ウシク大仏ツアー

 ひょんなことから私、ぽいう、砕天、くたの四者が大阪を訪れ、ういろうくろ(ページはリセット中です)りんどんの大阪勢の歓待をうけた春の大阪ツアー(4/14-15)。今回は第二弾、逆に大阪人が東京を訪れ、関東名所を見て回る大阪人迎撃企画です。
 日曜の昼に東京駅の銀の鈴集合。くろ、りんどん、ういろうの大阪陣営はすでに到着し、砕天、くた、ぽいう、かずみやちょあびの関東勢もおいおい集合。しかし最後の一員、kasumiさんだけがなかなか来ません。電話連絡をとろうとするが、この待ち合わせ場所、電波が届かず圏外なのです。使えないなあ。おまけに全員がkasumiさんとは初対面で、顔を誰も知らないのです。
「わざわざ大阪から来たお客様を待たせるとはええ根性しとるのゴルァ」
「いっぺんシメたらなあかんなゴルァ」
「ひょっとしたら来ているのかも」
「顔がわからないからなあ」
「誰かイエローページ頭に載せろ。それかじゃばこのかぶりものだ」
「どっちも持ってませんよ」
「目印がなくても、こんだけうさんくさい雰囲気の集団だ、わかるだろう」
「kasumiさん、恥ずかしがっとんのかもしれんで。こっちから読んでみたろ。おおい、kasumiさーん、kasumiさああぁぁぁん、ぽいう牛久ツアーの出発でっせぇ! kasumiさあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 りんどんさんが大声を張り上げるも、返ってくるのは東京人の冷たい視線のみ。
 あとでわかったのですが、kasumiさん、待ち合わせを一日間違え、そのころはコミケでのほほんと巫女さんのコスプレなんぞしておったそうです。それでも一瞬、鋭い毒電波を感じ、首筋がひやりとしたとか。
「あれでアトピーが悪化しました。ちょうど巫女だったので、印を切って式神を飛ばそうとしたのですが、電波のタチが悪くて」
 と笑って語っておりました。

 やむなくkasumiさん抜きで月島へ移動した一行。月島はもんじゃの街ということで、駅前にもんじゃ案内所ができて係員が割引券付きパンフレットを配っているくらいの力の入れ方です。
「ところで、どの店に行くの?」
 ツアー企画担当者のくたさんに尋ねます。
「えっと、電話したんだけど、お店がお盆休みだって〜」
 いきなりの爆弾発言に、大阪勢は
「どういうこっちゃねんゴルァ」
「なめたこと抜かしとったらいてまうぞゴルァ」
「ここでツアーとお前の人生終わらせたろかゴルァ」
「大阪南港かてお台場かて、海でつながっとんやで。沈めるもんは一緒やでゴルァ」
 などと暖かいなぐさめの言葉をくたさんに掛けます。
 これで元気の出たくたさんは、涙を浮かべながらも気を取り直していきあたりばったりの店にとびこみ、みごと役目を果たしたのでした。もっとも動揺していたのか、その後も手が震えてもんじゃの容器をとり落としたりしていましたが。
 もんじゃ焼きはご承知のように、具を先にいためて土手を作り、そこに汁を流し込んでゆるゆると作るもの。というのは店の説明書きではじめて知ったのですが。これを小さなヘラでこそげながら食べるのですが、なにしろ大阪人はいらちです。
「もっとガーっと食われへんのかい」
「お江戸の食いもんはかったるいのぅ」
「ええかげんにせえよゴルァ」
 などと大阪勢の喜びの声が寄せられ、ういろうさんなどはフライ返しでもんじゃにまるごとかぶりついていました。

