沖縄への道

 沖縄へ行こうという話になった。
 弟一家と弟の配偶者の両親が沖縄へ出かけるので、母親にも話がやってきて、ホテルの母親の部屋に私も一緒にどうかということだ。つまりはオマケのオマケ。
 室代は母親持ち、一晩いっしょに飯を食い、いちどカヤックツアーに出かけるだけであとは別行動、という話なので乗ってみた。
 ホテルは名護市のブセナテラスかマリオットか、という話だったが、施設が充実してるマリオットのほうに決定した。どえらい高額なリゾートホテルだが、私が払うわけじゃないからオッケー。
 朝食のみの予約なので、夕食はあちこちに勝手に食いに出かけられる。沖縄そばとかラフテーとかステーキとか山羊とかシャコガイとかイルカとかヤシガニとか。

 弟一家が乗る飛行機は朝早すぎて、私の住む家からでは無理。ということで羽田を9時ごろ出発するスカイマークの航空便を予約した。往復で19,000円。LCCなら往復9,800円というのもあったが、成田発というのと、手荷物料金などでかえって割高になりそうなのでやめておいた。
 那覇空港からホテルまではリムジンバスが出ているらしい。ホテル近辺はタクシー、レンタカー、路線バスを適当に組み合わせて移動できそう。
 ただ路線バスは名護までかな。それより北へも路線はあるが、1日3便とやらで、へたするとやんばるで路頭に迷う。ひとりなら、やんばる山中でヤンバルクイナとヒメハブと私となるのも一興だが。

 さて沖縄に行くのは2回目である。
 最初に行ったのは20年ほど前だろうか。友人と4人で那覇に行き、国際通りで泡盛を呑んだりウミヘビ料理を食いながら泡盛を呑んだりプロペラ機で慶良間に出かけて炎天下を歩いて脱水症状を起こしかけたり辿り着いた海の家で氷結グラスのオリオンビールのきんきんに涙したり人の居ない砂浜でオリオンビールを呑んだりタクシーで南部観光したりハブとマングースのショーで頭を噛みちぎられるハブを見物したり。
 そう、当時はまだマングースがハブを殺すところを見物できた。今は動物愛護とやらで、ハブはハブ、マングースはマングースで別立てのショーらしいぞ。
 もっとも動物愛護という観点を抜きにしても、マングースがハブを殺すところを楽しんで見物するという気分には、もう観光客もなれないのかもしれない。昔は、「ハブ=悪の毒蛇、マングース=正義の天敵」という認識だったからこそハブをマングースが殺すことに正義を見いだせたのだ。ところがその後、マングースがヤンバルクイナの卵や成鳥をむさぼり、イリオモテヤマネコの幼獣も殺し、つまり沖縄の希少生物を絶滅の危機に追いやっている実態、そしてハブがいるからこそ沖縄の山に開発の手が届くのが遅れ、そのおかげでやんばるの生態系が守られてきたことが知られてきてから、「マングース=沖縄の生態系を破壊するよそもの、ハブ=沖縄の生態系の守護神」という認識になってしまった。こうなってしまっては、ハブがマングースに殺されるのを見物する客は、もはや地下酒場で殺人ショウを楽しむ死ね死ね団の成金と変わらない。
 あと、タクシーの運転手から、子供の頃は山に登ると日本人アメリカ人の頭骨がごろごろ出てくるんで、それでサッカーして遊んだという思い出話を聞いたなあ。オキナワンジョークのたぐいかもしれんが。
 その程度の記憶しか残ってないのは、たぶん、のべつまくなしに呑んでたからだと思う。それにしてもオリオンビールと泡盛はうまいな。

 人によっていろいろだとは思うのだが、私にとって旅行の一番楽しいのは出発の1ヶ月前から直前までである。
 まずガイドブックや関連書籍を買いそろえていろいろと妄想する。ガイドブックとしては「沖縄るるぶ」と、今回の目的地に絞った「やんばる沖縄北部」を読んでみた。さらに「美ら海水族館ガイド」「沖縄シュノーケリングガイド」「ディープな沖縄食堂」「沖縄美味いものガイド」「沖縄のおばぁ」「オジィの逆襲」「琉球物産志」などといった本をあさり、果ては「琉球王国」「松木一等兵の沖縄戦記」「沖縄現代史」「大江健三郎の沖縄ノート」などといったものまで読んでみた。

