値段で書籍を送り出すよう交渉準備をすすめている
米国新聞記事の翻訳については、私は米国出版協会に日本新聞に対する白紙許可を行うよう交渉するつもりだ
◇検閲の緩和について−総司令部の検閲緩和は時期の問題であり、それはマックアーサー元帥の決定による、新聞のみならず、ラジオ、映画、演劇、紙芝居の検閲が緩和されるのは時間の問題である
出版物に検閲については全国の四千二百に上る新聞雑誌のうち八百五十が事前検閲を受けているが、新聞に対する事前検閲は近く緩和の可能性がある、また国際郵便に印刷物の輸送が禁ぜられているがこれも撤回して差支ないと思う
◇移民問題−東洋民族の米国移民禁止は米国公民自由権の大きな違反行為である、しかし中国人、比島人、インドネシア人は最近この禁止が適用されなくなった、さらに全面撤廃案は今議会に上程されているが通過すれば十万の在米一世が市民権を獲得し、日本から毎年百名の移民ができるようになる
◇日本学生の米国留学について−政府代表、大学教授、学生の米国旅行は総司令部の承認を得ているが、円貨が安定しないと実際上は困難だ、この問題につき米国の一財団の代表者が滞日して教授学生の渡米準備をすすめている
◇追放令の正しい適用について−日独両国の追放令の適用は困難な点を含み、追放さるべからざる人が追放されるようなことが起こることも仕方ない、追放の初期の段階がすぎると再審査の必要が起こってくるのではないかと思う
◇公民の自由は言論、報道、集会の自由の概念をふくんでいる、言論の自由については満足すべき状態にある、集会は総司令部に事前に届出なければならぬことになっているが、これはやむを得ぬことで、自由の制限というほどのものではない、しかしこの事前届出制も近く撤廃されるはずである
◇公民自由のもう一つの面は経済状態であるが、日本の経済状態は着々解決に向かっている、日本国民はパンと政治的自由を与えられているからファッショ化や共産主義化の危険はないものである