 メシを食ったら、いよいよ東京名所、東京タワーです。
 しかしここでも問題発生。お盆休みということで、東京タワー展望台へのエレベーターには長蛇の列。ここでもいらちの大阪勢は、
「わしらにアレ並べちゅうのかゴルァ」
「なめたこと言っとったらいてまうぞゴルァ」
「冗談もたいがいにせんと首が台から離れるぞゴルァ」
 などと大反響。けっきょく展望台はあきらめ、蝋人形館を見学するにとどめました。先週はなかった三船敏郎がジェームスディーンの隣に登場していたのは、侍魂効果なのでしょうか。りんどんさんはなぜか、隣の忍者ショップで小判を買い込んでいました。あれで女郎を買うつもりかもしれません。

 最初の予定では、東京タワーからバスで目黒の寄生虫館まで移動する予定だったのですが、停留所を探すくたさんにまたも大阪勢から激励の声が。
「停留所くらいあらかじめ探しとかんかいゴルァ」
「ワシらを歩かせるつもりかゴルァ」
「ええかげんなことしとったら後ろから刺すぞゴルァ」
「もおええわい! 車呼べやクルマ!」
 ということで、タクシーで移動することになりました。
 寄生虫館でも大阪勢は元気です。
「なんじゃこれ、むっちゃ気色悪いわ」
「うわ、これ見てみ、キンタマでろーんやで」
「いやー、サナダムシと同じ長さの紐やて、ちょっとあんた、こっち持っとき」
「ひゃー、Tシャツにサナダムシ貼りついとるで。こんなもん買う奴おんのかいな」
 などと言いながら、みんなで立体サナダムシTシャツを買っているところなど、大阪勢は意外と素直なのかもしれません。

 夕食まで時間があったので、寄生虫館から目黒不動に寄り、ゆるゆると歩いて目黒駅に戻ることにしました。目黒不動には青木昆陽と北一輝の碑があったのですが、なぜか北一輝の碑だけは閉鎖されていました。
 それはいいのですが、お不動さんから駅に帰る道でも大阪勢大ブレイク。
「まだ駅ちゃうんかいゴルァ」
「おい、なんぼ歩かせるつもりやねんゴルァ」
「ワシらを歩き殺すつもりかゴルァ」
「今すぐタクシー呼んでこい。でなかったらしばいたるぞゴルァ」
「あと百メートル以上あったらどつき倒したるからなゴルァ」
 などの暖かい励ましのおかげで、くたさんはいつもの三倍のスピードで、何者かに追われているかのように走っていました。

 さてようやく目黒駅に着き、予約していた居酒屋で会食。
 しかしここでも大阪人の魔の手は伸びる。
「なんやこのメニューは? 谷中ショウガ? ゴルァ、この店じゃ生のショウガ客に食わすんけ? 鯨を出せ鯨の尾の身!」
「ちまちましたメニューでかったるいのぅ。ゴルァ、おすすめの品、上から全部持ってこい! そんでくそまずいのがあったら寄生虫館のホルマリンに三日三晩漬け込んで蝋人形館に展示したるからなゴルァ!」
「くぉら! この店じゃ生ぬるいビールで金取んのかゴルァ!」
 そのとき天啓のように現れた一匹の虫。大阪人の一員であるういろうさん、このゴキブリを見るや悲鳴を上げて逃げまどう。そのおかげで大阪人の戦力が三分の一削減されました。
 そのあと、くたさんが駅前でゴキブリのビニールオモチャを買い、「護身用に」と呟いていたのは秘密です。

 まだ時間が早いので、カラオケボックスに入ったのですが、ゴキの恐怖も薄れたういろうさん完全復活。大阪人トリオは、またも猛威をふるいます。
「何しんきくさい歌うたっとんじゃゴルァ!」
「そんな清純派ぶりっこしとる陰で、男食いまくっとんやろがゴルァ!」
「わしの順番が回ってこんやんけゴルァ!」
「下条、お前ダメな奴やねんから、『踊る駄目人間』歌わんかいゴルァ!」
 ええ、歌いましたよ、私だって生命が惜しい。
 そのかげでこっそり目立たないように、Pさん(仮名)があびさんへのセクハラ行為にいそしんでいたのは有名な話です。