 さらに、既存の本棚から沖縄に関係ありそうなものを物色してみた。
 まず北杜夫を読んでみたが、この人は与那国とか西表とか宮古とか沖縄本島でない離島のことしか書いていない。ひょっとしたらこの人、那覇に寄ることもせず東京からイカダで離島まで行ったんではないかと思えてくるくらいである。
 「沖縄本島やせいぜい飛行機で行ける島を訪れた人々は、日本復帰の問題や基地の問題を第一に考えるかもしれない。しかし、沖縄も外れに行けば行くほど、まず感じるのは何よりも離島苦ということである」と書いているが、そりゃそうだ、いかに過剰な善意を押しつけることが大好きなアメリカといえど、与那国や西表や宮古に基地を作るほど酔狂じゃないもの。
 次に司馬遼太郎をあさってみた。さすが遼ちゃん、「街道をゆく」シリーズの中に「沖縄・先島への道」という一巻がある。
 しかしこの本も、沖縄本島は石垣、竹富、与那国など先島へ行く経由地にすぎない。那覇では琉球処分や沖縄戦について詳細に考察しているが、実際に沖縄で体験したものといえば、那覇空港のウンコである。
 空港のトイレで、流さず残された巨大ウンコを見つけた青年が「こんなことする人、本土の人にきまってるよ。沖縄の人はしないよ。おばさん、いやだねえ」と語るところから始まって日本と沖縄との関係を考察し、ウンコを大和民族による沖縄侵攻の象徴としているのだが、これではあんまりだ。
 ちなみにこの「沖縄・先島への道」は、那覇空港に大和民族の残した猛々しいウンコに始まり、与那国のむぐらで須田剋太が放出した「ハブのような糞便」で終わるという、司馬遼太郎にしては珍しく下ネタのつまった本である。
 結局、いちばん参考になったのは、東海林さだお「ショージ君の南国たまご騒動」所収の「沖縄旅行」だった。沖縄海洋博から8年後というから、もう32年前の話だが、行く予定の美ら海水族館や海中展望台のことが書いてあるし、今は亡きハブとマングースの対決も記録している。あと、山羊汁は鼻が曲がるらしい。
 あとは「琉球王国」という歴史もの、「琉球の嵐」という大河ドラマにもなった(主演沢田研二)陳舜臣の小説、太平洋戦記における沖縄戦の記録、なども参照したが、あまり旅行の参考にはならんな。
 そのさなか、偶然ケーブルテレビで放映された沖縄戦の映画を見た。丹波哲郎が長勇の怪人物っぷりを好演していた。あと天本英世が沖縄の校長役を真面目にこなし、岸田森がエキセントリックな軍医役を見事に演じてたのが印象に残っている。あの軍医なら、兵隊を改造して仮面ライダーXくらい作れそうだったなあ。メガール将軍になる確率が95%だけど。

 そして旅行用品を集める。
 ビーチに行くのでサンダルは必要だろう、できれば普通に歩けるのを、とクロックスモドキを入手。沖縄は紫外線が強いから薄い長袖も必要、とペラペラのパーカーを購入。ついでに紫外線よけと虫除けのスプレーも購入。ドライブの途中、シャワー設備のないビーチに入った時のために、それに冷たいものも飲みたいよね、と百均で水タンクとクーラーバッグも購入。さらに釣り竿とシュノーケリングセットを買おうかと思ったが、かろうじて踏みとどまった。このままでは以前にラオスに行ったときのように、山のように飴ちゃんとビニール風船とオモチャを購入したあげく、何も使用せずにバンコクのホテルに破棄して帰ったのと同じ羽目になりかねん。
 あと、靴だけは買った。私の母が出発の一ヶ月前に我が家を訪れ、私がふだん履いている靴を見て、飛行機に乗るんだからせめてもうちょっとましな靴を履いておくれ、と1万円置いていったからだ。その金で軽いウォーキングシューズを購入したが、五千円しなかったことは秘密だ。

 それでもシーカヤックツアーに行くということで、新規デジカメ購入を考える。私の持ってるキヤノンSX130は、使い勝手と画質に不満はないが、防水性能がなく、防水ハウジングも発売されていない。
 できればスノーケリングくらいに耐える防水性能、明るいレンズ、なによりも3万以下の価格、という条件であちこち探してみたら、リコーのWG−4とニコンのAW120が候補にあがった。どちらも新製品の出た型落ち商品。
 WG−4はいかにもアウトドアという感じのいかついデザイン、AW120は背広のポケットに入ってても違和感がない普通の外見、と対照的。だいぶ迷ったがWG−4に決定。F2.0という明るいレンズと、2万ちょっとという実売価格が決め手だった。
 池袋のカメラ屋を覗いてみたが、新製品しか置いていなかったため、ネット販売でGPS機能のついたWG−4GPSを注文。GPS機能はどうでもよかったが、なぜか機能付きのほうがちょっと安かったもので。
 WG−4は電池消耗が早いという評判を見ていたので、いっしょに互換バッテリーと互換チャージャー、あとメモリカードを注文。全部ひっくるめて2万5千円程度だった。

 最後の必殺技はネット検索。
 名護や沖縄といったキーワードで名所旧跡を検索、さらにうまそうなレストランや居酒屋も検索してメニューから口コミまで吟味、そしてスマホに沖縄バスガイドや沖縄観光案内などのアプリをインストール。五万分の一地図にそれらの店をマッピングする。
 そこから綿密な旅行計画を立てる。行くところから時間から三度のメシ(行けなかった場合の第三候補までリストアップ)まで厳密に決定した完璧版。
 ま、この半分でも実現したら立派なもんだってことは、わかっちゃいるけどやめられない。

 これらのガイドブックや地図やデジカメやスマホや衣類や用具、それから海パン、マスク、シュノーケル、レジャーシート、ポメラ、着替えのパンツやTシャツや靴下やズボン、タオルやウェットティッシュやこまごました道具をキャリーバッグに詰め込み、職場に有休届を出して出発の日を待った。Tシャツにはむろん日本製はなく、すべてがタイやラオスやベトナムの製品である。そのほうが沖縄っぽいでしょ?

 出発直前にいきなりケチがついた。
 出発の4日前、唐突にスカイマークからメールが。
「あんたが乗るつもりやった、6月14日8時40分発の羽田発那覇行きの便な、あれ空席が多すぎるんでアホらしいんでヤメにしたわ。同日の7時半発か、13時発のもうちょっと込んでる便に乗ってんか。それがイヤやったら乗ってくれんで結構(意訳)」
 直前にそれはカンベンしてよスカイマーク。
 7時半はうちからの交通の便が元々無理。つながりにくいサポートデスク(たぶん担当者がひとりしかいない)に何回も電話をかけて、ようやく9時半出発のJALに振り替えてもらった。めんどくさいけど、9,500円の料金で4万円超のJAL便に乗れるかと思うとちょっとラッキー。

6月14日(日)
 6時半ごろ家を出る。埼京線でそのまま天王洲アイルまで行き、そこからモノレールに乗り換え。けっこう乗り換え距離がある。天気は小雨。百均で買ったキャリーバッグカバーを掛けて傘をさしながら移動。
 8時ごろ羽田到着。スカイマークのカウンターで手続きし、JAL907便、9時30分発の航空券をもらう。JALのカウンターに移動して手荷物を預け、搭乗口へ。ゲートの目の前のフードコートで、羽田空港限定とかいうスカイエールを呑んで待つ。
 予定通り9時半に飛行機は離陸。那覇までのフライトは2時間半。さすがJAL、無料のドリンクサービスがあるのだ。でもビールは遠慮してコーヒーにしといた。
 12時ちょっと過ぎに那覇空港着。天気はやや雲があるものの、おおむね晴れ。さすが梅雨がもう明けた沖縄だぜ。
 那覇空港の4階にある回転寿司「海来」で昼食。さすがに日曜の昼時ということで、15分ほど待たされた。
 ここは真面目なネタよりも変わりネタで有名。写真左はナーベラー(ヘチマ)の握り、海ぶどう軍艦、セイイカの握り。他にもどぅる天ロール(田芋のフライ)やチキナッチョ(カラシナ)握りも頼んだ。
 いちおうちゃんとしたネタもある。沖縄県産魚食べ比べ(マグロ、アカマチ、ブダイ、タマンだったかな)とか。これは一皿千円。石垣牛握りというのもあったが、一カンで千円以上するのでちょっと頼めなかった。だいたい、ちゃんとしたネタは価格高めか、アナゴやエンガワのようにシャリもネタも小さいか、どっちかのようだなあ。
 オリオン生ビールも含めて総額5千円弱。空港のメシとしては安いんじゃないだろうか。それにしてもオリオンビールはうまいな。

創作寿司 県産魚食べ比べ

 2時10分出発のリムジンバスで那覇からホテルへ一直線。高速に乗って1時間半弱で今回の宿、オキナワマリオットリゾート&スパへ到着。まだ旅行シーズンでないせいか、乗客は10人ほど。料金2,100円。
 ロビーでチェックインしようとすると、エグゼクティブのお客様はこちらです、と14階に案内される。
 どうやら弟夫妻は、エグゼクティブルームを予約していたらしい。
 エグゼクティブの特典とは、
・アーリーチェックイン、レイトチェックアウト(どちらも12時)
・エグゼクティブラウンジでビールもワインも軽食も飲み食い無料
・スパの使用料が無料(一般宿泊客は千円)
・ビーチパラソル、デッキチェア貸し出し無料(一般宿泊客は約4千円)
・プールサイドのガゼボバーでのドリンク無料(ただし夏期のみ)
・ナイトリフレッシュサービス(夕方にもういちどベッドメイク)
・無料新聞配達(ただし日経、沖縄タイムス、琉球新報のいずれか)
・アメニティサービスのグレードアップ
・むろん部屋は広くて綺麗
 であるらしい。
 確かにホテルの部屋と見晴らしに関しては文句のつけようがない。

ホテルの部屋 ホテルの眺望

 シャワーを浴びて冷蔵庫のオリオンビールを呑み、すこし落ち着く。リゾートホテルだけど缶ビールが400円ってのはいいね。それにしてもオリオンビールはうまいな。
 6時ごろ、タクシーを呼んで夕食を食いに出かける。
 名護方面へ向かう途中、道の駅許田というところで買い物。6時過ぎでいくつかの店は閉まっているのに、駐車場がほぼ満杯の盛況。ここは全国道の駅コンテストだか人気投票だかで一位になったことがあるのだそうだ。
 とりあえず寝酒用の泡盛小瓶とつまみを購入。
 名護市街地の手前に名護曲レストランがある。ここは沖縄情報サイトによると、沖縄でいちばんメニューの数が多いレストランなのだそうだ。確かに、ソーキそば三枚肉そばテビチそばなどの麺類、トンカツ定食生姜焼き定食ステーキ定食などの定食類、ゴーヤチャンプルやフーチャンプルなどチャンプル類、味噌汁や山羊汁や中身汁などの汁物、スパゲティやオムレツなど洋食、山羊刺やイルカ燻製やウツボ唐揚げなどの珍味類、トウフヨウやスク豆腐や海ぶどうなどつまみ類、なんでもある。
 母親は名護曲定食、私はイルカのニンニク炒め定食を注文。さらに天ぷら盛り合わせと海ぶどうも注文。むろんオリオン生ビールも注文。
 名護曲定食はおから炒り煮、ジーマミー豆腐、ラフテー、昆布イリチー、もずく酢、白身魚味噌和え、ニガナ白和え、味噌汁、ジューシー(炊き込みごはん)など琉球料理小鉢がいろいろなセット。全体的に淡泊めの味付け。中では白身魚の淡泊さと甘めの酢味噌がよく合っていた。ラフテーもよく煮込まれて柔らかでうまい。1,350円。
 イルカニンニク炒めは、白い皮付きの脂肪部がゼラチン質たっぷりのぷるぷる淡泊味、赤身というより黒味といいたいような肉部分はものすごく血なまぐさい味で極端。ううむ、脂肪部分だけ食べてみたいなあ。1,550円。
 天ぷらも山盛りで来てしまったので、申し訳ないが残してしまった。
 オリオン生ビールを頼むと凍結ジョッキに入れてきんきんに冷やしたのを持ってきてくれるから嬉しい。600円。それにしてもオリオンビールはうまいな。
 タクシー料金は、行きは道の駅で待たせたので2,500円くらい。帰りは電話で呼んだのに1,700円くらいだった。なんでも、沖縄ではタクシーは呼んでも別料金はかからないのだそうだ。
 ホテルに戻り、エグゼクティブラウンジでオリオン生ビールとジントニックを呑んで寝る。