 ここで人生をまだ捨てたくないかずさんとあびさんはお帰り。そして残された者どもは、いよいよ牛久のぽいう邸へ。
 いや聞いてはいたのですが、茨城県ってすごいね。駅に降りたとたん、一面の平野。いちめんのすいでん。だだっぴろい。地平線が見えます。
 むかしこの地方には佐竹氏という、負けてばっかりの大名がいまして、ひそかに馬鹿にしていたのですが、これじゃ無理ないや。
 たとえば私の田舎の美作は山ばっかりなので、ここに城を建てて、ここで軍勢を迎え撃って、などというシミュレーションができるのですが、茨城は一面の平野。どこに城を建てるやら、軍勢をどこに集結するやら、どこから敵軍がやってくるやら、まったく見当がつきません。こんな地形では大名は育たないよなあ。
 ちなみに佐竹が徳川家に負けて秋田に追放されてから、牛久には山口氏というちっぽけな大名がやってきました。大内義弘、織田信長、柴田勝家、佐久間信盛、織田信雄、徳川家康と、仕えた大名だけは超一流の山口氏は、家康に一万五千石というちっぽけな領地をもらって、幕末まで飢饉や一揆が起きながらもつつがなく家を保ちました。むろんそれは徳川幕府のご威光で、山口氏の力ではありません。
 大阪勢もこの平野には気を呑まれたのか、
「なんじゃこりゃ、生駒さんが見えんやんけ」
「なんか平原って気色悪ぅ〜」
「なんやヘリコプターで農薬散布してそうやな」
 などと呟くのみでした。
 その晩は酒を飲んで大貧民をして、おとなしく寝ました。

 一夜あけると大阪勢大復活。
「ハラ減ったぞ! メシ食わせぇ!」
「カップヌードル? 何しんきくさい事抜かしとんねん。肉やニク!」
「ふざけたこと抜かしとったらキサマの額に『にく』と書いたるでゴルァ!」
「そや牛肉や! 牛丼しばき倒したろやんけ!」
 ということで牛丼屋へ。ういろうさんは朝からカレーセットと牛丼を食べてました。卵も二つとって、ひとつは生で呑んでいました。「これから一発やらかしたるでぇ〜」という精力絶倫な社長さんみたいでした。

 そして牛久大仏へ。
 車を走らせていると、だしぬけに森のむこうに姿を現します。びっくりします。このへんは事故が多いらしいです。ホトケサマがそんなことでいいのか。
 近づくにつれ、大仏はますます大きく見えてきます(当たり前だ)。百二十メートル、世界最大だそうです。奈良の大仏なんか掌に載るそうです。孫悟空とお釈迦様の縮尺と考えればいいのでしょうか。
 構内は至れり尽くせりで、随所にわかりやすい説明があります。大仏前に大仏の頭のミニチュアがあって、その横に螺髪というのですか、頭のぐりぐりの実物大が展示してあります。なんか妙です。その他にも「この端は南、無、阿、弥、陀、仏と、六足でお渡りください」の掲示と、ご親切に足形まで描いていたり、「ここから見上げると大迫力です」と矢印があったり。ホトケが迫力があってもいいものなのでしょうか。
 だいたいここは売店からヘンです。なぜかレーガン元大統領の銅像が店の前に鎮座して、しかもそいつが「わてがレーガンだんねん」と喋っていたり。なぜ大阪弁だレーガン。大阪勢の毒電波か。
 さすがに大仏の迫力に負けておとなしめの大阪勢ですが、レーガンの助勢に元気が出たか、真面目におがんでいる人の横で、
「こら宗教ちゃうで。大仏ちゅうても、奈良の大仏はんと、この大仏をいっしょくたにしたらあかんで」
「そやそや。こら宗教施設ちゃう、テーマパークや」
「あの頭の中に操縦席があるねんて絶対」
 などと大声で喋りあい、周囲の人に渋面をつくらせていました。
 しかし確かに、この大仏ランド、真面目に信心しても御利益があるのかね。疑問に思います。願い事を書いたお札がいろいろなところにぶらさげているのですが、
「おとうさんがかえってきますように。みか」
「裕美子が心身共に健康になりますように」
 などという切実な願いを見るたびにそう思うのでした。
 大仏の中身はあえて書きません。阿弥陀如来の精神をハイテクで表現した傑作です。いちど登ってみることをおすすめします。