名護曲定食 イルカニンニク炒め定食

6月15日(月)
 早起きしてしまったので6時半過ぎに朝食に出かける。
 驚いたことにこの時間で席はほぼ満杯。
 朝食ビュッフェはおおまかに和食コーナーと洋食コーナーに分かれている。和食はご飯粥焼魚ノリ納豆佃煮漬け物味噌汁くらい。洋食はパン各種とサラダベーコンハムソーセージスープなど。別にキッチンカウンターがあり、海ぶどう丼、エッグベネディクト、オムレツの製造配布を行っている。沖縄風のポーク卵やチャンプルーはなかったなあ。もずくとゆし豆腐くらいか。沖縄そばがあったか覚えてない。あとはフルーツケーキ菓子などのデザートとジュース。フレッシュジュースはオレンジのみ。
 今朝はサーモンのエッグベネディクトにしてみたが、オムレツに10人ほど行列ができていたのに対してこっちはすぐ作ってもらえた。早くもエッグベネディクトのブームは終わろうとしているのであろうか。これからはパンケーキの時代か。
 ついでにホテルのコンビニでオリオンビールを補給。ここではオリオン缶が300円だった。

 9時ごろ、ホテルのロビーからかりゆしビーチへ。シャトルバスは随時運行。距離的にはビーチまで500メートルくらい、歩ける距離なのだが、なにせホテルが高台にあるものだから特に帰りはつらい。バスが必須である。
 ビーチのカウンターでパラソルとチェアの札をもらい、ホテルビーチで係員にパラソルを広げてもらい、ホテルで借りたタオルをイスに敷いて寝そべる。あとはだらだらだらだら。
 なにしろビーチは狭く、そして浅く、しかも干潮でどんどん水が引いている。とても大人が泳ぐような深さではない。浜辺で寝ているしかない。
 しばらくだらだらと寝そべり、監視員のお兄さんが区域外でヤドカリを捕獲してビーチの中にばらまき、幼児がそのヤドカリを捕らえて喜ぶさまを眺めたりしたのち撤収。海の家でオリオン生ビールを飲む。この近辺ではどこもオリオン生ビールは500円前後で、ただ量が違うだけらしい。それにしてもオリオンビールはうまいな。
 ビーチのローソンではオリオン缶が225円だった。なんなんだこの価格差は。くやしいので4本ほど買う。

 いちどホテルに戻ってから、ふたたびビーチに降り、南へ道なりにしばらく歩くと、「沖縄一のソーキそば」を誇る「なかま食堂」が存在する。
 なにが「沖縄一」かというと、注文してわかったのだが、ソーキの量である。普通のそばと別皿で、アバラ4本分くらいのスペアリブが、よぉく煮込まれて登場してくる。とてもじゃないがそばの丼に入りきらないので別皿なのだ。そばのつゆは淡泊で、そのままだとあっさりしているが、ソーキを箸で分解して(よく煮込んでいるので箸でほろほろ崩せる)丼に投入するとスープがぐっと濃厚になる。さらにコーレグース(泡盛につけ込んだ唐辛子の調味料)をちょっとふりかけると味が締まってくる。
 一緒に山羊刺を注文。刺身というかぶつ切りの山羊肉を生姜酢醤油で食べる。肉はところどころ筋があって固い。臭いはあんまりしない。皮の部分は昨日のイルカと同じようなゼラチン質で、なにか昔食べたものに似ているような……と考えて、やっと思い出した。ベトナムで食った犬の茹で肉、その皮の部分が、これとちょうど同じようなこりこりした淡泊なゼラチン質だったのだ。
 母親は「そば定食」というのを注文したが、これが沖縄そばあつもり、しかもせいろに大盛り。しかもでっかい唐揚げが4つもついてくるので食べきれなかった。
 山羊刺1,000円、ソーキそば700円、そば定食880円。オリオン生ビールは凍結ジョッキに入ってやっぱり500円。それにしてもオリオンビールはうまいな。

なかま食堂 沖縄一のソーキそば

 なかま食堂近くには、幸福の科学の沖縄正心館なるものが存在する。なんでも沖縄県は、公明党と幸福実現党の得票率が全国トップだとか。現世利益の教えが沖縄になじむという説もあったが、どうなんだろうか。
 なかま食堂からもうちょっと南に歩くと、一部で有名な「おんなのいんぶ」こと、恩納村伊武部ビーチが存在する。
 おんなのいんぶで思うさま身体を動かし、おんなのいんぶに溺れることが夢だったのだが、残念ながら現在、おんなのいんぶは他人のもの。勝手に触ったり覗くことは許されていない。
 しかしたまげたなあ。おんなのいんぶ、この放置プレイは。せっかくのおんなのいんぶが荒れ果てているではないか。手入れもされず、化粧も剥げ、茂みがぼさぼさ、イヤな臭いすらしていそうだ。もったいない。

幸福の科学 おんなのいんぶ

 ホテルに戻り、シャワーを浴びて着替え、コンビニで買ってきたオリオンビールを呑んでうとうとすると、もう5時半。
 きょうは弟夫婦や嫁の両親とホテルで夕食。
 ハウディというアメリカンバーベキューの店。
 牛豚羊鶏(山羊やイルカはなかった)各種の肉とホタテや海老、野菜などを勝手に取ってきてテーブルの鉄板で焼く。
 アグー豚のロース切り身は職員が切ってくれる。
 まあまあの味だったが、なにせ沖縄一のソーキそばがまだ腹にもたれている状態で、しかも鉄板だから網焼きのように脂がしたたり落ちず、肉の脂で胃壁に層ができたような気分になる。ひとわたり食ったところで断念。バーボンモヒートを呑みながらまったりする。この店のみ、オリオンビールもバーボンモヒートも950円。

 なんだか朝から晩まで飲み食いしてばっかりの気分だったので、早々に寝る。夜中に起きてオリオンビール。それにしてもオリオンビールはうまいな。

6月16日(火)
 きょうは早起きして6時半に朝食。今回は海ぶどうの小丼。海ぶどうとマグロぶつ切りの丼に、山かけと海苔佃煮を載せてわさび醤油で食うとうまい。
 7時に弟夫婦と娘、弟嫁の父親と総勢5人でレンタカーで出発。めざすは名護から東海岸にある、東村慶佐次川のマングローブ林。
 8時半に慶佐次川ふれあいヒルギ公園に集合し、カヤックツアー開始。まずは公園でライフジャケットを着こみ、カヌー操作のレクチュアを受ける。
 15分ほどでいざ出発。公園わきの川から2人乗りのカヌーに乗り込み、上流を目指して進む。流れはほとんどなく、ひとかぎすると惰性でしばらく進むのでそんなに体力は使わない。しかし直射日光は容赦なく照りつけ、汗はとめどなく流れる。いちおう日焼け止めを塗り、ユニクロで買った長袖の薄いジャケットで防衛してはいるが、そんなもので防げる日光ではない。
 川の両側にヒルギという、マングローブの主体をなす樹木がびっしりと気根を伸ばしている。その隙間に無数の穴が開いており、大小さまざまのカニが棲息。潮が引いてくるとトビハゼも出現。それらを餌とするカワセミだのアカショウビンだのの鳥類も飛来する。
 500メートルほど上流まで往復して1時間のツアーは終了。たいして力は使ってないと思ったが、終わってみたら腕は震え足腰の筋肉がつりそうになっていた。漕ぐ体勢に問題があったようだ。

カヤック 蟹

 東村といえばパイナップルが有名なので公園の向かいにある直売店に行ってみたが、まだ何もなかった。
 東村の道の駅なら売っているだろうという話。どうやら地元のパイナップルはまだ収穫が始まっていないらしい。
 観賞用のミニパイナップル、買ってみたかったんだがなあ。

 帰りにちょっと寄り道し、古宇利大橋まで行ってみる。
 さすが沖縄随一の大橋、眺望も海の綺麗さも絶品。もっとも姪っ子は、早起きとカヤックの疲れと暑気あたりとドライブ酔いでグロッキー状態。
 弟夫婦と姪っ子を置いて、父親と私で橋を渡ってみる。古宇利島はウニが美味いので有名だが、ウニ漁解禁は7月、しかも評判がとどろき過ぎて乱獲のためここ2年はウニ漁禁止とのことで、島のあちこちの「ウニ丼」の看板だけがむなしく踊っている。

古宇利大橋

 午後もレンタカーを使わせてもらえることになり、急遽弟夫婦姪っ子母親とともに、美ら海水族館向けて出発。
 道の駅許田で水族館のチケットを購入。ここがいちばん安いという評判だったので。大人1,850円のところ1,600円で購入。
 ついでに道の駅で昼食を取ろうと思ったが、ステーキと沖縄そばの両極端、あとタコスとかしかなかったので断念。代わりにかまぼこと天ぷらをいくつか購入。天ぷらは白身魚、イカ、もずくどれも1個50円。かまぼこはエビ天のまわりをかまぼこで巻いたのが150円、もずくかまぼこが100円だったっけな。
 昼食は名護をちょっと過ぎたところにある「ふりっぱー」というステーキレストランで。私は根性で300グラムジャンボサーロインステーキセットを注文。母は150グラムヒレステーキセット、弟はサイコロステーキのランチ、弟嫁はミックスグリルを注文。
 私のジャンボステーキがジャンボなのはまあ当然としても、ランチセットはサイコロステーキの他に鶏唐揚げやポテトフライやスパゲティがてんこ盛り、ミックスグリルときたらファミレスのパーティセットですかというくらい量もバラエティも多い。やはり沖縄はおそろしい。
 ジャンボステーキが2,600円、ランチセットが1,300円。

ジャンボステーキ

 名護から1時間弱走って、ようやく美ら海水族館に到着。
 まず圧倒されたのは敷地の広さと野外の暑さ。へとへとになりながら、ようやく水族館にもぐりこむ。
 沖縄特有のトロピカルな魚を堪能したのち、ジャンボステーキに勝るとも劣らないジャンボ水槽でジャンボなマンタやジンベエザメ、さらにジャンボなカルカロドン・メガロドンの顎骨を堪能する。
 こいつらがあまりにジャンボすぎて、そのあと何の水槽を見ても、「え、ピラルク?最大3メートルか、大したことねえな」「なに、沖縄のオオウナギが2メートル、ヒャー小せえ」と、大小感覚が狂ったまま水族館を見て歩く羽目になる。
 なぜか姪っ子は、巨大なジンベエザメでも流麗なイラブチャーでもなく、深海魚水槽に夢中になり、薄暗い水槽でノコギリザメやナガタチカマスやタカアシガニなど地味な面子が餌を食うところに夢中になり、最後の餌の一片が食い尽くされるまで小一時間水槽の前を離れなかった。
 そのため姪っ子の母親が深海酔いし、イルカのショーは断念して水族館を出る。
 なぜかミュージアムショップで、見てもいないオオグソクムシのTシャツが売っていたので、思わず買ってしまう。