大仏の固き右手に撃たれればわれ平和裡に御陀仏ならむ
             虎玉

 大仏のうしろに「ふれあい小動物公園」なるものがあって、リス、ウサギ、プレーリードッグ、ハムスター、ヤギ、リスザル、モモンガなど展示していました。ハムスターは希望すれば無料で分けてくれるようです。ぼんやり見ていると、子供が選んだハムスターを係員は牛乳の紙パックに放り込み、ガムテープで蓋をして、
「これで三日くらいは大丈夫ですよ」
 と手渡ししていました。大丈夫なのか。

 ここでようやく、音信不通のkasumiさんと連絡が取れました。前述したとおり、今日の待ち合わせだと思っていたらしいです。しかも今日も、東京駅に行かなかったらしいです。家からの電話でした。
「だって……朝、気がついたんですよ。でも、そこで慌てちゃお父さんに『約束を破るなんて人間じゃない!』って怒られるんで、なんでもない振りをして、ほとぼりが冷めたころ、こっそり家を出ようと思って」
 われわれに怒られるのはかまわないんでしょうか。横で大阪勢が、
「わしらもナメられたもんじゃのう」
「いけんのう。これが遠来の客に対する礼儀なんかのう」
「いっぺん、グスッとも言えんようにせにゃならんのう」
「人間じゃないようにしたらないけんのう」
 と、なぜか広島弁になって喋っているのですが。

 というわけで上野へ急行。いや乗ったのは鈍行でしたが。
 しかしはじめて気づいたのですが、東京と上野では、売っている土産も違うのですね。たとえば人形焼き。東京ではやたらに見かけるキティちゃんの人形焼き、上野ではまったく売っていないのです。こち亀人形焼き、サザエさん人形焼き、寅さん人形焼き、ピカチュウ人形焼きはあるのですが。中にはアンパンマン人形焼きという、おまえ何者だ、と言いたくなるようなものもありました。
 ここでようやくkasumiさんとめぐり逢い。ああ、涙の初対面。でも大阪勢にドツかれたりしてましたが。
 なにしろ時間がありません。新幹線の発車まで、あと一時間足らず。とりあえず東京駅の駅前にあるパーラーでビールを飲むだけでした。
「東京じゃおちおちビールも飲む暇がないんかいゴルァ!」
「今度は大阪に来んかいゴルァ!」
「kasumi、てめえは一時間前から待っとるんやでゴルァ!」
「来ぇへんかったら喉から手ぇつっこんで内臓ごとサナダムシ引きずり出したるからなゴルァ!」
 と涙の別れで、大阪勢は去っていったのでした。ほっ。

 大阪勢が帰ってから、ゆっくりと飲み直し。
 有楽町でビールやら日本酒やら泡盛やらを飲みながら、kasumiさんが巫女さんのコスプレをした話やらサクラ大戦のコスプレの話やらドロワーズの作り方講座やらアンミラでバイトした話やらアンミラでのイヂメの話やらをまったりと聞いていました。酔いが回って居眠りしていたみやちょさんが、「アンミラ」という単語を聞いたとたんぱっちりと目を覚ましたのはとても不思議でした。そして男三人、kasumiさんとくたさんの胸元をじっと見つめて
「……違うなあ……」
 と正直すぎる意見を吐いておりました。そんなに正直ではいけません。
 それにしてもみなさん、大阪勢が撤退して気がゆるみすぎたのか、くたさんは鍵を落としぽいうさんは財布を落としみやちょさんは酔いつぶれ、私は自宅に帰りついてからこんこんと十五時間の眠りをむさぼったのでした。


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