 帰途、私と母親だけ名護の市街地で降ろしてもらい、「宝寿司」へ。
 ちょうど5時半の開店早々だったので誰もいない。
 まずはオリオンビール。脱水気味の身体にビールがしみわたる。それにしてもオリオンビールはうまいな。
 料理はとりあえずグルクンのお造りとシャコ貝の刺身を頼む。
 グルクンはいたみやすいので唐揚げか塩焼きにするのが普通だが、この店では生け簀で活かしたグルクンを刺身に作ってもらえる。おまけにグルクンの握り寿司が一カンついてくる。活かした……なのだよなあ。来た時から生け簀で死んでいる魚がいて、ちょっと気になってはいたのだが。
 ちょっと厚めの切り身は甘みが強く、金目鯛にちょっと似ているが、もっと柔らかくねっとりした味わい。この柔らかさとねっとりさが、「沖縄の魚は寿司に向かない」と言われるゆえんなのかな。もっと薄く切って氷で締めてアライにしてみたらどんなもんだろうかと思う。
 シャコガイの刺身は身がこりこりして甘い。こんなもんかなと思ったら、キモが意外な実力者であった。貝のキモとは思えない、アンキモをちょっと淡泊にしたような味わい。
 さらに瓶の泡盛を頼み、セイイカと島タコの寿司を食う。トータルで5,000円くらい。

シャコガイ グルクン姿造り

 タクシーを呼んでもらってホテルに帰ったのが8時ごろ。
 そろそろパンツとシャツが払底してきたのでなんとかせねば。
 ホテルのスパに行くついでに、横のコインランドリーで洗濯。
 スパは各種ジャグジー風呂とサウナがあるが、サウナは遠慮して、ジャグジーで疲れた身体をマッサージするのみとしておく。
 スパから戻ったらちょうど洗濯が終わっていたので、下着を乾燥機にぶちこんで1時間セットし、ホテルから歩いて10分ほどの居酒屋「海風よ」に出かける。
 もう10時過ぎで閉店間際なので、客は誰もいない。
 海ゴーヤとかいうけったいな海藻は品切れだったので、泡盛と島らっきょう天ぷらを頼み、猫と遊ぶ。
 呑んでからホテルに戻ったら、衣類は乾燥していた。

6月17日(水)
 朝起きて8時半ごろ朝食にでかけたのはよかったが、そこであまり飯を食う気になれず、ジュースとクリームでお茶を濁そうとしたあたりから気分が悪くなってくる。
 部屋に戻って吐いてから、昼すぎまで寝込む。
 体調を崩したのは、昨日のハードスケジュール、野外と室内の激しい寒暖差、睡眠不足、泡盛の飲み過ぎなどの要因がありそうだ。

 昼過ぎ、やや体力が回復したので路線バスの旅に出立する。
 出発地点はいんぶ。
 12時43分の定時より5分ほど遅れてバスが来る。
 沖縄のバスはオンボロと聞いていたが、ちゃんと冷房もあるし、行き先表示の液晶板もある。
 ただしアナウンスは遅れがちで、バス停過ぎてから「次は○○です」のアナウンスをすることもちょくちょくあるので、気をつけてないと乗り過ごす危険性がある。
 1時過ぎ、名護城入口に到着。運賃490円。
 バス停のちょうど真ん前に名護名物のひんぶんガジュマルがある。
 そこから北に5分ほど歩いたところに、オリオンビール工場がある。

ひんぶんガジュマル オリオンビール工場

 工場の横の、オリオンハッピーパークで、見学の受け付け。
 1時25分から15人ほどで見学開始。
 残念ながらいちばん楽しそうな瓶詰めのラインがメンテ中で動いてなかったが、写真撮影自由なのがいいね。
 オリオンビールの出荷は、瓶が全体の10%、缶が60%で、樽が30%なのだそうだ。
 樽がえらく多いなと思ったのだが、考えてみれば樽は個人用のむかし流行った「2リッ樽」とかではなく、飲食店でジョッキやグラスに注ぐための業務用なのだな。
 見学は1時間ほどで終了し、あとは試飲。チケットをもらい、オリオン生、夏限定のオリオン夏いちばん、つまみのオリオンナッツをいただく。
 それにしてもオリオンビールはうまいな。その中でも、やはり工場のビールはうまい。オリオンは泡がクリーミィで繊細だし、夏いちばんはホップの苦みがきいてほろ苦さがいい。

オリオン缶ライン 試飲

 オリオン工場の隣に名護博物館がある。
 1階にはこれ展示なの?という感じで、沖縄のオオウナギ、リュウキュウヤマガメ、アカマタなどが飼育されている。
 2階は民族考古学的展示。名護がかつてクジラ・イルカ漁で栄えたことを反映し、漁に使う銛や船の模型、さらには各種鯨類の骨格や模型が展示されている。イルカ料理各種のサンプルもあった。
 そんな中、私の少年時代はよく見かけた公衆電話の陳列をみつけていささかショック。私はすでに博物館的年齢であったか。

 昼飯は近所の山羊料理屋で体調を復活させよう、と歩き回ったが、名護の飲食店はほとんど閉まっている。
 スマホで確認してみたら、ありゃ、名護に数店ある山羊料理屋はみんな夕方からの開店じゃないか。
 ううみゅ、市役所の方角に歩きながら店を物色してみたが、昼から開いている飲食店がない。
 ちなみに名護の市役所は斬新なデザインで有名。フィリピンの米軍バラック遺跡かタイの高層ビル残骸か、はたまたレゴブロックかという感じの外見。穴だらけで風通しが良いらしいんだが、近寄ってみるとどこにも日陰がないという欠点も有している。

ピンクの電話 名護市役所

 諦めて市役所前から名護バスターミナルまでバスに乗る。160円。
 そこから3時45分発、東海岸線のバスに乗り換え。このバスは名護から沖縄東海岸の辺野古、宜野座、金武、沖縄を経由して那覇へ向かう。
 私は第2辺野古で下車。名護から20分ほど。560円。
 辺野古の米軍海兵隊基地、キャンプシュワプでは毎日、米軍基地の辺野古移転に反対する住民と、海域調査を強行する米軍日本警察が衝突していると聞いていたが、そこまで殺伐とした雰囲気は感じない。キャンプシュワプの入口には日本人の警備隊員(警察だと思う)が10人ほど、道路をへだててその反対側には反対派のすわりこみ抗議のブルーシートが数軒並んでいる、その程度。肝心の米兵は、キャンプ敷地を歩く姿を2、3人見かけただけ。まあ、誰だってこの炎天下に身をさらしたくはないわな。あとは軍用車らしきカーキ色の車両が数分間隔で出入りするのみ。
 昼下がりのへのこは元気がねえなあ。
 あとで新聞で読んだのだが、反対デモは朝7時に行われたのだとのこと。そらそうよ、なんでも朝の涼しいうちにすませといたほうがいいわな。

すわりこみ抗議 キャンプシュワプ

 そこから5分ほど歩いたところにあるキャンプシュワプの第2ゲートには、もはや誰もいない。こちらは民間人の出入り業者などの出入り口なのだろうか、軽トラックやバンだけが出入りしている。
 キャンプシュワプのゲートの看板が、なんとなくアウシュビッツの「労働すれば自由になれる」の看板みたいだった。
 第2ゲートのちょっと先からは、辺野古の海でなんかやっている米軍だか日本軍だかの船が見えた。

辺野古沖 第2ゲート

 5時7分のバスで名護市街地の外れの世冨慶まで戻る。よふけ、と呼ぶ。
 そろそろ6時。ホテルに戻ってシャワーをあびて、7時過ぎに飯でも食いに行くか。
 バスが来るまで時間があるので、かねひでという地元スーパーに寄ってみる。
 ここは安いね。オリオンビール350ミリが6缶で1,029円だ。発泡酒じゃないよちゃんとしたビールだよ。スパムと呼ばれてるポーク缶は、スパムこそブランドイメージで300円を超えているが、チューリップなら180円、セレブリティとかいう聞いたことのないブランドも同じくらいの値段だ。ああ、沖縄で暮らしてえなあ。
 そしてよふけからいんぶへのバスにのりかえようとしたのだが。
 バス停に来たバスに何の迷いもなく乗り込んだのだが、なんだか様子がおかしい。バスの中は暗く、なぜかみんな大荷物を抱えている。走っている道路がなんか来た道とは違う。高速道路に乗っているかのようだ。
 運転手に確認すると、かのようだではなく実際に高速道路を走っているのだとのこと。このバスは那覇行き高速バスで、次の停車は宜野座インターだとか。うひゃあ。
 とりあえず宜野座インターで600円払って降りる。さてこれからなんとしよう。
 もうバスの旅に疲れたので、タクシーを拾ってホテルに戻ろうと考えたのだが、タクシーなんて影も形もない。
 近くに見えたコンビニまで行って、お茶とおにぎりを買い、店員にタクシー拾えるような道はないかと聞くと。
「この先にココストアがありますが、そこにタクシーが停まってることがたまにありますね。このへん、タクシーはほとんど流れてないんですよ」
 コンビニの前のバス停の時刻表だと、6時20分、あと10分ほど待てば名護行きのバスが来る。あてにならないタクシーを探してバスに乗り損なうより、確実なバスを待とう、そう判断してバス停で待ったのだが、そのバスが不確実だった。
 いつまで待ってもバスは来やしない。時間を10分過ぎても20分過ぎても来やしない。30分過ぎても40分過ぎても来やしない。
 結局、バスが来たのは、7時10分ごろだった。
 ちなみに待っていた1時間あまり、宜野座の道路には一台のタクシーも通りがからなかった。
 どうやら沖縄で流しのタクシーが拾えるのは、那覇や名護のような一部の繁華街のみで、あとは呼び出すしかないらしい。だから沖縄のタクシーは迎車料金が無料なんだな。

 ようやく世冨慶まで戻ったのが8時前。もはやホテルまで戻る気になれない。
 母親に電話して、ホテルからタクシーで5分くらいの喜瀬まで来てもらい、喜瀬のおBARという店で待ち合わせる。
 私はいんぶの手前の喜瀬に直行。360円。
 これにて波瀾万丈なる沖縄中部路線バスの旅は終了。
 おBARはリゾートホテル御用達の居酒屋レストランといった感じの店で、まだ観光シーズンでないため、客は他にひとりもいない。
 ここの名物、アグー豚せいろ蒸しを注文。ラフテー温泉卵添えも注文。紅芋天ぷらも島らっきょう塩漬けも注文。むろんオリオン生ビールも注文。それにしてもオリオンビールはうまいな。疲れきった身体にしみわたる。
 せいろ蒸しはアグー豚の薄切り、白菜、島にんじん、パパイヤなどをせいろで蒸して、ごまだれかポン酢でいただく。脂の抜けた豚肉と、ほどよく脂がしみた野菜がうまい。
 ラフテーも柔らかく煮込まれ、味がよく染みていてうまい。それにしても沖縄のいろんなところでラフテーを食ったが、まずいラフテーは食ったことがない。どこか沖縄情報サイトで、「不味いラフテーを求める旅」でも特集してくれないだろうか。
 島らっきょうはエシャロットやノビルに似ているが、それほど辛味はない。わりとあっさりしている。
 紅芋天ぷらはいちどふかした芋をつぶしてから整形して揚げたらしい。ちょっとお菓子っぽい味。
 さすがにこの後はなにもする気になれず、タクシーでホテルに戻り、11時ごろ就寝。

ラフテー アグーせいろ蒸し

6月18日(木)
 6時ごろ起床し、荷造り。
 8時ごろ朝食に降りる。きょうはノーマルタイプのエッグベネディクトとクロワッサン、オレンジジュース。このホテルのバターは特製のシークワッサー味や島マース味、紅芋味などあるんだが、どれも甘い。ふつうのバターがいちばんよかった。
 あとは荷造りしたキャリーバッグを宅配便に預ける。埼玉に届くのは3日後の21日とのことで、やはり沖縄は遠いんだな、と思った。
 ついでにおみやげ用のブルーシールアイス詰め合わせを職場宛に宅配便注文。これ、ホテルで頼んでもブルーシールの店で頼んでも、同じ値段なのだな。
 エグゼクティブのカウンターで精算。総計約14万円。朝食つきでひとり1万6千円の計算だな。まあ、シーズン外だからこの金額だったのだろう。

 10時10分発のリムジンバスで那覇空港に直行。乗客は20人ほど。2,100円。
 那覇空港で母親のカバンをロッカーに預け、ゆいレールというモノレールに乗る。
 空港から3駅めの奥武山公園で降りる。
 ここから橋を渡って10分ほど歩くと、あの一部で有名な漫湖公園があるのだ。
 おんなのいんぶ、へのこを見てきたのだから、やはりここでまんこも見ておかないと片手落ちというものだろう。
 しかし暑いな。リムジンバスに帽子を忘れて無帽だからなおさらだ。

漫湖公園 ちょうちょガーデン

 まんこの中には蝶々の舞い飛ぶちょうちょガーデンがあるという。
 母親は完全にグロッキーになって公園の入口でへたりこんだため、ひとりでまんこのなかをあちこち手探りする。
 テニスコートと駐車場を越えた先にちょうちょガーデンがあった。
 中に入ると沖縄特産の日本最大のチョウ、オオゴマダラが5羽ほど飛んでいる。他にアゲハやタテハ、キチョウもいた。
 オオゴマダラの幼虫もあちこちで飼っていた。残念ながらサナギはなかった。

オオゴマダラ幼虫 オオゴマダラ成虫

 暑さで完全にへたばったので、まんこの前に折良く停まっていたタクシーを拾い、那覇の有名な公設市場へ行く。
 昼過ぎのせいか人は多い。噂の通り、韓国人や中国人の声が多く聞こえる。
 野菜フルーツ肉干物といった商品街を通り過ぎ、鮮魚コーナーへ。数店は閉まっていて、営業しているのは5軒ほど。たぶん沖縄人用の売るだけの鮮魚店は昼前に営業終了していて、いま開いているのは観光客用に売った魚を2階で調理する店だけなのだろうな。
 さてその店で幻のヤシガニを探そうと……したら、ぜんぜん幻じゃないやい。
 どこの店にもプラケースに入ったヤシガニが並んでいて、中にはわざわざ「ヤシガニあります」と貼り紙をしている店まである。ひょっとしてあれか、いま沖縄じゃヤシガニブームなのか。
 適当な店でいちばん小さいヤシガニを見繕ってもらう。甲長10センチくらいの小物が3,900円。あとアカマチという、美味だと評判の赤い魚を2,000円で購入。ヤシガニは蒸して、アカマチは半身刺身、あと半分は塩焼きで。
 二階に上がり「きらく」という店のテーブルに案内される。1時は過ぎていたがまだ混んでいて、韓国人カップルと相席。とりあえずオリオン生ビールと、あと海老焼きそばを頼む。それにしてもオリオンビールはうまいな。
 オリオンビールを呑みながら焼きそばをつついているうち、まずアカマチの刺身が到着。厚めに切った刺身は、ちょっとぐにょんとしていて甘みがある。味はともかく、このぐにょんとしたところが先日のグルクンと同じだなあ。沖縄魚アライ待望論。広島のツライさんではないぞ。
 やがてアカマチの塩焼きと、真打ちのヤシガニが登場。
 爪や足の身をほじくってポン酢でいただく。身はカニより淡泊で、あまり味がしない。
 それよりカニミソが美味かった。普通のカニのような泥臭さがまったくなく、ただしきりに脂っこい。ヤシを食ってるせいなのだろうか、ちょっとナッツの味わいがする。アンキモとクルミをすりつぶしてあえ、オリーブオイルを混ぜたような、という感じだろうか。脂っこさはすごいよ。カニミソの下に黄褐色の油がべったり残っていた。
 韓国人カップルが帰って、空席に相席で来たのは中国人の若者4人組だった。江青とは関係ない礼儀正しい若者だったよ。

ヤシガニ(生前)とアカマチ ヤシガニ(死後)

 公設市場を出てから国際通りをうろうろしようと思ったが、この暑さじゃねえ。
 国際通りには落ち着けるようなカフェが少ない。ようやくイタリアントマトをみつけて駆け込み、アイスコーヒーで一服。
 30分ほど休んで人心地ついてから、物産店でニンジンシリシリ器など購入し、ゆいレールで空港に戻る。
 空港で大東島名物というサワラのヅケ寿司を購入。家に帰ってから食ったのだが、ヅケも沖縄魚を寿司に活かす道かなあと思ったのだ。柔らかく淡泊なサワラがヅケになって寿司に調和している。
 スカイマーク518便は5時10分に予定通り離陸。
 飛行機の中の飲食は有料だが、そのほうが気兼ねがなくていい。一番搾り250ミリ缶とナッツで200円。私は、ナッツを皿にあけろとかヤボなことは申しませんよ。
 7時半ごろ羽田着。羽田の気温は22度。沖縄とはちょうど10度違うなあ。
 8時15分のリムジンバスで大宮まで行き、そこから家に戻った。
 家に帰ってから気づいたのだが、キャリーバッグに掛けたカギをどこかになくした。
 どっとはらい。


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